第二十六話 決戦 3
俺の攻めに対して動きを見せない悪魔族。
「そういえばお前の名前を聞いていなかったな。俺達、悪魔族に歯向かった、勇者の名くらい知らねばな」
動じぬ顔で聞いてくる。
「スレイブ=アストレイ、それがお前達、悪魔族を滅ぼす勇者の名だ」
「そうか。最後に俺の名を教えてやろう。悪魔族の部隊長、グレコスと隣にいるのが同じく部隊長のアルドだ。お前を殺した者の名だ覚えておけっと、言ってもすぐ死ぬのだがな、ハハハハハ」
調子のいいやつだ。
「そうか。ここまで来るまでに倒してきたやつらは、名すら聞く前に倒してしまったからな」
自分達の倒した相手の名くらいは知っておきたかったが、弱すぎてその前に倒してしまったからな。
だが今回の相手は強い分、少し話す余裕がある。そのおかげで名を知ることが出来た。
「聞けて良かったよ」
「そうか。そうか。自分を殺すやつの名も知らずに死ぬのは気汚毒だろう」
「いや、自分が倒す相手の名くらい知っておかないと失礼だと思ってなと言っても、一週間もしない間に忘れそうだがな」
「生意気を言うわ」
俺は剣で右から斬りかかる。
「軽い攻撃だな。この程度で俺達を殺すのか?」
「そうだ。それにこの攻撃が軽い、か? 本当にそうかな」
俺は少し力をこめる。すると、少しずつグレコスを押し始める。
「なに!」
「何を驚いているんだ! お前達からしたらこの程度なんだろう」
俺は剣に微量の魔力を流しながら戦っている。それに合わせてアスナの強化魔法で基礎能力を向上、それによりグレコスと対等に戦えている。
なぜグレコスが、今、俺の攻撃に押し負けているのか? それは剣に流している微量な魔力に秘密がある。先ほどのミリアリアとの戦闘時、何らかの魔法でミリアリアの魔力を打ち消していた。
ただあの時は、誰でも気づけるほどの魔力が剣に集まっていた。それなら、気づかれない程度の魔力であればいいのではと考えて微量な魔力を剣に流している。
ただその中でも効率的な魔力の運用をすることで最大の効果を引き出しているのだ。
「面白いことをするな」
「気づいたのか」
「ああ、魔力と関りが深い我ら悪魔族が気づかないとでも思ったのか」
「いや、試しただけさ。気づかれなければ儲けもんだと思ってな」
「当てが外れたな」
「いや、そうでもないさ」
俺は、先ほどより準備をしていた魔法を使う。
今回使うのは風魔法のウインド、小さな風を起こす魔法だ。この魔法を最小減の力で発動。
「おいおい、お前は本当に勇者か! たかがその程度の魔法で俺達に通用するとでも思っているのか!?」
「ああ、思っているさ」
そう魔法っていうのは使いようだ。ただ威力の高い魔法を使えばいいと言うわけではない。
今放った魔法のようにな。
「アンチマジック! これで終わりだ」
「勇者様! その魔法に気を付けて!」
ミリアリアが何かを叫んでいる。
「その魔法か」
俺はグレコスが放った魔法名を聞き、その全てを理解した。
「その魔法、俺には通用しないぞ」
「は? 俺達よりも弱い人間にこの魔法が効かないわけがないだろう」
「そう思うならやってみればいいさ」
俺が城で修行していた一週間前のことである。休憩の時間や修行が終わった後など、城の図書室で悪魔族のことについて調べていた。自分達がこれから戦う相手のこと、調べておいて損はないと思ったからである。本自体は王様に用意してもらい毎日のように読むことが出来た。ただ、殆ど記録もなく、分かったことは、悪魔族の使う魔法二つだけだった。
その内の一つが、今、目の前で放たれたアンチマジックであった。
「魔法が、消えない、だと!」
思った通り、グレコスより俺の方が能力は上のようだ。
そして俺の放った風魔法ウインドは、打ち消されず、グレコスに当たった。
「があ~~~~~」
目を抑えて声を上げる。
「人間が! アルド! 全力で叩きつぶせ」
魔法で目潰しをして動きを止めることには成功したが、怒らせてしまったようだ。このまま手を抜いてくれているのであれば楽だったのにな。
背後で一歩も動かずにいたもう一人の悪魔族、アルドが俺へと向かってくる。両手に持つ斧を見て、先程斧を投げて攻撃をしてきていたのはこいつかと思った。
俺目掛け斧を投げてこようとする。
「ウインドショット!」
手で銃の形を作り、アルドの手、目がけて魔法を放つ。
一発、二発。きれいに命中して、手に持っていた斧を落とさせることに成功。
「人間、いやスレイブだったか、なかなかやるではないか。だが、それもここまでだ」
近くで見るとまたデカイな。
「相手が悪かったな」
すぐに斧を持ち直したアルドは、俺の頭上より斧を振り下ろしてくる。
なかなか重そうな一撃、
「勇者様ーーーーーーーーーーー!」
心配するミリアリアの声が聞こえてくる。
それと同時に、アルドの攻撃に合わせて魔法を放とうとしているグレコス。
グレコスの目を潰して動きを止めていたはずだが、もう回復したのか。
かなりピンチのようだ。
だが、この程度のこと切り抜けられないでどうする。
俺は新たな魔法を発動するのであった
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