第十話 一週間
俺が王城へ来てから一週間が経った。その間、俺は新たに手に入れた力を試していた。
剣の能力に、火と風の魔法、初めてのことばかりで最初は戸惑うこともあったが、姫様、いやミリアリアが毎日のように特訓に付き合ってくれたこともあり、三日ほどで扱えるようになった。
そこから今日までは、王城に常駐している部隊の人達との実践訓練を毎日のように続けていた。
「勇者様! 今日はここまでにしときませんか?」
王城に常駐している部隊の一人と剣の手合わせをしていたのだが、この後のことを考えて声を掛けてくれたのである。
「そうだな。この後に控えている大一番までに体力を使ってしまっては怒られてしまうからな」
「そうですね。怒らすと大変でしょうしね」
「そうだな」
などと話しながら剣を置く。
この後俺は、ある試合を控えていた。
試合というよりは最後の訓練と呼ぶべきかもしれないけれども、
「ですが勇者様! この一週間で見違えるようにお強くなられましたね」
「そうか?」
俺はこの四日間、部隊の者達全員と模擬戦を行っていた。そして今しゃべっている者と最後の模擬戦を終えた所であった。
「ええ、まさか部隊の皆に勝ってしまうとは思いもしませんでした」
初日は苦戦もしたし、負けもした。だが、それ以降、俺は相手の攻撃を一撃も受けず、倒していった。
「しかも、剣の実力は既に部隊長以上ですが、それ以上に魔法の腕前が凄いです! 二種類の魔法を巧みに使いこなした上に、それを組み合わせた剣技! 惚れぼれします」
「そんなにおだてても何も出ないぞ!」
「いえ! おだててなんておりません」
などと会話をしている俺だが、その成長に一番驚いているのは自分自身であった。
一週間前は素人に毛が生えたレベルの剣の扱いしかできなかった。まして魔法なんてどう使うかも分からなかった。なのに、たった一日で魔法の発動の仕方をマスターして、二日目には全ての火と風の魔法を発動できるようになり、三日目には戦いながら使えるようになっていた。そして一週間が経つ頃には、完全に自分の手足のように剣や魔法を使えるようになっていた。
さすがに驚いているが、これも聖域のスキルのおかげなんだと理解していた。
「ですが、たった一週間でまさかあのお方と模擬戦をされるとは」
「まあな。だけど負ける気はしないよ」
「そうですね。自分も勇者様を応援してます」
「いいのですか? この城に仕える者がそんなことを言って?」
「いいんです。それにうちの部隊の皆は勇者様を応援すると言っておりましたよ」
「それは負けられませんね」
俺は気合を入れる。
そしてその時がやってきた。
「勇者様! そろそろ時間ですよ」
俺を呼びに来たミリアリアの声が聞こえた。
今日、俺が模擬戦をする相手でもある。
なぜそんなことになったのか? それは一週間前のことであった。俺が剣の扱いに少し困っていると、ミリアリアが剣の扱いを教えてくれると言ってくれたのだ。俺はそのお言葉に甘えることにしたのだが、その交換条件として出されたのが一週間後の今日、ミリアリアと模擬戦をすることだった。
ルールは簡単、魔法なしの剣のみの試合、気を失うかどちらかが負けを認めると負け。
ルール自体はかなりシンプルだが、相手は神速の姫君と呼ばれるミリアリアである。そんな相手に、たった一週間しか訓練をしていない俺が、どこまで通用するのか、はっきり言って分からない。
ただ、この四日間戦ってきた部隊の人達同様に、勝つことは難しいと思う。
だけど少し自身もあったし、この力の限界を少し試して見たくもあった。
正直、こんな気持ちになるのは初めてで何とも言えない。
ただ、今までの自分とは何か違う。だからこそ勝ちたい。
そんなことを考えていた。
「今日の模擬戦、楽しみですね」
「そうですね」
「私、負けませんからね」
「俺だって負けませんよ」
「そうですか、それは本当に楽しみですね」
ミリアリアは凄く楽しそうな顔をしている。
俺はどんな顔をしているんだろうか? 変な顔をしていないといいんだけどなと、思いながら闘技場へと入っていく。
「お~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
俺とミリアリアが闘技場に入ると同時に観客の声が聞こえてくる。
かなりの人数に観客。なぜこんなに人が集まっているのかと思うと、
「私と勇者様の試合ですからね」
ミリアリアにそれだけ言われた。
俺は、
「はぁ~」
ため息を付きながら闘技場の中を移動してミリアリアを向かい合う位置へ到着。
そして、王様の一言で模擬戦が開始されたのであった。
一方その頃、私はというと、
「アスナ様! こちらの席へどうぞ」
城の人にスレイブと、姫様の模擬戦が行われる闘技場へと案内されてやって来ていた。
「まさか王様にあのようなことを言われるとは思わなかったけど、それはそれで面白いわね。それにまさか、スレイブと姫様の一対一の模擬戦を見ることになるとは思いもしなかったわ。だけど、これは良い誤算ね。まさかスレイブの力が解放されているなんてね」
クスリと笑いながら、私は今かいまかと、模擬戦が開始されるのを待っているのであった。
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