第二十九話 王都
俺達は王都へと帰って来た。
ミリム村から二日。
「王都を離れて一週間程だが久しぶりのように感じるな~」
俺は、王都の風景に懐かしさを感じていた。
「そうですね。私もなんだか久しく思います。何なんでしょうねこの感じ」
ミリアリアも同じ気持ちのようだ。
「二人とも、たった一週間しか経っていないのよ。それなのに一か月は離れていたみたいな反応して」
「アスナは何ともないのか!?」
「っえ! 私は別に、いつも見ている風景だし」
少し顔を赤らめながらそっぽを向く。
そんな姿を少し可愛く思った。
「そろそろか」
俺は馬車から外を見て、ぼそりと呟く。
辺りは貴族街、大きな家が建ち並んでいる。
この道の先にあるのは王城。
「そうですね。お父様は元気でしょうか?」
「心配で夜も眠れないんじゃないの」
「そうかもしれませんね。はあ~、もう少し娘離れをして欲しいものです」
「え! 本当にそうなの」
「はい、いつものことです」
そう言いながらため息をつく。
ミリアリアも苦労しているんだろうな。
「でもいい人じゃないか王様。ミリアリアが呪いを受けたときだって必死に治そうとしていたし」
「そうですね。母上はもういません。そのため私のことを必死で守ろうとしているのです。いい人なんですけどね~」
少し疲れた様子のミリアリア。この後に起こることが予想できているかのよう。
そして、城の前に馬車が到着し、扉が開く。
『お帰りなさいませ! 勇者様! ミリアリア様! アスナ様!』
入り口の前に並んでいるメイドと執事が一斉に頭を下げて出迎えてくれる。
俺から順番に馬車から降りると、俺達の方に向かってものすごい勢いで突っ込んでくる者がいる。
「誰だ?」
よく見えず誰かわからない。
「アスナ、先に降りてください」
「なんでよ」
「なんでもです。お願いします」
「別にいいけど~」
アスナが馬車から降りると同時に、王様が飛びついてくる。
「お帰り~、ミリた~ん」
その光景に俺は少し引いた。
まさか近づいてきていたのが王様で、飛びついてくるとは思わなかった。
「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
ビックリのあまり悲鳴を上げるアスナ。
「お、お父様」
「っえ! ミリアリア、では君は……アスナ君ではないか!」
何故かアスナに抱き着いたまま冷静に状況を理解する王様。
ただ、
「離れろ!」
王様であることを理解した上で思いっきり引きはがすアスナ。
「何をするのですか! 王様であろうと許しません」
「すまんの、娘と間違えたのじゃ」
頭を下げる王様。
俺はミリアリアの耳元で小声で話す。
「ミリアリア、分かっていたのか」
「はい。お恥ずかしながら、お父様のことですからこのようなこともあるかと思っておりました」
馬車の中での疲れた様子はこのことを予想していたからか。
「だがいいのかこの状況」
「そうですね」
ミリアリアが二人の間に、
「アスナ、そのくらいで許してはもらえませんか? お父様に悪気があったわけではありませんので」
「それはそうかもしれないけど~、そんなことよりも、あんたこうなるって分かっていたでしょ!」
「っえ! ……なんの、ことでしょうか」
「しらばっくれるんじゃないわよ! 私に先に馬車を降りるように促したのはあなたでしょ!」
「そうでしたっけ?」
アスナはかなり怒っている様子。
「そうよ。あの時あなたが先に降りていればこんなことにはならなかったのよ」
「それは嫌です!」
はっきりと言い切った。
「やっぱり!」
「あ!」
失言をしてしまったと、思わず手で口元を隠すミリアリア。
そして何も言わずに頭を下げている王様。
そろそろか、
「アスナ、それくらいで許してやれ!」
俺は二人の間に割って入る。
「スレイブ! でも~」
「王様にも悪気があったわけじゃないんだ。ただ、娘であるミリアリアのことが心配だっただけさ。ちゃんと確認をしなかったところに落ち度があるかもしれないが、王様が頭を下げて謝っているんだ。許してやってもいいんじゃないか?」
「それもそうかもね」
「それに、ミリアリアのこともな。別にアスナのことが嫌いでこんなことをやったわけじゃないだろう」
「私がアスナのことを嫌いになることなどありません」
「ミリアリアもこう言っているしな」
「分かったわ。今回はスレイブの顔に免じて許してあげるわよ」
仕方ないと言った感じではあったがアスナの機嫌も治った。
「王様、そろそろ今回の件について報告をしたいのですがよろしいでしょうか?」
今の王様の姿を見てどう話したものかと思ったがそのまま伝えることにした。
「そうじゃの、では中へと移動するかの」
お、おう。普通に話す王様の姿に少し驚いた。
正直なことを言うと、王様のミリアリアの呼び方についていろいろと聞いてみたいこともあったが、今はそんなことよりも、今回の依頼でのことを話しておかないといけない。
そして、王様と謁見の間へと移動した俺達は、村での出来事について話すのであった。
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