第三十八話 試合
ゼルドリスが正面から大振りの攻撃を仕掛けてくる。
それに対して俺は、どうしたらいいのかと思いながら客席のミリアリア達の方を見てみる。
すると、二人で何かを話しているようで俺の方を見ていない。
正直この攻撃を受けたくないし、反撃をしたい。ただそうしてしまうと、この試合が終了する。
たった一撃でだ。しかもゼルドリスの見せ場なし。
「仕方がないか」
ぼそりと呟きながら剣を構える。
そして、
ッキーン!
俺の剣とゼルドリスの剣がぶつかり合う。
俺は少し押されている風に装いながら心の中でため息をつく。
「受け止めたか! なかなかやるな。だがもう限界だろう? どうだ降参しないか? したらいいじゃなか。そうしたら痛い目に合わなくて済むぞ」
「お心遣いありがとうございます。ですがまだ試合も始まったばかりですのでもう少し頑張らせていただきます」
ゼルドリスからの提案を断る。
流石にここまでお粗末な技? と呼べるかも分からない代物を見せられるとは思わなかった。
「そうか! なら仕方がないな」
俺から一度距離を取る。
「これは使いたくなかったんだがな」
あれ? 本気を出さないんじゃなかったのか? と思いながら受け止める体勢を取る。
「おいおい、本気か? この攻撃を受け止められる気か? いくら本気ではないとはいえ、腕の骨の一本位なら折れちまうぞ」
それほど自信があるのか。
「ご心配、痛み入ります。ですが私は勇者様に胸をお借りしている身です。それなら、勉強として勇者様の攻撃を受けてみたく思います。その犠牲が腕一本と言うのであれば喜んで捧げましょう」
「そうか」
それだけ言うと、先ほどとは違い、洗練された構えを見せる。
隙がないとは、言えないが先ほどよりはましだろう。それに、体全体に流れる魔力が足へと集まっている。意識的に行っているとは思えないので無意識なのだろうが、それほどの気合を感じる。
この一撃で終わらそうと思っているのだろう。
「行くぞ~!」
叫び声をあげて向かってくるゼルドリス。
その攻撃の速度はミリアリアの十分の一程で、止まって見える。
ただ、
「勇者殿! それではスレイブ君が死んでしまいます」
だがその言葉がゼルドリスに届くことはなかった。
まあ心配されなくても、これくらいで死ぬはずもなく。受け止める。
一直線に向かってくる突きでの攻撃を、剣で受け止めて見せた。
「!!」
そのことにはゼルドリスも少し驚いている。
それと、審判で立っている副学園長が一安心といった顔をしている。それに反して、学園長は少し心配そうな顔をしている。
いつ、俺の正体が知られるかと気が気ではないのだろう。
「何をした!」
「?」
ゼルドリスの言葉に対して頭を捻って見せる。
「何をしたと聞いているんだ! お前を殺すつもりで放った一撃を、こうもあっさりと止めたんだ。何か反則的なことをしたんだろう」
「いえ」
「嘘を吐くな! なんの力もないお前が、俺の攻撃を止められるはずがない! さあ言え! 何をしたか吐け!」
「言っていいのか?」
「だから言えと言っているんだ!」
「はあ~、なら言うがそんな攻撃くらいでいきがるなよ。ただの突きでの攻撃だろ? そんなのっそりとした攻撃くらい簡単に受け止められるさ。そろそろいいだろう。少しは本気を見せてくれよ。いくら本気を出さないって言ったって、このままじゃ不完全燃焼で、終わっちゃうぜ。それともこれがお前の出せる全てなのか?」
少し挑発的に言ってみると、
「いいぜ。お前の望み通り、俺の持つ最大の攻撃を放ってやるよ! ただ、どうなっても知らないぜ」
「楽しみだ」
俺とゼルドリスは一度距離を取る。
そして、魔力も使わずに自身の分身を作り出した。
「これが剣豪のスキルだ! 魔法は使わないと言ったが、スキルを使わないとは言っていないぜ」
「そうだったな」
流石にスキルだけあって見事だ。だが、そのスキルを使うにはゼルドリスの能力は低すぎる。
「俺達二人の攻撃をどうやって受け止める」
二人同時に左右から攻めてくる。
ただ、
「ほれ」
俺は軽くゼルドリスの剣を避ける。
「は~?」
何故、躱されたのか分かっていない様子。
そこから連続で仕掛けてくるも、本物のゼルドリスは一人で、もう一人はただの分身、本物の攻撃ではない。なら、本物の攻撃を避ければいい。
そして、ゼルドリスは殺気丸出しで、さっきから攻撃をしてきている。分身に殺気は一切ない。つまり、殺気を感じる方の攻撃だけを躱していればそれが本物のゼルドリスの攻撃となる。
もしも、しっかりとした戦闘能力を持つ者が、このスキルを使ったらそれは手ごわいだろうと思ってしまった。
「は~、は~、なんで、俺の攻撃が当たらないんだ!」
自分の攻撃が当たらないことを疑問に思っているゼルドリス。
それをマジで言っているとしたら、こいつはダメなのだと思った。
そして俺は、そろそろこの試合を終わらせないといけないと思い動き出すのだった。
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