第三十四話 王と到着と衝撃

 クリセリア王国の王都サキエリアを旅立ってから二週間が過ぎた。


 その間は特に事件に会うこともなく無事、アルセリア王国が王都リーベルグへと到着した。


 二週間の間、殆ど馬車の中に座っているだけ。


 そのためかなり腰が痛い。


 馬車で王都の中に入ることが出来ないらしく俺達は、王都の門の前で降ろされた。


「勇者様、門番には王様より頂きました身分証をお使い下さいませ」


 俺は御者する人の言うことに従い身分証を用意する。


「それともう一つ、今回の依頼は前回と違い長期的なものになります。私も王都内にいますが、お体にはお気を付けください」


「分かりました」


 俺達はそれだけ答えて門へと向かう。


 門の前には朝だからか、少し列が出来ていた。


 荷物を持つ者や、俺達のように少しの荷物だけの者など様々であった。


「やっとね」


 疲れた声でアスナがぼそりと呟く。


「そうですね。馬車での移動にはなれているつもりでしたがここまで長期になると、疲れますね」


 ミリアリアも少し疲れ気味であった。


 野宿のときなどは基本的に馬車の中で就寝。時より村によることもあったが、タイミングが合わないことが殆どで、皆非常に疲れている。


 だから早く休みたいのだが、


「そうだな。だが、依頼はここからが本番だ」


「そうですね。依頼はまだ始まってもなかったのですね」


「は~、今日くらいはゆっくり休めるのかしら?」


「いや無理じゃないか、今から学園に向かうんだ。それに学園に着いたら、学園長に挨拶だろ。その後はクラスに行ってクラスメイト達に自己紹介をするんじゃないか? で、その後は授業だろうな」


「え~~~~、もう休みたいよ」


「そう言うな。それに授業を受ける方が楽かもしれないぞ」


「そうですね。まだ座って話を聞いている方がいいですね」


「二人がそういうなら仕方がないわね」


 などと話している内に、俺達の番がやって来た。


 御者の人に言われた通り、王様からもらった身分証を見せて中へと入る。


 その時、


「すみませんが、騎士を目指す者が通っている学園へ行きたいのですが、どういったらいいでしょうか」


「何の用だ」


「今日から入学するのですが、場所が分からないのです」


「そうだったのか、ならこっちの道を真っすぐ行けば着くぞ」


「ありがとうございます」


 門番に行き方を聞いて、学園へと向かう。






 王都に入ってから一時間程で学園に到着した。


「デカイな」


 俺が学園を見た最初の感想であった。今までに学校にすら通ったことのない俺であったが、それでもこの学園の建物が大きいことは分かる。


「そうですね。私もこれほどの建物は見たことがありません」


「へ~、凄いね」


 皆それぞれの感想を持つ。


 ミリアリアが建物を見て驚いていることに少しびっくりした。


「取り合えず、中に入るか」


 俺達は学園の入り口で身分証を見せて中へと案内してもらう。


 そして連れてこられたのは学園長室であった。


「学園長! スレイブ様が参られました!」


「そうか。入ってもらってくれ」


 その指示に従って学園長室に入ると、


「君は戻ってくれ」


「分かりました。失礼します」


 門番の男性は仕事へと戻っていった。


 それから、


「防音結界!」


 部屋の中に結界を張る。


「学園長?」


「すまないが、君たちの正体を知られるわけにいかんでな、ここまでさせてもらっておる」


「分かりました」


 納得。


「そんなことよりも、遠くよりご足労いただき、ご苦労をおかけいたします勇者様」


 頭を下げてくる学園長。


「頭をお上げください。勇者として当然のことをしているだけですので」


「いえ、まだ未確定のことも多く、勇者様にご足労いただく程のこともないと思うのですが、何分この学園には、貴族のご子息が多く通っております。どんな些細な事でも何かあると大事になってしまうのです。そのため早急の解決が求められるのです」


「そうだったのですか。出来る限りはお力添えするつもりですが、幾分このような依頼は初めてですので、どうなるかわかりませんがいいですか?」


「はい!私どもでも出来る限りお力添えをさせていただきますので、よろしくお願いいたします」


「わかりました」


 これで依頼に関しての話は終了したのだが、


「それと一つ、勇者様方にお伝えしないといけないことがございます」


「???」


「副学園長の独断でやったことなのですが……」


 凄く言いにくそうにしている。


「なんでしょうか?」


「今回の勇者様に入っていただくクラスは、一学年の中で最も優秀なクラスになります」


「はい!」


「とても優秀なクラスです。そのため、副学園長が優秀なクラスには優秀な教師が必要と言い出しました」


「なんだか、凄く嫌な予感がするんですけど」


 アスナの顔が少し青くなる。


「勇者様方が入るクラスの担当教師が本日より、元と言ったらよろしいでしょうか、元勇者パーティーの皆様になります」


「はい?」


 俺は思わず聞き返してしまった。


「う、噓でしょ~! いやよ、あんな奴らに教えをこうなんて」


「それは面白そうですね。勇者様をバカにしたことを後悔させてやります」


 嫌がるアスナと、それとは逆に少し喜んでいるミリアリア。


 俺は内心で、これからの学園生活に不安を感じるのであった。

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