第四十七話 報告

 俺達が闘技場の外に出ると、クラスメイト達が泣きそうな目でこちらを見ている。


 それ以外にも複数の教師達が中に入るための準備をしていた。


 そして、


「スレイブ君!」


 学園長が駆け寄ってくる。


「スレイブ!」


 それに続き、アスナもやって来た。


 そして、教師陣も俺達の元へとやって来た。


「大丈夫か!」


「中にいるやつらはどうした!」


「よく無事で出て来たな」


 様々な声がかけられる。


 そんな時、俺が担いでいるゼルドリスへと視線が向く。


「勇者様ではないか!」


「これはひどい、誰か保険の先生を呼んできてくれ!」


 一人の男性教師が校舎へと向かって行った。


「ゼルドリス!」


 元勇者パーティーのメンバーが近づいてくる。


 そして、


「貸しなさい!」


「???」


 俺は首をかしげる。


「ゼルドリスを貸しなさいって言っているのよ! その人は私達のパーティーリーダーなの! あなたが担いでいていい人ではないのよ!」


 無理やりにゼルドリスを奪い取り背負うラミア。


 ただ、傷まみれのゼルドリスをそんな乱暴に扱っていいのかと思いながら見ていた。


「何なのですか! あの傷だらけで動けなかった男をここまで連れてきたのはゆ、スレイブお兄様のおかげなのですよ! それをあの態度許せません!」


 他のクラスメイト、教師が居るところであったため、俺のことを勇者様と呼ぼうとしていたがやめてお兄様と呼んでくる。少しは冷静でいるようで安心した。


「そうですね。あの程度の奴を助けてあげたのですから礼くらい言うのが常識でしょ!」


 ミリアリアの言葉に同調するアスナ。


「二人とも気にするな。あいつらのあの態度は今に始まったことじゃない。気にするだけ無駄だよ」


 二人を収めようとする。


 だが、


「それはそうかもしれませんが、以前は勇者として、今も一応そうですが、呼ばれて活動をする冒険者であればもう少し常識と言う物を学んで欲しいです。今回は特に、クリセリア王国の代表的な立場なのです。あの者達を見て、我が国の国民が皆、ゼルドリス達のような者だと思われたくはありません」


 そう言うことか。確かにゼルドリス達の態度と姿勢は国の代表としては相応しくない。だけど、まだ俺達は大々的に動ける立場ではないのだ。王様は近いうちに公表すると言っていたがいつになることか?


 王様には王様の考えがあるんだろうが、そろそろミリアリアとアスナも限界になるぞ。


 などと考えながら、


「それもそうだが今少しの我慢だ。それに気にしなければいいし、俺達だって見方を変えればクリセリア王国の代表だ。その俺達が見本になればいい。そうすれば問題ないだろう」


「そうですね。分かりました」


 ミリアリアは納得してくれたのだが、


「もう限界! ずっと頭にきていたのよ! パーティーを組んでいたときもそうだけど、たいして強くもないくせにいきがってていうざいのよね。それに、他のメンバーもそうよ。どうしてあんな奴がいいのかわけがわからない!」


 腕を組んでそんなことを言っているアスナ。


「少し落ち着け。アスナの気持ちもよくわかる。でもな、今はまだその時じゃないんだ」


「その時?」


「そうだ。だが、もうすぐその時はやってくる。そうなれば全力でやっていいから」


「いいの?」


「いい。殺すのはダメだが、ギリギリまでなら許す。だから今は落ち着いてくれ」


「分かったわ」


 アスナも分かってくれたようだ。


「そろそろ良いかな?」


 ず~~~~~~~~~~~~~~~~~~っと後ろにいた学園長が声を掛けてきた。


 気付かなかったわけではない。むしろ周りには最大限の注意を払っていた。ただ、俺達の事情を知る学園長であれば聞かれても問題ないかと思い、話を続けていたのだ。


「すみません。それでどうかされましたか?」


「どうかされましたかではないぞ! 中で何があったか聞かせてもらわんと!」


「そうでしたね。ですがここではあれですので、場所を移しましょう」


「そうじゃの」


 俺達はいつも集まっている学園長室に移動した。学園長により部屋には防音結界が張られて外に音が漏れなくなり、聞き耳をたてられても大丈夫になる。


 そして、俺は闘技場内で起きたことを話た。


 そこにいた悪魔族の事。そのうちの一人が昨夜校舎内にいた悪魔族であった事。学園長以上の結界魔法の使い手であり、一番厄介な相手であること。その者の名前がレイクと言う事。これに関しては後程、この名前で所属している生徒がいないかを調べてもらうことになった。それと、レイクを取り逃がしてしまったことを話した。


「そうか。じゃが、悪魔族を五体も相手にして無事で何よりじゃ。だが、そのレイクと言う悪魔族を取り逃がしたのまずいかもしれないの」


 それは俺も理解していた。


 奴は戦いの間も後方より俺達のことを観察していた。重要な情報を与えたとは思わないが、今後どのようなことになるかは分からない。


「少し警戒が必要ですね」


「そうじゃな。それにレイクと言う悪魔族がもし人間の姿で学園に通っていて、その上名前を変えていたら分からんの」


「そうですね。ですが、奴が今後も学園に通うとは思いません」


「何故じゃ!?」


「そうよ!」


 学園長だけでなく、アスナまでも聞いてくる。


「今回の一件で自分の正体がバレたと思っている可能性が高い。そのため無駄な危険を冒してまでこの学園に通う意味はないだろう。それに奴らには俺達が勇者であることもばれている。勇者がいる学園に通う理由もないしな」


 俺が理由を話すと二人とも納得した。


 それから、今後のことを少し話し合って解散となったのである。

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