第四十九話 野外授業

 教室。


 今日の授業は全て終わり、後はホームルームのみとなっていた。


 そして、


 ガラガラガラガラ!


 教室の扉が開き、担任が入ってくる。


「それではホームルームを始める!」


 クラス担当であるゼルドリスが言うと、皆席を立ち一礼する。


 そこからはいつも通り、連絡事項が続く。


 そして最後、


「それと、明日より一泊二日での一学年野外授業が行われる。これは少し前から伝えていたことだが準備は出来ているか!」


「は~い」


「出来てま~す」


 皆めんどくさそうに返事をする。


 ゼルドリスの信用が落ちている事がわかる。


「この野外授業は、実践で戦闘を学んでもらう物である。なめてかかると死ぬ可能性があることを頭に置いておけよ!」


 それだけ言うと、ホームルームは終了となった。


 今回の野外授業は、王都を出てすぐのところにある森へと向かう。その中にあるダンジョンへと向かうことのなっている。


 道中で出くわす魔物との戦闘を行って経験を積む目的がある。もう一つ目的がある。この授業は二日間行われる。そのために、どうしても夜、どこかで寝泊りをするとになる。つまり夜営をすることになるのである。


 これが普通の冒険者であれば慣れているだろう。ただ、この学園に通う生徒は貴族の子息達である。そんな生徒達が今までに夜営の経験をしたことなどあるはずもない。


 ただ、今後国の騎士団に入ると、数日かけて行う討伐命令を受けて出撃することもあるだろう。その際に一度もやったことがなく、できないなど通用しない。そのためこの学園では年に一回、それぞれの学年でこのような野外授業を行っている。


 そして、この課外授業は三人から五人までで、一チームを作ることになっている。二日間はそのチームで動き戦闘を行い、夜営をすることになる。


 ただ、二週間前の一件で俺とミリアリアの力はバレている。それに伴い、兄妹である設定のアスナも同じく強いのではないかと言う話になっていた。そのため、野外授業の話があった後すぐ、クラスメイト達が俺達の机へとやって来て、チームに誘ってきた。


 ただここで一番厄介だったのが、チームを組むのが同じクラスの者でなくてもいいということ。つまり、他のクラスからも俺達を誘いに来たのだ。全員の気持ちは分かる。俺達と組めば確実にいい成績を取れると考えているのだろう。


 だが俺達は、この三人でしか組む気がなかったのでそれを伝えたが、諦めてくれず、逆に残りの二枠に入ろうとしてきたのだ。結果一週間程断り続けるはめになった。


 ホームルームが終わり放課後。


「やっと明日か」


 俺は少しため息混じれに言う。


「そうね。これで囲まれなくて済むわ」


 アスナもかなり疲れている。


「二人とも何をしているのですか! 早くいきますよ」


 一番に帰る支度を済ませているミリアリア。


「あ、ああ」


 俺とアスナも準備を済まして帰ろうとする。


「スレイブ様、お待ちください」


 俺達の行く手を阻むクラスメイト達。


 それに様呼びって。


「明日からの野外授業ですが、是非私を同じチームに」


「いえ、私こそスレイブ様のチームメイトに相応しい」


 それから複数の生徒から同じチームに入りたいと言われるが、


「申し訳ないが、この二人以外とチームを組むことは考えていないんだ」


 俺はそれだけ言って教室を後にする。それに続きミリアリアとアスナも教室を後にするのだった。






 副学園長室、ここには今、副学園長とゼルドリス達、それとスレイブと同じクラスの生徒が五人集まっていた。


「あいつのせいで俺は!」


 二週間前のことを妬んでいる。


「そうじゃの。あの爺のせいで俺の立場まで」


 副学園長はこの学園の学園長の地位を得るために、ゼルドリス達勇者パーティーを教師として招いた。勇者を教師として、優秀な授業すれば学園長の座を奪えると考えていたのだ。だが、結果としてゼルドリス達は何もできずにその信用を落とした。そして、それと同時にゼルドリスを教師として招いた副学園長までも信用を落とすことになってしまった。今では降格の話まで出てきている次第。


「心配はいりませんよ、副学園長に勇者様」


 二人に声を掛けたのは、この部屋に招かれている生徒の一人、レイド=シルクであった。一学年の元トップでスレイブ達にその地位を奪われた生徒である。


 今ここに集められている生徒は皆、一学年の中でトップファイブに入っていたメンバーで、今はその地位を落としたことでスレイブ達を恨んでいるのである。そのため、ゼルドリスや副学園長とも話が合い、この一週間、明日の野外授業に向けて計画を練っていた。どうやってスレイブ達を陥れて、その信用を落とすため。


 そうして自分達が元の立ち位置に戻ろうとしているのだった。 

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