第三十七話 試合開始
教室に戻ると、クラスメイト達の視線が一点に集まる。
コソコソと話している者もいる。
そして、少し遅れて戻ってくるミリアリアとアスナ。
俺は、何もなかったかのように戻ってきた二人を見てため息をついてしまった。
「それで、どうするのじゃ」
凄く心配そうな顔で俺に訪ねてくる学園長。
「勇者、さ、まからの申し出お受けさせていただきます」
「分かった。それじゃあ場所を移しましょうか」
話を進めていく副学園長。
そして俺達は、副学園長の案内で学園内にある闘技場へと移動。
その間、後ろではアスナとゼルドリスのパーティーメンバーであるラミア達が、にらみ合っていた。
そんな中、
「本当に良かったのですか勇者様?」
耳元で話しかけてくる学園長。
「学園長、ここでその呼び方はまずくないですか」
「大丈夫です。ここまで小声で話していたら他の人では聞き取れないでしょう」
「そうですか」
「それでこんな試合、お受けしてよかったのですか?」
「ええ、勝てばこちらの出した条件をのんでいただけますので、乗らない手はないでしょう。それに俺もそろそろ憂さ晴らしをしたいところでしたので」
「ですが、勇者様方の正体は内緒と、国王様より言われていますので本気を出されるのは」
「心配ありません。今回あちらは手を抜くと言っています。まあ、本当かどうかは分かりませんが、俺はそれを利用しようと考えていますので、大丈夫ですよ」
「分かりました。勇者様を信じています」
「はい」
俺と学園長の話はここで終了した。
耳元で学園長が俺に話しかけていたためか、ゼルドリスがこちらをちらりと見ている。
少し怪しまれてしまったかとも思ったが、気にしないことに。
この試合で勝てばどうにでもなると思ったからである。
そして俺達は、闘技場に到着した。
観客席に囲まれた会場。
「さて他の生徒は客席に移動してください。審判は私と学園長で務めますがいいですか!?」
『はい!』
俺とゼルドリスが声を揃えて返事をする。
「では両者は定位置に移動してください」
闘技場の中心でラインの引かれた場所へと移動。
そこに立つと、俺とゼルドリスが向かい合う形となる。
「それでは両者にこれを」
副学園長と学園長から剣が渡される。
今回は公平を期すためとのことのようだ。
「それでは両者準備はいいな」
「少しいいか!」
「どうしましたかな勇者殿」
「今回の試合で俺はハンデをやると言った。そこでだ、俺は左手を使わず、魔法も使わない。純粋な剣術一本でやろうと思う」
「分かりました。ではもし勇者殿が左手もしくは、魔法を使った場合は反則負けと勝敗条件に追加してもいいかな」
「ええ、かまいません」
ハンデも決まったところで、
「胸を借りるつもりでかかってこいよ」
「お手柔らかにお願いいたします」
試合前に一言だけ言葉を交わすと、
「それでは試合開始!」
副学園長の合図で試合が開始された。
開始と同時に、俺へ向かって余裕とばかりに手招きをするゼルドリス。
その言葉に甘えて、全力の十分の一の速度で、正面から仕掛けていく。
その攻撃を右手で持っている剣で受け止めて見せる。
「へ~、少しはましな攻撃をしてくるな」
剣を合わせたとたんに話しかけてきた。
それに、
「流石勇者様ね。あの攻撃をあっさりと受け止めてしまったわ」
「そうだな。しかもまだまだ余裕って顔だぜ! あこがれるな」
「俺たちと同じ年だと思えないぜ!」
客席にいる生徒から様々な声が飛び出す。
「ましと言っても俺に通用するレベルじゃないな」
「???」
まだ俺は何一つ本気を出していない。近づくための接近速度だけは本気の時の十分の一程出した。だがそれは、聖域のレベルが二の時点での話。今の力から考えると、百分の一程だろう。それに攻撃なんて正面から剣を振り下ろしただけで力も込めていない。そんな素人でも受け止められそうな攻撃を、受け止めたくらいで何を言っているんだか。
「まあよかったよ。少しはまともな試合になるな」
俺を突き飛ばすゼルドリス。
そして次は自分の番だとばかりに殺気を出している。
それに構えから隙だらけ。仕掛けてこいと言っているようにしか見えない。
これじゃすぐにでもこの試合が終わる。確かに、この試合を終わらせること自体は簡単だがそれでは後々めんどくさい。
そのためには、ある程度ゼルドリスに活躍をさせてから勝たないといけないが、どうやってやればいいんだ。
俺は少しゼルドリスに期待していたところがある。この世界で十人程しか使用者のいないスキル、剣豪を持ち、ある程度の実践訓練を積んでいるゼルドリスだからある程度、まともな戦闘が出来るのではないかと思っていた。だが、目の前にいるゼルドリスは俺の期待以下、スキルの剣豪に頼り切りで、構えもなっていない。こんな相手を立てないといけないなんて正直めんどい。
「は~」
俺は思わずため息をついてしまった。
そのことに対して、
「お、お前! その態度はなんだ! 俺が未熟なお前に最高の一撃を見せてやろうとしているんだ。もっとまじめにしたらどうだ! まあ、俺の技を受けたときのことを考えて絶望したい気持ちも分かる。だが心配するな。俺は全力を出さない。だから安心だろう」
少し顔がにやけている。
本心ではゼルドリスが、どう考えているかは分からない。だが、その程度の実力で俺を倒せると本気で思っているのか?
そして自信満々に俺へと攻撃を仕掛けてくるのだった。
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