第十三話 アスナの思い

 王様から話された今回の依頼の内容、それは、


『王都から馬車で二日の所にあるミリル村からの依頼。ここ一週間程、盗賊が現れて村の作物を襲っている。それとは別に、山へと仕事に行った者達が一日一人ずつ、行方不明になっているということ。今回の依頼は、盗賊の捕獲と、攫われた村人の救出をお願いしたいということ』


 依頼内容を聞いた俺達三人は、


『分かりました!』


 三人、声をそろえて答えた。


 そのことに驚き、俺達三人は顔を見合わせて思わず笑ってしまった。


「さすが勇者殿達だ!」


 俺達の返事を聞いた王様も笑顔で上機嫌。


「それと、一つお願いがある。今回の依頼ではお主達が勇者パーティーであることは内密に行ってもらいたいのじゃ」


 俺は、闘技場のことを思い出し、


「分かりました」


 それだけ答えた。


「それでは勇者様達は、すぐに準備に入ってくれ! 馬車はわしが準備する。一時間後に城の入り口に集合じゃ」


『は!』


 一旦解散となった。


 俺は城で貸してもらっている部屋へと戻り、身支度をするのだが、


「準備をしろと言われても~、特にこれと準備する物もないんだけどな~」


 部屋の中を見渡しながら考えていると、


 コンコン! コンコン!


 部屋のトビラをノックする音が聞こえてきた。


「どうぞ!」


 俺が声を掛けると、アスナが部屋の中に入ってきた。


「なんでアスナがここに?」


 俺がそんなことを聞くと、


「すみませんでした!」


 いきなり頭を下げ、謝られた。


「???」


 何故かと俺が頭を捻っていると、


「一週間前のダンジョンでのことです。本当であれば私がスレイブ、いえ勇者様を守るための行動をとるべきでした」


「いや、そんなことないよ」


「いえ! 私は女神様より勇者様を守る使命を受けていました。それは、女神様があの事態が起こることを知っておられたからだと思います。だからこそ私を、ゼルドリス達の勇者パーティーに入れて、勇者様を見守らせたのだと思います。ですが私はあの時、あなたをかばいきれず、傷付けてしまった。あなたを一人で行かせてしまったのです」


 目の前で涙を流しながらアスナは、大きな声で謝ってくる。


 話し方が王様の所の強い口調ではなく、凄く女の子らしい話し方。それに俺の呼び方がスレイブと呼び捨てから、勇者様と呼ぶようになっている。


「もしかすると、この世界を救う勇者様を、私達は失っていたかもしれない。あの時、勇者様のお言葉に従わず、無理やりにでも付いて行くべきだったと私は後悔しました。自分のことを殺したくなるくらいにです」


「アスナ! もういいよ。俺は別に君を攻める気はない。だってあの時は自分が本当の勇者だなんて知らなかったわけだし。あの時、俺が付いてこなくていいと言ったのは、あのパーティーに残る方が、君のためだと思ったからだしね」


「ですが、私……私のせいで、勇者様に不快な思いをさせたのではありませんか」


「そんなことはないよ。正直一人になって清々した感じだったかな」


「無理をしておられませんか? 私のことを思って下さっているのであればその必要はありません。いくらでも、罵ってもらって構わないのです……!」


 美しい顔が見る影もないくらいに涙でボロボロになっている。


 俺は彼女に近づいて涙を拭いてやる。


 すると少し驚いている。


「何をされるのですか!」


「何って! せっかくの可愛い顔が涙で台無しになっていると思って拭いただけだよ」


「え!!」


 顔を真っ赤にしている。


「アスナ、自分のことをもう責めなくていいんだ! 俺はこうして無事だ! 自分の力のことを知ることも出来た! それに」


 俺は、聖域のスキルがレベルアップしたことで使えるようになった、火魔法を使って見せる。


「今では、こんな感じに火魔法だって使えるようになったんだ。これも勇者パーティーを追い出されたおかげだと思っているんだ。もしあのまま勇者パーティーにいたら、今もまだ状態異常の回復しかできないままだったと思うんだよ」


 俺の言葉で顔を上げて、少し笑顔になった。


「それに」


 俺は少し溜めた後、


「今がすっごい幸せだからさ」


 全力の笑顔で言った。


 すると、アスナも涙が止まり、笑顔を見せてくれた。


 その姿を俺は美しいと思ってしまった。


「ほら! 早く準備しないと約束の時間に遅れちゃうぞ!」


「はい!」


 笑顔で答えて俺の部屋を出て行った。


 俺は心の中で一息ついた後、もう一度自分の部屋を見渡してから、城の入り口、馬車が来るところまで移動するのだった。


 ただ一つ、さっきのアスナと俺の会話がミリアリアに聞かれていなければいいのにと思う俺であった。

 

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