第4話 昼休
転入初日の午前中は主要五教科だけで終わり、昼休みになる。ついでに言うとイヴァンは半日ずっと寝ていた。授業受ける気ゼロというか、こいつがなんで代表候補生に選ばれたのか理解できないくらいだ。
「ふあああ。よく寝たよく寝た」
午前の授業が終わった頃に隣人は起きた。
「毎度のことながら半日よく寝られるわね。わたしにはわからないわ」
伊織も呆れたように口を開く。
「中間考査落ちても知らないよ?」
「それはマジで困るんで、委員長あとでノート見せてください」
真面目に授業を受けていればそこまであわてる必要はないはずだが。
授業自体は入学して間もないうちに転入したこともあり、授業内容はほとんど進んでいなかった。
そのおかげもあって、予習等をしなくて済んだからとてもありがたいはなしだが。
俺を挟んで二人は会話を続ける。
「それじゃあ飯にしようぜ」
「そうね、ごはんにしましょう」
二人は持参した弁当箱をカバンから取り出す。
「勇斗はごはんどうするの?」
伊織は俺に聞いてくる。
「学食で昼飯を喰うつもりだけど」
ここには学生向けの食堂があると聞いていたので、そこを使えばいいかと軽い気持ちでいた。
「学食? 食堂はあまりオススメしないぞ」
イヴァンが難色を示す。
「そうね。わたしもあそこに行くのはちょっと」
意外にも伊織までも食堂に行きたがらないとは。フレンドリーで誰とでも友達になれるような人間が嫌がるとは、そこまで酷いところなのか。
「行けばわかる。じゃあオレたちは教室で食うから、食堂で飯食い終わったら感想聞かせてくれ」
二人とは教室で別れ、一人学食に向かう。
伊織曰く、特別棟と呼ばれる別館に購買部や、食堂などがまとまっているらしい。
そんなに飯がまずいのか、それとも上級生が多くて一年生が入りにくいのか。さてどちらだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると、騒ぎ声が聞こえてきた。
購買部の前に人混みが出来るのは分かるが、食堂の前で人混みが出来るなんて意外だ。
人気の限定メニューでもあるのかと思っていると、聞こえてくる怒号は全く違う理由だった。
「テメェがぶつかって来たんだろ」
「アアァン? 殺んのかコラ」
どうやら喧嘩らしい、食堂の前で喧嘩がはじまるとは、ヤンキーの多い学校なんだろうかここは。
がやも双方を煽るように声を上げているあたり、この学校では普通のことなのかもしれない。
(これは、確かに伊織は来たがらないだろうな)
上級生同士の喧嘩の仲裁、しかも戦闘術を教わっている人の相手なんて分が悪い。
これからはコンビニでなんか買ってくるべきだろう。
今後の昼食について考えていると、一人の女子生徒が食堂の中から出てくる。銀髪のツインテールに結われた髪を揺らしながら、喧嘩をしていた生徒に歩み寄っていく。
「静かにしなさい。喧嘩なら外でやってくれる? それとも、わたしが直々に黙らせてさし上げましょうか?」
氷のように冷たい声で一触即発の雰囲気を牽制する。
「アアァン、誰だぁ? ……生徒会長ですか。すいませんでした」
喧嘩がはじまりそうだった二人の空気が一瞬で変わった。自分たちよりも小柄な少女を相手にしている割に、腰が低い。観客のほうも二人がかりだとしても、この少女には敵わないとわかっている様だ。
二人は人混みの中に逃げ込み、姿を消してしまった。
「エレーナ、どうかしたのか?」
食堂から背の高い女子生徒が出てくる。
「リリィさっきの二人は風紀委員で縛り上げる? それとも生徒会権限で罰則を与えてもいいけど」
「ああ喧嘩か、エレーナはいちいち生徒会権限使いたくないんだろ? なら、あたしがシバいておくけど」
あの口振りからすると、最初に出てきた娘は生徒会の役員なのだろう。こっちの女子生徒は風紀委員の腕章をつけていた。金髪を長いポニーテールにしている。
風紀委員長と生徒会長相手じゃ分が悪いよな。
誰かが呟く。
生徒会長と風紀委員長か、その学校の中で一番強い人間が生徒会長に就任できるとパンフレットに書いてあった。ただ、生徒会長と風紀委員長でありながら、当然の如く制服が改造されているのをみると、それでいいのかと思うこともあるが。
生徒会長と風紀委員長が食堂を去ると、何事もなかったかのように食堂に生徒が入っていくこの状況を見ると、これがここの普通、日常なのだと実感する。
俺もその人の流れに乗り遅れないうちに食堂の中に入る。
食堂の中は綺麗に机が並べられ、広々として明るい。外にはテラス席もあり学校の食堂としてみれば上級生と相席することに目を瞑れば居心地は良さそうだ。
食券を買い、列に並ぶ。上級生が多く感じるが、生徒の比率を考えれば当たり前なのだが、それでも気にはなる。
弁当を持ってこなかったのは自分だからしょうがない。購買部の争奪戦に参加する気はないからここに来たのだが。
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