第7話  強襲科

 自分の専用魔器装を持つためには、まず代表候補生にならなければならない。

 代表候補生になる方法は不明だが、勇斗のように別の国籍でも問題なく?なれるようなものなのかもしれない。

 魔器装には適正があるため、たとえ代表候補生になったとしても直ぐに持てるというわけではない。中学に入学する時に申請すれば適性を無償で調べられる。勇斗は申請していなかったが、一体どのようにして適正を調べたのだろうか。


 理事長室の前に立ち、身なりを確かめる。

 ノックをして、中に入る。

「よく来てくれたね。本来は私が君のところに向かうべきなのだが、理事長の私が安易に出歩くことは生徒に要らぬ心配をかけてしまうから、ここに来てもらった」

 経緯を説明すると、本題にすぐ入る。

「本題だが、君の魔器装がヴァリトから先刻届いた。ついては君に早急に渡すことになっているから、君を呼んだのだ。これを受け取りなさい」

 理事長の指した机には、風呂敷に包まれた魔器装が鎮座している。

 結び目を解くと、一振りの太刀が姿を現した。

「〈凍桜とうおう〉太刀型の魔器装だ。君なら扱えると先方から聞いている」

「そうですか」

 凍桜と呼ばれた太刀は鞘に収められていて、刀身を見るために抜刀しようとしたところを理事長に止められる。

「そろそろ授業も始まる時間だ。強襲アサルト科棟に行きなさい」

 授業が始まるから、遅れないようにと話を切り上げる。

 退室すると、手に持ったままの凍桜を腰のベルトに差し専門棟へと向かう。

 こいつが俺専用の魔器装か。誰が俺を代表候補生に推薦したのか。どうして俺なのか。

 まだ転校して間もないのにもかかわらず、専用の魔器装を準備しているとは。


 この広い敷地の二割近くを占める専門科棟群。他の専門科棟より一回りほど小さく外壁にヒビや剥がれがある建物が強襲科の学科棟。

 経年劣化という感じではなく、なにかしらの衝撃などを受けてボロボロになっているような気がする。


 強襲科棟の前に着いた。

 専門棟の前で数人の生徒が足止めをされていた。その中にイヴァンはいなかった。

「風紀委員が抜き打ちで持ち物検査をしていて、入る前に止められて持ち物確認をしているんだ」

 近くにいたクラスメイトが勇斗に気づくと、状況を説明する。

 校内に何かやばいモノ持ち込んだ生徒がいたのだろうか。

 一般人の目線で見るなら、魔器装を所有しているだけで十分危険人物だと思うのだが。

「次。お前か通ってよし」

 一人一人確認しているようだ。

 出入口前にあった人だかりはどんどんと生徒が強襲科棟に吸い込まれていく。そして俺の番が回って来た。

「見ない顔だな。転入生か。通ってよし」

 何も確認されずに入ることができた。確認がザルなのか、それとも転入生がやばいモノを持ち込まないと考えているのかもしれない。

 俺の腰に差された魔器装には何も言わないあたり、この学園都市では普通のことなのだと実感する。

 入り口近くに男子更衣室があり、そこで着替えて授業に臨むことになるが、専門学科用体操服を持ってきていない。だから何も入っていないはずのロッカーを開ける。

 更衣室のロッカーにも、朝の下駄箱に用意したはずのない上履きが入っていたように、ちゃんと実戦用の特殊体操服が入っていた。

 サイズもぴったり合っている。誰が用意したのかわからないので不気味であるが、用意してあるのはとてもありがたい。

 クラスメイトの後ろについて授業が行われるアリーナに入る。

「おっ抜き打ち検査クリアしたのか」

 イヴァンは勇斗が入って来るなり駆け寄ってくる。

「それがお前の魔器装か?」

「ああ、さっき理事長室で受け取ってきた。凍桜っていうらしい」

 太刀型の魔器装は鞘に収められたまま、まだ抜いていないので刀身の状態はわからない。錆びついているようなことはないだろう。気のせいかもしれないが、眠っているように感じる。

 授業中に振るえば使い勝手もわかるだろうな。

「さて、授業を始めるぞ。今ここに居ない奴は全員遅刻だな」

 杜若先生がアリーナに入って来る。ジャージとか動きやすい服装にしているのかと思ったが、普通のスーツに近い服だ。これはこれで不思議なんだけど。

「さて、二人一組になって組手をしろ。初魄、お前はジューコフと組め」

 先生権限で組み合わせが一組決まった。

「とりあえず、軽く準備運動してからやろうぜ」

 イヴァンはハルバート型の魔器装を片手で振るい、感触を確かめている。


 俺も凍桜を鞘から抜き去る。

 歪な刀身が姿を現す。いや、刀身と表現するには違和感がある。

 一見すると、日本刀のように反りのはいった刀なのだが、刃がない。そういう仕様なのかもしれないが、みねしのぎ平地ひらちまではあるのだが、刃に該当するものがあるわけでもない。

「初魄。使い方はわかるか? わからなければジューコフに聞け」

 当然、刀を振るったことなんてない。

「わかんないよな。まあ、ゆっくり慣らしてからだな」

 柄の握り方は時代劇や漫画なんかでよく見るので、なんとなくはわかっても取り回しかたは分からない。いままで一般人として過ごしていた勇斗には初めて触れるものだから知る理由がない。

「全員準備は出来たな。試合はじめ!」

 先生の合図を皮切りにそこかしこで模擬戦が始まる。

「オレらも始めるか。つっても刀に慣れるところから始めないといけないからな」

 イヴァンは俺のことを気遣うように聞いてくる。

「いや、軽く振るいながら慣らすよ」

 勇斗はイヴァンの心遣いに感謝しつつも遠慮しておく。早く凍桜の使い勝手を試したくてしょうがないからだ。

「そうか、なら最初は振り方を覚えてから、軽く打ち合うとするか」

 イヴァンはハルバート型の魔器装を構える。

 払い、突き、切り上げ。基本の動きを身体に馴染ませるように振るっていく。

 ある程度動きに慣れてきた辺りで、軽い打ち合いを始める。

「初手はお前に譲ったほうがいいか?」

「いや、普通に打ち込んできてくれ」

 軽い打ち合いなら、避ける練習を兼ねてイヴァンのほうから打ち込んできてもらう。

「なら、軽いジャブみたいなもんだ。受けきれよ」

 前傾姿勢になり、こちらに跳んでくる。

 数メートルの距離を軽く詰めてくる。魔器装を使い慣れた者特有の縮地である。

 下段に構えていたハルバートを切り上げる。

 初撃を譲ったが、譲らないほうがよかったかもしれない。

 刀の性質がそのまま残っているとは考えられないが、ハルバートは重撃を得意とする武器である。軽い打ち合いと言っても、下手に受けることは身体に響くから、紙一重で切り上げを躱すと後方に跳び距離を離す。


「ほう、ジューコフの一撃を躱すか。センスはあるようだな」

 杜若は先生として、生徒の様子を見ていた。

 イヴァンはこのクラスで一位二位を争う実力を持っている。もしかしたら手加減をしているのかもしれないが、それでも真正面から受けるのではなく。避けたのだ。杜若の居るところから見ても遅いわけではない一撃だ。

「ふむ、もう少しよく見ておく必要があるな」

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