第3話  教室

 教室で朱鷺崎伊織はそわそわしていた。

「どーしたのイオリン? そわそわして?」

 クラスメイトの一人が怪訝そうに聞いてくる。

 本人としては意識していなかったが、身体には出ていた様子。

「なんでもないよ」

「あっ、わかったー。転校生のことだね。ふっふー、私も気になるんだよねー」

 クラスメイトはそわそわしている原因に心当たりがあった。

 ゴールデンウィーク明けに、この一年七組に転校生が来ることを担任から伝えられていた。

「その……、ね転校生がわたしの幼馴染なの」

「へー。幼馴染かー、いいなー。でもなんでこんな時期に?」

 クラスメイトは当然気になるであろうことを聞いてくる。

 そんなこと聞かれても彼女には分からない。そもそも、彼がここに転入してくること理由が突拍子もないからである。


 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴る。

「ほら、チャイム鳴ったし席に戻らないと。先生来た時に座ってないと怒られるよ?」

「杜若せんせーマジで怖いから、戻りまーす」

 クラスメイトが自分の席に戻っていく。

 伊織個人としては担任教諭である杜若先生は指導が的確で、生徒の実力に合わせて微妙に指導の仕方が異なる。それはコツを掴まなければ魔器装マギアが暴走する可能性を秘めているからでもある。

(私はこのクラスの委員長なんだから、私が面倒見ることになるんだろうね)

 伊織は自分の役職を思い出し、ホームルームがはじまるのを待つ。


「さて、ホームルームを始める。がその前に、こいつの紹介をする。入れ」

 杜若先生に言われ、教室内に入る。

「今日からこのクラスに編入することとなったヴァリト公国代表候補生の初魄勇斗だ。初魄、自己紹介を」

「はい、初魄勇斗です。よろしくお願いします」

 クラスメイトの前で自己紹介をする。

 クラスメイトの顔と名前を憶え直さないといけない。なんて面倒なんだろうか。

 男かよ、とがっかりした声が聞こえた。俺も転校生が女の子だったほうが嬉しいから人のことは言えないが、声に出して言われるとイラっとくるな。

「静かにしろ。初魄、お前はあそこの空いている席に座れ。イヴァン、授業中はこいつに教科書を見せてやれ」

 先生が指した席の隣には、白人系の男子生徒が座っていた。

「先生。オレは授業中どうすればいいですか?」

 遠くの席にいるわけでもないのにそんなことを聞く必要があるのだろうか。そう思った矢先、額に手を当て、ため息混じりに叱責する。

「どうせまともに授業を受けてないんだろ。一日二日教科書が無くても問題なかろう」

 どうやら彼は授業をしっかり受けてないらしい。それを担任が大して叱る気がないのはどうかと思うが。

「はなしは以上だ。授業に遅れるなよ」

 杜若教諭は教室を出ていく。

「ユートだっけ?オレの名前はイヴァン。イヴァン・ジューコフだ。ロシア代表候補生だからお前のライバルになるな」

 隣の席の男子生徒、イヴァン・ジューコフがドヤ顔で少しだけ残念な自己紹介をしてくる。意外と流暢な日本語で話してくれている。

「ライバルは潰さなきゃいけないから、いまのは脅迫行為と受け取るべきなのか?」

 冗談と分かっているが、伊織に確認しておく。

「ははは、面白いなお前、朱鷺崎さんの幼馴染って聞いてたから、真面目な奴だと思っていたんだけどな」

「じゃあ、改めてえっと。ジューコフさんだったか?よろしく」

「おいおい、さん付けなんてしなくていいぞ。イヴァンで大丈夫だ」

「そうか、じゃあよろしくな。イヴァン」

 左隣との挨拶が終わり、右隣に向くと、伊織が座っていた。

「お隣さんだね、勇斗。わたしがクラス委員長だからよろしくね」

 伊織とはさっきぶりだから挨拶も軽く済ませると授業の準備を始める。

「一時間目は何やるんだ?」

「一時間目は数学だよ。イヴァン君はちゃんと起きて授業をうけようね?」

 わかってます委員長。と言って教科書とノートを取り出す。どうやらイヴァンが授業を真面目に受けていないのは、いつものことのようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る