第四十五話 戦闘と疑惑

 冷静に俺の力を認める悪魔族の男。


「おいおい、本気かレイク。ガキだぜ!」


 結界使いの悪魔族はレイクと言うのか。同じ名前で学園の生徒として潜入しているか分からないが、後で調べておくか。


「ああ、微量だが魔力が流れ出している」


「あれで微量だと」


 おっと、魔力を抑えていたつもりだが、まだ完璧にはいかないか。


「そうだ。それに隣にいるのはクリセリア王国の姫様だろう。グレコスからは死んだと聞いていたが、生きていたとは驚いた」


 グレコスの知り合いか。しかもよく話している風の口調。


「信じがたいが、お前が言うなら間違いないだろう」


 レイクは話しながらも俺から視線を一切外さないかった。


 隙がない。今までの悪魔族の中では、かなり警戒心が高いように見える。


「全員でかかるぞ。こいつらは確実にここで仕留める」


「ああ」


「こい!」


 観客席にいる仲間に叫ぶ。


 すると一斉に俺達の元へ悪魔族達がやって来た。


「どうするのですか、勇者様?」


 小声で話しかけてくる。


「倒すしかないな。だが、本気は決して見せるな」


「どうしてですか?」


「レイク以外の悪魔族はどうでもいいが、レイクに関しては何か企んでいるように思える。出来る限り情報を与えないようにしたい」


「分かりました」


 俺とミリアリアは剣を構える。


 いつでも戦える体勢。


「お前ら二人は女をやれ! 俺達で勇者を殺す」


 レイクが他の悪魔族に指示を出す。やはり指揮官的存在のようである。


 それに、魔力を読み取れない。たぶん隠しているんだと思うが、得体が知れない。


「分かったぜ。こんな女一捻りだ!」


「なめてかかるなよ! 相手は勇者の仲間だ! 最初から全力だせ! いいな!」


「お、おう、分かったぜ」


 悪魔族は二人と三人に別れて、俺とミリアリアに襲い掛かってくる。


 その際に流れ出た魔力。レイク以外の悪魔族は正直弱い。ただ、統率が取れ過ぎている。


 しかも組み分けもうまく。ミリアリアの方へ行った二人は近接戦の者と魔法を使う者。バランスもいいし、きっちりと役割分担が出来ているように見える。


 それに俺の方に来ている二人も同じだ。しかもそこにレイク、指揮官が加わっている。


 そのレイクが仕掛けるための指示を出している。


 今、俺へ悪魔族の放ったファイアーボールが複数向かってきている。それに合わせて斬りかかって来るもう一人の悪魔族。


 後ろでは、聞き取れない声で指示を出しているレイク。その視線は俺を捉えて離さない。


 狙いは読めているためそれを潰そうと正面から仕掛けていく。


 レイクは俺が動き出すのを見た瞬間、指示を飛ばす。


 それにより、斬りかかって来ていた悪魔族がその場で急停止。


 俺はそのタイミングに合わせて、ファイアーボールを打ち消すための魔法を放つ。すると、俺の意識が正面の剣を持つ悪魔族から一瞬外れた。その隙をつき、再び剣を持つ悪魔族が攻めてきた。


 そのことに気づくも、今対抗魔法を放たないと、打ち消せないくらいの距離まで向かってきていた。


 そのため、俺は魔法を発動。水魔法のウォーターボールを放ちファイアーボールへと当てて相殺。それと同時に振り下ろされる剣に俺が持つ剣を合わせて当てる。


 ギリギリで防いだ。


「っち!」


 レイクが俺に聞こえる声で舌打ちをする。


「流石勇者だな。俺の攻撃を防ぐか!」


「俺の魔法も防ぎあがったが、これは無理だろう」


 今度は雷魔法を放ってくる。しかも速度のあるサンダーショット。


 防ぐことは出来るが、出来るのだが、それどころじゃない。剣での攻撃を防ぎはしたが、かなりの力で押されている。


「っち! もう少し力を抑えておきたかったんだけどな」


「何負け惜しみを言っているんだ?」


「いや、何でも」


 俺は、


「制限解除」


 自分に掛けていた制限を一つ解く。


 それにより、剣を持っている悪魔族を押し返す。


 それと同時に、同じ雷魔法、サンダーショットを放ち相殺。


 そのことに驚いているレイク。


 だが、今はそんなことよりも目の前にいる二人を倒す。レイクの力は未だに未知数。


 まずは目の前にいる二人を倒すことを優先するのであった。






 スレイブ達が戦闘を開始する少し前、後方に吹き飛ばされたゼルドリス。


「っち! な、なんなんだよ」


 少し意識をもうろうとさせながらも、ギリギリの所で保っているゼルドリスは今の自分の状況を受け入れられずにいた。


「この俺が一撃で、だと。ありえね~、ありえないんだよ。こんな傷、へでもね~、すぐにあいつらを倒してやる」


 小声で独り言を言いながら立ち上がろうとするも体に力が入らない。


 だが、それもそのはず、闘技場の壁にものすごい勢いで衝突した。そのために全身傷まみれで出血もかなりしている。それに、腕や足、それにあばら骨も何本か折れているだろう。すぐにでも治療をしないとかなり危険な状況であろうと言える。


 そんな中、目の前でスレイブが悪魔族の男と話している。


「あの雑魚、何を話しているんだ! 俺が勝てない相手に、あいつが勝てるはずがないだろう」


 昨日の模擬戦の一件で何も学ばなかったゼルドリスは、未だに自分の方がスレイブより強いと思っている。


 そして、そんな中で聞こえてくる言葉。それは、スレイブが勇者であると言う話。


「はぁ? あいつらは何の話をしているんだ!? あんな何もできない雑魚が勇者なわけないだろう。それに、勇者はここにいる俺だぞ! 何を意味の分からん話をしているんだ!」


 だが、そんな中で目の前で悪魔族がスレイブ達の元へとやって来て戦闘が開始された。


 その光景に、ゼルドリスは何を見ているのか理解できなかったのである。

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