第八話 勇者パーティーのその後 1
スレイブを勇者パーティーから追い出してから三日が経った。
とくにお金にも、ランク上げにも困っていない勇者パーティーのリーダーゼルドリスは、週に二回ほどしか仕事に行かずそれ以外の日は何もせずにグダグダと過ごしていた。
そのため今日は三日ぶりに仕事へと行くことにしたためにこうして冒険者ギルドへと集まっているわけである。
「今日はどの依頼に行こうか?」
朝飯を食いながら他のパーティーメンバーの意見を聞くゼルドリス。
「ダンジョン! ダンジョンに行こうよ」
ラミアが言うと、
「私もダンジョンでいいかな? 他の依頼は面倒だし」
「そうだね。ダンジョン探索なら余裕だしね」
クリスと、セルカもそれに賛成のようで、
「ならそれで行くか」
ダンジョン攻略に決まろうとしたその時、
「私は反対です」
ゼルドリス達の意見に異を唱えたのはアスナであった。
「私達は勇者パーティーです。そのことを考えると他にもっと受けるべき依頼があると思います。それに、彼、スレイブにこのパーティーへと戻ってくるようにお願いに行くべきです」
アスナからの言葉を聞いたゼルドリスは、
「アスナ! 何を言っているんだ。俺達勇者パーティーはもっと己の実力をこの世界のために伸ばさないといけないんだ。そのためには他の依頼を受けるよりも、ダンジョンに潜って強い魔物と戦うのが一番早いに決まっているだろう。それに、スレイブはこのパーティーには必要ないと、三日前のあの時に決まったじゃないか。それは彼自身も納得してのことだっただろう。いまさらその話を蒸し返してどうするんだい?」
(これでアスナも俺のことを頼りにするだろう。そして奴のことを忘れる。邪魔な奴だったぜ全くな。)
ゼルドリスはやんわりとアスナを言いくるめた気になっていた。
だが、
(この人は何を言っているのでしょうか? いつも不真面目な行動ばかり、それを自分は勇者だからいいんだと言っていますがそれももう時間の問題でしょう)
アスナは心の中でそんなことを考えていたが、ゼルドリスがそのことを知るはずもない。
「よっし! みんなの意見もまとまった所で、何処のダンジョンに行くか決めようか」
ゼルドリスがどこに行こうかと話し始める。
「私は前回と同じでいいと思うよ。あの時はスレイブがいて少し苦労したこともあったけど、今のメンバーなら余裕で行けると思うし、それを確かめたいと思うんだけど」
「私もそれでいいと思うよ」
「私も」
ラミアの提案に、他二人が賛同する。
「ならそうしようか。アスナはどうだ」
「いいんじゃない」
少し不満まじりに答えるアスナ。
「よっし! なら依頼を受けてくる」
そう言って、ゼルドリスが依頼を受けに行く。
その間、ラミア達三人はゼルドリスのことを話しているが、アスナだけはその輪に入らない。
(なんで私はここにいるの? 本来であればスレイブに付いて行かないといけなかったはずなのに、はぁ~~。でもこのパーティーはもう終わりね)
などと心の中で考えていた。
そんなことは知らない他のメンバー達。
「さて行くか!」
ゼルドリスは戻ってくるなりダンジョンへと向かおうとする。
「ちょっと! 準備はしなくていいの!?」
アスナの言葉に対して、
「大丈夫に決まっているだろう。いつも特に特別なことはしてないだろうが」
アスナはそれを聞いて反論しようとしたが、
(はぁ~、そうですよね)
心の中でため息をつくだけにとどめておいた。ここで何を言っても無駄だと分かっていたからである。
ゼルドリス達は、王都から二時間ほどの所にあるダンジョンへとやってきた。
入り口のトビラを開けて中に入るメンバー達。アスナ以外のメンバーは皆余裕の表情を浮かべていたが、アスナだけは別であった。
今回のダンジョン攻略はスレイブがいない。つまり支援をする者がいないということである。そのことを分かっていないアスナ以外のメンバー。
いつも地図を持ち、こっそりと案内をしていたり、パーティー全体に聖域のスキルを使い、状態異常にならないようにしていたりなど、ダンジョン攻略の際には裏方としてスレイブが動いていたことをアスナは知っていた。
そして、アスナが予想していたことが起こったのである。
「おい! 道が違うぞ!」
「でも、前来た時は確かこっちに行ったはずだったんだけど~」
ゼルドリスとラミアが言い合いをしていた。
理由は簡単である。先ほど通った道、本来は右の道を行かないといけなかったはずの道を左に来ている。そのために道に迷ったのである。
そのことを知っていたアスナは、彼らがどのように対処するかと思い、様子を見ていたのだが、予想した通りの展開となっていた。
「戻って右の道を行く!」
怒りながら戻っていくゼルドリス。その後ろを着いていく他のメンバー達。
「はぁ~」
パーティーメンバーの姿を見てため息をつくアスナ。
それからもこのようなことが数回続き、ついに予想していたことが起きたのであった。
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