第四十六話 逃亡

 俺は目の前にいる悪魔族に攻撃を仕掛けていく。


 それに対して真向から受けて立とうとする二人の悪魔族。レイクは先ほどのことにまだ驚いていて指示が出せていない。


 今がチャンスだと思い、まず剣を持つ悪魔族を倒そうとする。


 そんな俺に対して、剣を持つ悪魔族は、


「援護を頼む」


 後方にいる悪魔族に対してそれだけ叫ぶ。


「分かった」


 一言だけ返事をすると、後方にいる悪魔族の男より魔法が放たれる。火の魔法。


 俺の行く先の足元の位置に向かって飛んでくる。正確な攻撃。だがその正確さが仇となる。


 俺は魔法の行く先を読み、躱す。真っすぐに俺の向かう先目がけて飛んできていたため、移動速度を少し遅らせる事で躱せた。速度を落としたことで剣を持つ悪魔族に準備の時間を与えてしまった。


 俺が、悪魔族の懐に入る寸前、頭上より剣が振り下ろされてくる。


 その攻撃を、剣で受け止める。


 真上からの攻撃はかなり重い。


「潰れろ!」


「その程度で潰されるか!」


 制限を掛けているままだったらかなり重かっただろう。だが、今の状態では少し重い程度。苦でもない。


 剣に魔力を流した俺は、悪魔族の剣を押し戻して吹き飛ばす。


「何!」


 そのことに驚いている。


 だが、そのタイミングで後方の悪魔族より魔法が飛んできた。


 ファイアーボールとファイアーランスが左右から複数個。


 しかも先程の放たれた魔法よりも魔力が込められており、威力が上がっている。


 今回は、俺を倒すために放ってきたようだ。


 今度は躱さずに応戦する。


 火の魔法に合わせるのは弱点の水魔法。


「ウォータウォール!」


 目の前に水の壁を作り魔法を防ぐ。


 ただ、この魔法には少し弱点がある。それは視界を防いでしまうこと。


 相手からもこちらが見えなくなるが、こちらから相手が見えなくなってしまう。ある程度は魔力で相手の動きを掴むことが出来るが、それでも視界を奪われるの辛い。


「ここか~~~~!」


 あてずっぽか分からないが、俺のいるところ目がけて剣が右より向かってくる。


 魔力の動きからある程度の予想は出来ていたが、準備が整わなかった。


 そこで、結界魔法を使い当たる直前の所に壁を作ることに成功した。


 カーン!


 剣が結界の壁に当たり跳ね返る。


 ギリギリであったが間になった。


 そのタイミングでウォールウォールが消える。


 俺はそれと同時に後方の悪魔族に向かって雷魔法を放つ。


「サンダー!」


 雷の魔法のサンダーは攻撃系の魔法ではないため、威力は殆どない。その代わりに、特殊効果があるのだ。


「な、なんだこれは! 痺れて体が言うことを聞かない」


 そう、サンダーの魔法は威力がない代わりに、相手を麻痺させるが出来るのである。


 ただこの魔法を知るのは、ミリアリアとアスナのみである。


 なんせ俺のオリジナル魔法なのだから。


「何をした! こんな魔法俺は知らんぞ!」


 そらそうだ。


「雷魔法を放っただけさ」


 と、俺は後方で動けずにいる悪魔族の男を無視して、正面にいる悪魔族へと向き直る。


 後方にいる悪魔族のことが気になっているようで、視線がそちらに向いている。


 その隙を見逃すことはない。


 俺は、一瞬の隙をつき、首を落とす。


 まずは一体。


 そして、俺が残りの一人を倒そうとしたところで、


「サンダーショット!」


 復活したレイクが魔法を放ってくる。


 今度は手を抜かず、


「魔力弾」


 俺オリジナル魔法の魔力弾でサンダーショットを打ち消す。


「!!」


 かなり驚いている。


 だがそんなことよりも先に、後方にいた悪魔族を倒した。


「っち! まさかあの二人がやられるとわな」


 二人が倒されるのを見て舌打ちをするレイク。


 それに、隣で戦っていたミリアリアも二人の悪魔族を倒していた。


 そのことに、


「くっそぉ!」


「さてどうする? 残るはお前一人だぞレイク!」


 俺は剣を構えて言う。


「もうあなたに逃げ場はありません」


 ミリアリアが近づいていく。


「そのようだな。勇者の力を見誤っていたようだ」


 観念したように見えたのだが、


「だから、俺はこれで失礼するよ。良い情報も手に入ったしな」


 背にはやした翼で飛ぶ。だが、闘技場の頭上にも結界を張っている。だから逃げることは出来ないはずだと思っていたのだが、


「じゃあな」


「何!」


 俺の結界は破られて逃げて行ってしまった。


 最初は何故か分からなかった。だが、冷静に戦闘を振り返ってみると、結界を解くタイミングが合ったことに気づく。


「やられたよ」


 俺の魔法に驚いて何もしてこなかったと思ったが違ったようだ。あの時に、俺の結界魔法を解除していたのだろう。そのために戦闘には参加せずにいた。


「勇者様どうしますか?」


「流石に空に逃げられてはどうしようもないな。とりあえず、ゼルドリスを連れて闘技場の外に出よう。アスナの連れてきた学園長が待っているはずだ」


「そうですね」


 俺達は気を失っているゼルドリスを抱えて闘技場を後にするのだった。

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