第三十六話 話し合い

 俺は席を立ち、前へと出て行く。


 なんでこんなことになったんだ。


 頭を抱えていると、


「ゆ、スレイブさ、お兄様が戦う必要はありません」


 そんな俺のことを止めるミリアリア。


 所々間違えそうになっているが、まあいいか。


「お兄さんですって! スレイブに妹がいるなんて聞いたことないんだけど!」


 ゼルドリスの後ろにいるラミアが大声で言ってくる。


「そうよね。たしか~」


 他のメンバーが変なことを言おうとした瞬間、


「ちょっとこい!」


 俺はゼルドリス達を連れて教室を出る。


「何するんだよ!」


 教室を出てすぐ、手を振り払われたが、まあいい、ある程度は距離を取れた。


「は~、試合してやるよ」


「おいおい、上から目線のその話し方はいったい何なんだ!? 俺は勇者でラミア達は俺のパーティーメンバーなんだ。お前はそんな俺達から守られる存在だろうが! 格下のお前が俺達にそんな態度をとっていいと思っているのか!」


 ずいぶんな言いようだが、今はおとなしく言うことを聞いておくか。


「そうだ、ですね。申し訳ありません」


 頭を下げておく。


 ただその時、背後からある二人の気配を感じていていたが、気にしないことに。


「だが驚いたぞ! お前がこんな学園に通っているとわな。何か悪いことでもしてお金を手に入れたのか?」


「いえそんなことわ。ただ私もあれからいろいろありまして」


「いろいろね~、まあいいや。それで俺と試合をするんだよな」


「はい」


「ならいいさ。それと俺が勝った時だが、お前はこの学園から出て行け! いいな!」


「はい、では私が勝った時は、私の過去については何も話さない。赤の他人と言うことにしてもらえますか?」


「お前がこの俺に勝つだ~あ? この世界を救う勇者に!? 冗談は存在だけにしてくれよ。まあ、お前が俺に勝つことなど万に一つの可能性もないんだからな。もしもお前が勝てればいいぜ、その願い聞いてやるよ」


「ありがとうございます」


 ふ~、さてどうするかな。


 こいつに勝つのは凄く簡単だ。だが、それではいちゃもんをつけてくる可能性もあるし、学園を自由に動けなくなる。


 だから、ギリギリの戦いを演出しないといけない。


「試合のルールはどうしますか?」


「ルール、決まっているだろう。お互いに実剣を使って、相手が気を失うか、降参したら負けでいいだろう。まあもし殺してしまっても事故として処理したらいいな」


 あ~、はいはい、こいつの魂胆が見えてきた気がする。


「わか、りました。そのルールで行いましょう」


「ほお~、話が早くて助かるぜ。じゃあ、戻ろうか」


 俺達は一緒に教室へと戻っていく。


 後ろで物陰に、隠れていた二人もこっそりと着いてきていたのだ。






 勇者様達がゼルドリス達と話し合いをしているとき、


「アスナさん行きますよ」


 私は、アスナの手を引いて教室を出て行った。


 もしもの時は私が出て勇者様を守らないと。


「どこへ行くのですかミ、お姉様」


 アスナは、私がどこへ行こうとしているのか理解していない。


 私は、先にアスナの方が動くと思っていたのだが少し驚きであった。


「決まっています。ゆ、スレイブさ、お兄様の様子を見に行くのです」


「大丈夫よ。流石のゼルドリスもこんなところでは何もしないでしょ」


「いえ、分かりませんよ。それにゆ、スレイブさ、お兄様はここでは自由に力を使えません。まあそれは私達も変わりませんが、何かは出来るはずです」


「そうね。まあ、行くだけ行ってみるのもいいかもしれないわね。話も少し気になるし」


「そうこないとです」


 私とアスナは、勇者様がゼルドリス達と話している近くまでやって来た。


「居ました!」


 近くにあった棚の後ろに隠れて見ていると、勇者様からもの凄い殺気を感じた。


 私は背筋に冷汗が流れるのを感じた。


「どうしたの?」


「いえ何も」


 気付かれている。完全に気配を消して隠れていたつもりだったのにも関わらず、見つかった。


「流石ですね、勇者様」


「っえ! 何が?」


「何にもありませんわ」


 ゼルドリス達の話をすべて見ていたが特に変なことはなかった。


 ただ、薄っすらと聞こえてきた声、それはゼルドリスが勇者様に横柄な態度をとっている所だった。


 どれだけバカなのか。私は絶対にゼルドリスのことを許せない。どこかで私達をバカにしたことを後悔させてやろうと誓うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る