第二十三話 悪魔族二人

 目の前に現れた悪魔族二人。


 二人から感じる魔力量は、先ほどまで戦ってきた連中とは明らかに違う。


「!!」


 悪魔族が俺達に気づいた。


「何故ここに人間がいる」


「あ奴らは何をしているのだ」


「どうせさぼっているのだろう」


「後でお仕置きだな」


 二人で話している。


「ここまでの道を守っていた悪魔族のやつらならしっかり仕事をしていたぞ」


「何を言っている」


「何って、奴らならしっかりとここまでの道を守っていたと言っているんだ。まあ、無駄な努力だったがな」


「どういうことだ!?」


 食いついてきた。


「殺してきたんだよ。ここに来るまでに出会った悪魔族たちをな」


「!! 人間ふざけるなーーーーーーー!」


 俺の右側より悪魔族の男の拳が飛んでくる。


「そんな攻撃が通用するわけないのに~」


 後ろにいるアスナがため息交じりにそんなことを言った。


 まあその通りなのだが。


 俺は指一本でその拳を受け止めて見せる。


「!! 何をした!」


 人間の俺が、悪魔族の拳を受け止めたことをかなり驚いている。


「こんなはずは、とでも考えているんだろう。だがな」


 俺はその場より一瞬で右に移動。右側にいる悪魔族の懐へと潜り込み、腹に一撃与える


「っぐ!」


 悪魔族の体が、くの字に折れ曲がる。


 何とか気を失わずにいるが、かなりギリギリのようだ。


「これで終わりだ!」


 もう一人の悪魔族が大量の魔力を集め始めた。そこから想定される魔法の威力、


「少しやばいな」


 もし放たれれば、この洞穴のアジトが崩壊する。


「少しは後先のことを考えてみたらどうだ」


「人間如きに心配される必要はない」


 既に発動できる段階まで来ている。


 仕方がないか、


「今ならまだ引き返せるぞ」


「無用」


 悪魔族が魔法を放とうとする。


 だが、その魔法は俺達の方には来ず、その場で爆発した。


「な、なにが」


 目の前で起きたことを理解できずにいる悪魔族。


 見えてくる光景にはボロボロになった悪魔族の姿が、


「耐えられたか」


 正直もう少しダメージがあるかと思っていたがこんなものか。それに悪魔族の周りに張った結界もなんとかもってくれてよかった。かなりギリギリだったがな。


「まさか俺の魔法が失敗するとはな。だが、二度はない」


 また先ほどと同じ魔法を放とうとする。


 だが、


「二度も撃たせるか!」


 この魔法には発動に少し時間がかかる。その時間を二度も与えることはない。


 腰に下げている剣を抜き、悪魔族の右腕を斬り落とす。


 その痛みから集中力を切らせていたのと、魔力の流れが乱れたことで魔法が発動することはなかった。


「人間! なめたことをする。だが! それもここまでだ!」


 二人そろって俺へと攻撃を仕掛けてくる。腕に集中された魔力。正面からまともに受ければひとたまりもない。


 だが、そんな攻撃ぐらいでどうにかなるはずもなく、


 ピタ。


 俺は両手の人差し指一本でそれぞれの拳を受け止めて見せる。


「!!」


 そのことに驚きながらも、間髪入れずに蹴りが飛んでくる。だがその攻撃が俺へと届くことはなく。先ほど受け止めた拳を思いっきり押し返し、悪魔族二人の体勢を崩す。そうすることで、悪魔族の狙いははずれ、あらぬ方向へと行ってしまうのであった。


 だが足での攻撃を仕掛けてきたのは一体のみ。もう一体の悪魔族はすぐに体勢を立て直す。しかもかなりの巨体のわりにかなり俊敏な動き。


 俺は悪魔族の体勢を崩したと油断している隙をつかれ背後を取られる。


 だが、動き自体は読み取れる。


「お前は後回しだ! まずは後ろにいる二人をやる」


 そう言って、おれから視線を外す。


 だがそんなことを許すわけがない。


 俺は一瞬で悪魔族の前へ移動。


 そして、


「お前の相手は俺だ、ぞ!」


 殴り飛ばす。


 そのまま、壁へと吹き飛び気を失ってしまう。


「さて、残ったのお前一人か」


 片腕を失った悪魔族のみとなる。


「人間、何者」


「ただの人間さ。ただ、少し強いだけのな」


 残った一人をたおして、もう一人にもとどめを刺す。


 既に悪魔族を一人捕まえているため、こいつらを生かしておく必要はない。そのためこいつら二人はここで死んでもらう。


 それにより決着。


「お疲れ様です勇者様。お見事な戦いでした」


「まああれくらい出来て当然ね。それにまだ本気を出していないよね」


「バレたか」


「バレバレですね。アスナにも気づかれているとは、勇者様こういうことはもっとうまくやらないとですね。もしもの時に大変ですよ」


「まあ、力を隠して戦うことなんてないとは思うけどな」


「それでもよ。それに、ゼルドリス達に対してはまだ私達のことは秘密でしょ。もしも、あいつらの前で戦う時には力を隠して戦わないといけないんだからね」


「それもそうだな」


「それとミリアリア! 私にもってどういうことよ! これでも勇者パーティーの一員なんだからそれぐらい気づいて当然でしょ」


「そうですね。すみません」


 少し笑いながら答えるミリアリア。


 それに対してアスナは、


「何笑っているのよ! はあ~、もういいわよ」


 少しため息をつきながらミリアリアのことを許した。


 そんなやり取りが出来るのも後少し、


「二人とも先に進むぞ」


 俺は気を引き締めて言う。


 俺の声を聞いた二人は、


『はい』


 声をそろえて返事をする。その声は先ほどまでじゃれ合っていった時とは違い、真面目な声。


 二人もこの先にいる二人の悪魔族のことを理解していた。


 この先にいるのはこれまで戦ってきたやつらより遥かに強い。先程までのように力を抑えて戦うようなことは出来ない。全力を出さないと確実に殺されるだろう。


 だからこそ気を抜けないのである。

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