第四十四話 翌日に事件

 翌朝、俺達は学園長室に集まっていた。


 昨日の調査の件を学園長へ報告するためである。


 そこで俺達は、昨夜の出来事と、俺の考えを学園長に伝えた。


「そうか、ご苦労であったな」


「いえ、そんなことよりもどういたしますか? 俺達は表立っては派手な行動をとれません。ですので……」


 俺が其の後の言葉を言う前に、


「分かっておる。もしもの時は教師陣で対応するが、本当にどうしようもない時は任せてもよいか?」


「はい! その時は仕方がないですのでどうにかします。ただ……」


「ただ、どうしたかの?」


「気掛かりなのはゼルドリス達ですね。あいつらは自分が本当の勇者だと勘違いしています」


「そのようじゃな。昨日のあれを見てよく分かった」


「下手に手を出したり、自分のことを勇者などと名乗れば」


「標的になるじゃろうな」


「それでいいじゃない!」


 学園長の言葉に対して答えたアスナ。


「あんな奴がどうなろうと、私達に関係ないわ。それどころか、今まで散々いろいろやってくれたんだから、いい気味よ」


「そんなことも言えないだろう。もしもあいつが勇者と名乗って倒されたら、より悪魔族の奴らを調子に乗らすことになる。それどころか、全軍で攻めてくるかもしれん。そうなったら、今の俺達では、対処出来ないんだぞ!」


 アスナは「っは!」とした顔をした。


「それに、彼らも守るべき人間なのです」


 少し声のトーンが落ちているミリアリア。


「そのことについては、また今度話そうではないか。別に今日、明日に何かが起こるわけではないんじゃからな」


「そうですね。今は、今後のことについて話し合いつつ、作戦を練っていきましょう」


 学園長への報告は終わった。


 それから俺達は、学園の生徒として授業を受ける。


 実践訓練の授業。


 この授業はゼルドリス達が教師となり教えるため、ミリアリアとアスナの機嫌は最悪。


 俺も正直気分は乗らなかったが、受けているふりだけしておいたのだが、


「おいおい、人間どもが遊んでいるぜ!」


 闘技場の観客席より、数人の何者かがこちらを見ている。


「何者だ! 今は授業中だぞ!」


 おっと、ゼルドリスが真面目なことを言ってやがる。


「何者だ~あ、そんなことお前らに言う必要あるか? ないよな。なんせ今から死ぬのだからな」


 悪魔族だ。魔力の質は明らかに人間の物ではなく、今までに戦ってきた悪魔族達と同じ。


 数は五体。何とか相手しきれるギリギリの数だ。


「バカ言わないでよ! こっちには勇者様とそのお仲間がいるんだから!」


「そうだ! 俺達には人類最強の勇者様がいるんだ!」


 クラスメイトが叫ぶ。


 これは予想していなかった。


「ほ~お、それは面白い。こんなところに俺達の標的がいるのか」


 狙いはやはり勇者か。


「誰か! 誰か先生達を呼んでくるんだ!」


 俺が叫ぶも、


「何言っているんだ! 俺がいればこんな奴ひとひねりだ!」


「人間がぬかしやがる。勇者だからってただのガキじゃないか!」


「おいおい、こんな奴のことを恐れていたのか俺達」


「そうみたいだな。こんな奴、俺一人で余裕だな」


「ならやってこいよ」


「はいよ」


 悪魔族の一人が俺達の方へとやってくる。筋肉質な体を持つ悪魔族の男。かなりガタイがいい。


 そして、


「勇者はお前か?」


 ゼルドリスのことを指さす。


「そうだと言ったらどうだって言うんだ!」


 ゼルドリスの言葉を聞くと、悪魔族は右手でゼルドリスを殴り飛ばした。


 そのまま闘技場の壁に突撃するゼルドリス。


「っう! なんだ今のは!?」


「この程度かよ。がっかりだぜ!」


 ゼルドリスを殴った拳を見ながら手応えがなさにがっかりしている。


「おい! マジかよ。勇者様が一撃で吹き飛ばされたぞ!」


「う、噓でしょ! だって勇者様ってこの世界最強なんでしょ」


「そんな人でも勝てないんだ! 俺達に勝てるはずがね~」


 皆恐怖で怯えている。


「全員闘技場から逃げろ!」


「え!」


 俺の言葉に対して微妙な反応。


「死にたくないならこの闘技場から出るんだ! 早く!」


 二回目の俺の言葉でその場から逃げ出すクラスメイト達。


 これで戦える。ただ、後ろで気を失っているゼルドリスをどうするかだが、まあ今のままなら問題ないか。


「アスナ、学園長に今の状況を説明しに行ってくれるか!」


「分かったわ」


「それと、ここに誰も近づかせないように伝えてくれ」


「ええ」


 アスナは学園長の元へと走っていく。


「おいおい、逃げるなよ」


 アスナや、他のクラスメイト達を追おうとする悪魔族に対して、


「なんだこれ?」


 俺の結界が悪魔族の行く手を阻む。


 結界を殴ったりと、何があるのか確かめているがその間にアスナ達は、闘技場の外へと出て行く。


「面白いことをする人間だ!」


 観客席で高みの見物を決め込んでいた悪魔族の内の一人が降りてくる。


「結界魔法だな。しかもかなり強力な」


「よくわかったな」


「ああ、俺も使うからな。だが、ふむ、学園長の奴よりも強力な結界を張れるようだな」


「ああ、それがどうかしたか」


 こいつが昨晩の悪魔族か。身長は俺の二倍くらいあるか? それに背に翼が生えてやがる。


「いや、流石の俺でもこれを解除するのは骨が折れると思ってな」


「それは誉め言葉として受け取っておくよ」


「お前、俺達のことを知っているな。あと後ろにいるお前も」


 昨夜教室にいた悪魔族の男はミリアリアの方を見た。


「ええ、よく知っていますわ」

 

 ミリアリアが俺の隣へとやってくる。


「何故、逃げなかった!」


「どういう意味ですの?」


「俺達のことを知っているのなら分かるだろう。人間では決して勝てないと」


「そうでしょうか? あなた達程度、私と勇者様にかかれば一瞬ですわ」


「勇者なら後ろで伸びているぞ!」


『ハハハハハハ!』


 観客席に座っている悪魔族達が笑う。


「は~あ、あんな奴が勇者なわけないじゃないですか! 本当の勇者様は私の隣にいます」


 悪魔族の全員の視線が俺へと集まる。


「お、お前が勇者か! おいおい、あいつよりもガキに見えるぜ!」


「いや、間違いないだろう。先ほどの結界魔法を見ればな」


 俺のことを笑い飛ばした奴に比べてこいつは凄く冷静に俺のことを見ている。


 五人の中で一番厄介な相手かもしれないと俺は思うのだった。

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