新宿二丁目の喫茶店

ネオンテトラ

第1話 店長失踪!?

「よし、今日も頑張るぞ。」何気ない日常の小さな意気込みを小声でしつつ、扉を開く。

カラン コロン、

万国共通なのではないかと思われる、喫茶店の音が鳴る。


僕の名前は杉崎(すぎさき)守(まもる)今年で24になる。

縁あって店長の大悟(だいご)さんに22歳でニートと化していたところを拾われて、もう二年がたつ。

彼は僕が持てない全てを持っている、そんな風に当時は感じ 救われた。


そしてここは新宿二丁目のど真ん中、そうゲイの町だ。

勿論LGBTの方々を差別しているわけではない。

ただどうして、わざわざここにオープンさせたのかそこが疑問だった。


大悟さん曰く、『ゲイの街の中心に、喫茶店 これはイケル。』

そう、彼結構テキトウなのだ。

しかし、一度お客さんと話すと 自然と会話が弾む間と心地よいテンポ・年に合わない子犬のような笑顔。

僕なんかじゃ到底真似できない【THE・好青年】。

そんな彼だからこそ、先が見えない暗闇から引きずり出してくれた恩もあり 信頼し・言葉では言い表せない程感謝もしている。


幸い、二年も働いていると隣りのゲイバーの店主とも仲良くなり、顔を合わせると『まもるん~♡』と話しかけてくれる付き合いだ。(距離が近すぎるのは玉に瑕だが…)


基本的な営業の仕方は大悟さんが接客を担当しており、僕は注文の入ったコーヒーを作る。

小さい頃のいじめが原因で人と話すのが苦手だ、他人から常に暴言を吐かれているのではと精神病に陥ったこともある。

事情を知っている大悟さんの優しさに甘えており、接客はめったにしないのが現状。


昔からコーヒーの匂いをかいでいると自然と心が落ち着く、淹れたときにふわっと香る独特な匂い、丁寧に扱ってあげるほど雑味も消え、クリアな味わいになるのもいいところ。

席数は10席ほどのこじんまりしたお店だが何とか営業している。

ここは僕にとって第二の実家だ。


「大悟さん、おはようございます。」いつものように出勤の挨拶をする。

いつもなら『おぉ、おはよう守。今日もよろしく!』と出てきてくれるのだが、今朝は返事がない。

トイレか?と考えつつ店内へ、一つのテーブルに何だか見覚えの無い紙がある。

それはメモ帳を引きちぎったような紙にギリギリ読めるぐらいの殴り書きで

「守、店のことは任した。」


理解ができない、意味は分かる。

ミセノコトハマカセタ???

【あんぐり】とはこの時のための言葉だったのかと不思議と冷静に思った時、僕の顎は外れていた。

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