第2話 おはよう絶望。
体が揺れている気がする。
鼓膜の振動がリンパ液に伝わりニューロンが興奮する。
三半規管で体がゆすられているのを認識している。
遠い遠い知覚が徐々に徐々に迫ってくる。
「守(まもる)さん、守さん!!」
大男が僕の体を動かしていたのだ。
こんなところで何してたんだろ、ふと記憶を巡らす。
その思考は刹那で中断され、殴り書きのメモを思い出す。
その時だけは恐らく世界最速の陸上動物チーターよりも速く動けた。
夢か現実か一刻も早く確認しなければ、その一心で起き上がる。
守の夢という希望の答えは”否”、紛れもなく現実だ。
紙は目の前にあった。やはり思考が止まる。
極限状態にある精神の人間は微動だにしないらしい、息をしているのかすら分からなかったそうだ。
まるで等身大のオブジェクト、これは先に出てきた大男[東郷(とうごう)和人(かずと)]の認識だ。
その時、僕は何から思考していけばいいのか分からなかった。
何故に失踪?
いつ戻る?
この店はどうするの?
僕にはできない。人と話せない。店長がいない店でどうしろと。無理。無理。不可能。拒絶。拒否。絶望。
子供の頃の記憶がフラッシュバックする。
別に僕は何をしたわけでもない。少しだけ自分の意見を言うのが苦手だった。
でも小学校のクラスメイトはそれを良しとはしてくれない。
最初は軽い言葉だった、『早く、なんか喋れよ』、何かを言えと言われるほど発言しにくくなる。
言動はエスカレートする、記憶が走馬灯のように走る、走る、走る。
無視、仲間はずれ、陰口、落書き、一人、孤独、空虚感、絶望。
個々の記憶が写真のように現像され蘇った。
「守(まもる)さん、守さん!!」
また同じ声が聞こえる。
「何があったんですか⁉、店長 大悟さんはどこに行ったんですか!?」
そんなことは僕が聞きたい、この言葉を口に出す気力すら無かった。
二年前と同じ深い深い暗闇に落ちていく、今度こそ戻ってこられないかもしれないなぁ。
せっかく見つけた安堵の場所、もう少しここの温もりを感じていたかった…
守は再び心の奥の奥に逃げてゆく。
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