第三十五話 嫌な再会
学園長から最悪な話を聞かされた俺達。
ただ、ここまで来て、この依頼を断ることは出来ない。
「仕方がないですよ。その……副学園長って人が、勝手にしたことですよね」
「はい~」
かなり小さな声で返事をする学園長。
「学園長のせいじゃないのですから、気になさらないで下さい。むしろラッキーなくらいです」
一人だけ俺達と違う考えを持つミリアリア。
そんなミリアリアの事が、少し心配ではあったが、今はそれより、
「それより時間は大丈夫ですか?」
「そうですね。そろそろ皆さんの教室に移動しましょう」
学園長の案内により教室へと移動した。
俺達の教室は学園の一階、一番奥の部屋にある。
「皆様はここで少々お待ちください」
と、教室に先に入っていく学園長。
そして、
「皆さんお静かに! 担任の先生は諸事情でおやめになったため、本日のホームルームは私が行います」
そのことにざわめく教室。
大体、中にいる生徒の年齢は十八歳前後と聞いているが、少し幼稚すぎる質問がかなり飛び出していた。
と、そんなことよりも、
「それと、本日は編入生を紹介します。三人とも入って来て」
ガラガラガラ!
学園長の呼びかけに答えて教室に入る。
当たり前と言うか、定番と言うか、クラスメイト達の目線が俺達の方へと集まる。
そこでコソコソ話すクラスメイト達。
内容は、どうせ後ろの二人の事だろう。可愛いとか、きれいとか、どっちがタイプとかそんなところじゃないかな。
「はい! 静かにして。それではスレイブ君から自己紹介をお願いしようかな」
「はい! お、私はスレイブ=アストレイ、十八歳、アストレイ男爵家の長男です。得意なのは剣と火魔法です。将来は国を守る騎士を目指しています。これからよろしくお願いいたします」
自己紹介をした後、小さな拍手があった。
それから次に、
「私は、ミリアリア=アストレイ、十八歳、スレイブお兄様の妹です。得意なのは剣を使った近接戦です。将来の目標はまだ決まっていませんが、精一杯頑張りたく思っておりますのでよろしくお願いいたします」
「最後は私ね。私はアスナ=アストレイ、十七歳、スレイブお兄様とミ、ミリアリアお、お姉様の妹です。得意なのは回復魔法です。将来治癒術師になれればと思っております。よろしくお願いいたします」
俺達の自己紹介、これはあらかじめ打ち合わせしていた通りであった。
そして、二人の自己紹介が終わった時の拍手と、俺の時では拍手の大きさが明らかに違う。
まあ、仕方がないよな。
「それでは三人はあそこの席に座ってもらおうかな」
学園長が指さしたのは教室の一番後ろ、窓際の席三つであった。
俺達が席に移動する間、クラスメイト達の視線がアスナとミリアリアへと釘付けであった。
俺が窓側の席で、ミリアリアがその隣、その隣がアスナである。
そして、
コンコン! ガラガラガラ!
教室のトビラが開くと、一人の男性教師が入ってきた。
「皆さん、おはようございます」
『おはようございます』
「副学園長、どうしたのですか!?」
あれが学園長のいっていた副学園長か。白いひげを生やしたお爺さんで学園長の方が少し若く見える。
「今日からこのクラスを受け持ってもらう臨時教師の方がご到着いたしましたのでその報告と、紹介をさせていただこうかと思います」
副学園長が言うと、
「ほ~、ここがこの学園の一学年で、最高のクラスか!」
ゼルドリスが姿を見せた。
「はい、そうですよ。勇者様」
副学園長がゼルドリスのことを勇者様と呼んだとたん、クラス中が騒がしくなる。
「おい聞いたか!」
「ああ、勇者だってよ」
「伝説の?」
「そうだろう。でも本物か」
「そらそうでしょ! だってあの副学園長が呼んだくらいだもん」
「そうだよな」
などと話している。
だが、
「勇者様、あれが」
ゼルドリスを見ながらミリアリアが小声で話しかけてきた。
「そうだよ。それに後ろにいるのがゼルドリスのパーティーメンバーの三人だ」
「私、お腹が痛くなってきたかも」
アスナがゼルドリス拒否反応を示し始めた。
「俺だってそうだよ」
まさかこんなことになってしまうと思わなかった。
「確かになかなかな生徒達のようだな」
「それはもう、ここにいる者達は皆貴族で、将来はこの国を守る騎士になる者ばかりです」
「そうなのか、っと」
今、一瞬ゼルドリスと目が合った気がした。気のせいだよな~?
と、願っていると、
「おいおい、副学園長、ここはこの学園の一学年で、一番優秀な者が集まっているクラスんだよな!?」
「ええそうですが、何か問題でもありましたか?」
「ああ、あの窓際にいる生徒。あいつはダメだ。出来損ないだ。あんな奴を置いているなんて、底が知れるな」
ゼルドリスが俺のことを話した瞬間、クラスメイト達の視線が俺の方へと集まる。
そしてまた、こそこそ話が始まる。
もう~やめてくれ。
「おかしいですな。あの者は、今日特待生で編入してきた生徒と聞いています。かなり優秀だとか? そうですよね学園長」
「ええ、彼はとても優秀な生徒です。実力は、このクラスでも一、二を争うほどでしょう」
「ほ~、あいつがか? 面白いことを言うな。あんな奴がクラスで一、二を争う実力を持っていると言うのか」
ん? 何か嫌な予感がしてきたぞ。
「もしこのクラスの実力がかなり優秀であるのであれば、私ともいい勝負が出来るはずだ。当然、ある程度手加減はしてやる。勇者だからな。そんなハンデを貰ってあっさり負けるようであれば、今回の話は少し考えさせてもらう。当然俺と戦うのは、今日編入してきたあの生徒でな」
やはりそう来たか。
俺の方を少し心配そうに見ている学園長。
仕方がないかと思いながら俺は、席を立つのだった。
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