第4話 人が人を助けるのに理由なんて要らない。
周りには誰もいない、大悟さんを呼びに行く時間もない。
僕が何とかしなければ。
目の前で人を死なせたくない、今だけは力を振り絞れ!
大男の首のバーベルは今はギロチンと化している。
男の首からギロチンをわずかでも浮かせるために全身の力を両手に込める。
自然と息が止まり、腕の血管が浮き上がる。
全身の血液の流れを感じる、心臓が筋肉に酸素を送るために必死(まさに死ぬほどの覚悟をもち全力で挑むさま)に拍動する。
僕の約60兆の細胞が目前の命を救うべく活動する。
が、びくともしない。
なんて無慈悲で残酷な現実、絶望なんて言葉でも生易しい。
男の顔にはもう血が流れていないようだ。
僕が持ち合わせる価値観と語彙ではこれだけの表現しかできない。
<ただ、ただ白い。数刻前まで人であったヒト>
もう死んでしまったのだろうか、どこかで聞いたことがある。
脳血流停止後3 - 4分を超えてからは危険な状態に陥ると、、既に何分経ったかも分からない。
力を入れ続けているこの両腕はもう何時間もこうしているような気さえしてくる。
「ごめんなさい。」
なぜ僕が謝るのか分からない。だけれども本心。穢れが無い、純粋な罪悪感。無力感。
「救えなくて、ごめんなさい。」
もう力も入らない、<スゥッ>全身の力が一度に抜けたように感じる。
僕には何もできなかった、最初から誰かに助けに求めれば良かったんだ…。やっぱり僕には何もできないいんだなと悲壮感に打ちひしがれていた、その瞬間。
「大丈夫か!!!???」
大勢の人の足音が聞こえる。
ここからの記憶は僕にはあまりない。
でも意識がなかったわけではないことは覚えている、ただ外界に触れたくなかった、内側に籠っていたかったんだと思う。
意識の遠く遠くから聞こえる。微かに振動する人々の声、一度近づいてまた離れていく救急車の音。
耳だけは聞こうとしていたんだ。
いつの間にか古びた体育館の椅子に座り、大悟さんの肩に寄りかかっていた。
ふと体を起こす。
「お前は、よく頑張ったよ。」
男らしい低音で安堵する響き。今まで心の中で感じていたぐちゃぐちゃのイヤフォンが一気にほどけるように、緊張もほどける。
記憶のなかでも僕は泣いていた。
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