第十一話 姫様との試合
闘技場内で俺とミリアリアが向き合って立っている。
観戦者の声で一杯であったが、不思議と俺の心は落ち着いていた。
もっと緊張しているものかと思っていたが、そうでもないようである。
それに、
「勇者様、今、何をお考えですか?」
「凄い人だなと思ってね」
「そうですね。ここに集められているのは様々な国の国王や領主など貴族の方ばかりです。父上曰く、勇者様のお披露目を兼ねているらしいですよ」
「そうなのですか、では王都の住民はここには来ていないのですね」
「そうですね。まだ本当の勇者が現れたことを大々的に発表する気はないようです。ですが、他の国の国王や貴族には知ってもらう必要があるそうでこのような場を設けたそうですよ」
なるほど。だけどこれは、
「じゃぁ、ゼルドリス達にも俺が本当の勇者であることは伝わっていないわけですか?」
「そうですね。今回の観戦に関しては、一般市民の立ち入りが禁止とされています。それは勇者パーティーの冒険者の皆様も例外ではないでしょう」
「そうですか。少し安心しました」
「それは良かったです」
とそこで、
「それではこれより、勇者スレイブ=アストレイと、我が娘ミリアリア=クリセリアの模擬戦を開始する! 両者準備は良いな」
「はい!」
王様の問いかけに対して、二人声をそろえて返事をする。
「それでは始め!」
王様の掛声により試合が開始された。
お互いに剣を構えたまま、様子を伺っている。
隙がない。それが最初に抱いた俺の感想だ。
さすがにこの国で右に出る者がいないと言われる実力者。
一瞬でも隙を見せられないと思い、俺に緊張が走る。
そして最初に仕掛けてきたのはミリアリアからであった。
正面からの攻撃。これが普通の剣士の攻撃であれば余裕で躱せる。
だが、今回の相手は神速の姫君と呼ばれるミリアリアの攻撃である。その速さは常人の三倍以上。
「予想以上だなこりゃ」
俺は自分の持っている剣で攻撃を受け止める。
攻撃の重さが尋常ではない。
「よく受け止めましたね」
「ええ」
ミリアリアからの言葉に対して相槌を打つので精一杯。
ミリアリアの攻撃力に突進速度が合わさって、とんでもない破壊力になっている。
普通の人がこの攻撃を受けたらひとたまりもない。
俺は、後ろへと下がり距離を取る。そこからミリアリアと同じように真正面からの全力の攻撃を仕掛けていく。
「同じ攻撃ですか! 面白いですね」
ニコリと笑いながらミリアリアは、俺の攻撃を正面から受けて立つつもりのようだ。だが、俺の狙いは違う。
ミリアリアとの距離が数センチの所で方向転換、それにより俺を見失ってしまうことに。
「どこに行きましたの?」
辺りをキョロキョロと見渡すミリアリア。
俺は、一瞬にしてミリアリアの背後に回り込み、木剣で一撃を与えようと攻撃を仕掛けると、
「後ろですか!」
その攻撃を受け止める。
「さすがですね勇者様。まさかあの一瞬で背後を取るなんて」
「いえミリアリアこそ、よく気付きましたね」
本当に驚いている。この四日間、ミリアリアに勝つために考えてきた作戦の内の一つを、こうも簡単に見破られるとは思ってもいなかった。しかも声すら出さずにいたはずなのに、どうして気づかれたのか?
「簡単ですよ。勇者様はまだ、殺気のコントロールが出来なようですね」
「殺気ですか」
「そうです。それじゃぁ、いくら背後をとってもすぐに気づいちゃいますよ」
自分でうまくやっているつもりだったが、さすがにミリアリア程になると気づかれちゃうか。こればかりは一朝一夕ではどうにもならないな。
だけど、今、目の前に最高のお手本がある。
「そうですね。こればかりはどうしようもないですが」
俺はあえて殺気丸出しで向かって行く。
それに対して笑顔をくずさないミリアリア。
何か考えがあるのかと少し疑いながら作戦を決行する。
「勇者様、これで終わりです」
俺目掛けて剣を振り下ろしてくる。
ミリアリアの剣が俺に直撃しかけたとき、剣は俺をすり抜ける。
「!!」
それに驚くミリアリア。
俺はその隙を見逃さず一撃を与えた。
「流石ですね勇者様」
「それまで、勝者は勇者スレイブ!」
「お~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
王様の宣言と同時に観客の物凄い声援が上がった。
俺はミリアリアと握手を交わしたあと、闘技場を後にするのであった。
試合終了後、
「完璧に力を自分の物にしているわね」
私が試合を見終わった後、感想を言っていると、
「どうじゃったかの?」
「はい! いいものが見れました。それに、姫様も私と同じ、女神に選ばれた者だとは少し驚きました」
「言っていなかったかの?」
「はい! 今初めて聞きましたよ王様」
「それはスマンかったの。で、話は受けてもらえるかのアスナ殿」
「はい! そのために私は、ここに来たわけですから。それに、本当ならすぐにでもスレイブと会いたいのに、王様が今日まで待って欲しいと言うから私、我慢していたのですよ」
頬を膨らませて王様に愚痴を言う私。
「スマンかったの。だが、こういうのにはサプライズが必要かと思っての。それに、彼の力を見てからでもおそくはないじゃろう」
「それもそうですけど」
と思いながら私は、王様と一緒に闘技場を後にするのであった。
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