ふたりの休日

 ランナーといえど自由時間というものはある。大会の翌日、私たちはちょっと遊ぶ約束をしていた。


 駅前のショッピングモールの前、時間は午前10時。しばらく待っていると、遠くから彼女が小走りでやってくるのが見えた。


 白いロングスカートに緑のタートルネック。幼い容姿を気にする彼女が、できるだけ大人びて見えるよう選んだのがよく分かった。


 可愛らしい容姿と、キレイ系の服装と、体幹のブレない堂に入った走り方が、なんだか妙にちぐはぐで笑ってしまう。


「おはよ、サキ」


「おはよぉ。あれ、また身長伸びてない?」


「あ、バレた?」


「いいなぁ」


 確かに身長はすごく伸びた。そろそろ成人男性の平均を抜かす。


 彼女とは昨日も会ったのに気づいたのが今更なのは、きっと大会の日はマラソンのことしか考えていないからだろう。


「映画、何時からだっけ?」


「えぇっとぉ、確か2時からだよ」


「じゃ、まず服でも見よっか。そのあとお昼食べてから映画で」


「うん、そうしよぉ」


 のんびりと間延びした話し方は、彼女に似合っていて可愛い。


 立ち並ぶ服屋を冷やかしながら、適当なおしゃべりをする。マラソンの話だけは絶対にしない。私たちが対等な友達でいるには、マラソンでの力の差を忘れておかなくてはならない。


 私はあまり服に興味がない―――しかも、身長的に選ぶ余地も少ない―――ので、必然的にサキの服を見て回ることになる。


「これどうかなぁ?大人っぽく見える?」


「……そっちの赤いのの方が私は好きかな」


 私は上手く笑えているだろうか。彼女の友人をきちんとやれているだろうか。


 どこかこの状況を俯瞰して見ている自分がいる。ソレは私に囁く。


 お前はそんなことをしている場合なのか、彼女に勝ちたいなら遊んでる場合じゃないだろう。ほら、目の前の彼女が憎いんだろう―――


 拳を強く握って雑念を振り払う。


「そろそろお昼にしようか。何にする?」


「うーん、せっかくだし回転寿司とかかなぁ」


 彼女との時間は過ぎていく。


 映画館に入って、二人で並んで映画を見る。007シリーズの最新作だった。正直つまらないが、サキは楽しそうにスクリーンに見入っている。


 横顔を見ながら思う。私はなんでこんなことをしているのだろう。


 私は一位になりたい。なら、こんな映画を見ている場合ではない。サキと馴れ合っている場合でもない。


 なんで、サキと友達なんてやってるんだろう。


 視線に気づいたのか、サキがこちらを見る。どうしたの、と問いかけるように首をかしげる。


 なんでもないよ、と笑いかけて、スクリーンの方を向く。


 鬱屈したものはしまいこんで、いまは彼女から一人の友人を奪ってしまわないように振舞わなければならない。


 スクリーンでは、三代目だか五代目だかの俳優が演じるジェームズ・ボンドがカーチェイスをしていた。


 ああ、こいつが辞めてもまた代わりが出てくるんだろうな―――と、冷めた気持ちでスクリーンを眺めた。

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