第2章学園編 第一部編入

第三十三話 アルセリアに向けて

 あれから二日が経ち、今日はアルセリアへと向けて出発する日となった。


 前回ミリム村へと向かったとき同様に、王様が馬車を用意してくれている。


「私達って至れり尽くせりね」


 馬車を見てそんなことを口走ったアスナに対して、


「急にどうされたのですか?」


 ミリアリアが少し驚いていた。


「だって、こんな馬車で依頼に行けるなんて普通じゃあり得ないよ。しかも使うのは私達三人だけってすごいよ」


「そうなのですか?」


 アスナの言葉に対して、頭を捻っているミリアリア。


 俺はその二人のやり取りを見て、これが貴族と平民の差なのかと思ってしまった。


 しかも今回用意されている馬車は前回の二倍くらいの大きさである。


 それは、今回の依頼が長期的なものであり、いろいろと持っていく必要があるからなのだと思う。


「すぐになれますよ」


 笑顔でアスナに言うミリアリア。


「は、はい」


 珍しくミリアリアの言葉を素直に受け止めている。


 俺も少しずつ感覚が麻痺していくのかと思ってしまった。


「勇者様、何をしておられるのですかな? ここからアルセリア王国までは馬車でも二週間ほどかかるのです。早く出発しないと」


「そ、そうだな」


 俺は王様にせかされて急ぎ荷物を馬車へ積み込む。ただ、数分出発が遅れた所でそんなに変わらないのではと思ったが何も言わなかった。


 それから、


「これで準備は完了ですな」


「はい」


「後、勇者様方にこれをお渡しいたします」


 王様から身分証を受け取った。


「これは何ですか?」


 俺とアスナは冒険者カードを、ミリアリアに関しては王族であるため持っていないはずがない。しかも今、渡された物に書かれているのは、殆どが嘘の情報。あっているのは名前と年齢くらいだろう。


「勇者様方の通っていただく学院はごく一部の者を除き、その殆どが貴族のご子息ばかりです。特に最上位のクラスは貴族ばかりと聞いております。その中で目立たずにいるには、勇者様方を貴族と言うことにするのが一番かと思っての」


 なるほど、確かに王様の考えには一理ある。ただ、


「俺もそうだが、アスナも貴族の礼儀などは分かりません。それにミリアリアの身分証はこれで大丈夫なのでしょうか」


 俺がミリアリアの渡された物を見たとき、そこには最底辺の貴族としての称号が書かれていた。俺たちも同じなのだが、さすがに一国のお姫様にその称号はと思ったのだが、


「私はこれでいいのです。お二人と一緒に編入するのですから、一人だけ身分の違う者がまぎれているのも変ですし、学園内で動きにくくなってしまいます。それに、隣国でも私の二つ名は知られておりますが、本名と顔は知られておりません。ですので問題ないのです」


「ミリアリアがそれでいいならいいが」


「はい! それと貴族の礼儀についてですが、ここからアルセリア王国までは二週間あります。その間にお教えいたしますわ」


「そうじゃの。それがよかろう」


「っえ!」


 その話に対して少し嫌そうな顔をしているアスナ。


 内心で俺も少し嫌な予感を感じていた。


「どうされたのですかお二人とも」


「いや別に」


 誤魔化す。


「何でもないわよ」


 そそくさと馬車に乗るアスナ。


 それに続きミリアリアも馬車に乗り込んだ。


「では王様行ってまいります」


「ああ、体には気を付けての」


「分かりました」


 王様に一礼した後、馬車へと乗り込んだ。


 そして、隣国アルセリア王国、王都、リーベルグに向けて出発した。






 スレイブ達がアルセリアへと旅立ったころ、冒険者ギルドのマスター室にゼルドリス達が来ていた。


「待たせてすまんかったな」


 ゼルドリス達に一言挨拶した後、


「今日はお主ら勇者パーティーに指名依頼が来ておる」


「指名依頼か!」


 足と腕を組んで偉そうな態度のゼルドリス。


 その横で優雅にお茶を飲んでいる三人。


「で、どんな内容だ!」


「ああ、今回の依頼だが、隣国のアルセリア王国のことは知っておるか」


「名前くらいわな」


「そのアルセリア王国の王都、リーベルグには貴族の子息や一部の優秀な者が将来騎士になるために通う学園がある。今回の依頼はそこからの依頼で、勇者様方に臨時教師として授業を行ってほしいらしいんだ」


「ほ~、面白い依頼だな。で、報酬はどれくらいだ」


「これだけは出すとのことだ」


「ほ~、いいじゃないか。その依頼受けよう。お前らも文句ないな」


『は~い』


 ゼルドリス達もスレイブ達に遅れてではあるが、アルセリア王国に向けて出発するのであった。

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