第70話「同期たちのコラボ」

 アポロライブとのコラボは何とか終わった。


「ふー、緊張した……」


 配信を終えてため息をつくと、リスコードでアポロ勢のふたりからメッセージが届く。


「お疲れさまです。楽しかったです。ぜひまたやりましょう!」


 という趣旨のもので、こちらこそと送り返す。


猫島[お疲れさまでした。上々という結果に終わりましたね]


 配信を見ていたらしい猫島さんからもメッセージが来る。

 あの人が上々って判断したのなら、きっと大丈夫だろう。


猫島[先方のマネージャーもまたお願いできればとおっしゃっていました]


 それは朗報だと思う。


 緊張するけど、あのふたりとのコラボならまたできるかもって、前向きなとらえ方ができる。


 やりとりを終えたところでモルモとラビの配信を見るとしよう。


『こんラチ。コラボはじめるよー!』


 明るい感じで雪眠ラチカさんがあいさつをする。

 さっそくコメント欄が盛り上がっていて、人気配信者は強いなとあこがれる。


『こんレミー。わたしもいるわよ』


 とあいさつしたのがレミリアさん。

 たしかラチカさんとはリアルでも遊んでいるくらい仲がいい。


 金髪に赤い目のちょっときつそうな印象を与えるアバターで、胸の大きさはラビさんよりも上かも。


 紗世さんはリアルでも大きかったが、レミリアさんはどうなんだろう?

 なんて考えが頭をよぎる。


【コメント】

:待ってました

:ラチレミてぇてぇ

:鉄板コンビ

:これのために生きてる


 

 なんてコメント欄を見ていた。

 ソロでも人気だけど、コンビでも根強いファンを抱えてるのがこのふたりだ。


 ラビとモルモは大丈夫だろうか?

 ……すこし考えてみたけど、モルモは平気かもしれないなって思った。


『今日はゲストがふたりもいます!』


『勢いのあるペガサスのラビさんとモルモさんだよ!』


 事前に公表していたくらいだから、サプライズをやるつもりはなかったんだろう。



【コメント】

:ワクワク

:またペガサス勢か

:今度はちゃんと女子

:女子同士のほうがやっぱり安心するなー

:鳥とのコラボは男女コラボっぽくなかったけどなw

:向こうはすごい義務的で安心して見れた

:ラチカちゃん残念そうだったけどな

:注意しすぎるくらいでちょうどいいだろう、ラチカには悪いが



 やっぱり不安に思ってる勢力はいるのか……。


『初めまして、ラビ・ホワイトステップです。ペガサスの二期生です。今日はよろしくお願いします』


 ラビがていねいな口調であいさつをする。


【コメント】

:清楚

:これは清楚

:ラチカとは方向性が違いそうだ

:この子はお嬢様枠かな?

:上品そうでいいな

:この子、ピスケスにいても不思議じゃない感じ



 ピスケスにいてもおかしくないってラビ、好印象を持たれたんじゃないだろうか?

 何だか俺までうれしくなってくる。


『ありがとうございます』


 ラビは笑顔で受け止めている。

 

『うん、おだやかながら社交上手というのが伝わってくるわね』


 とレミリアさんが感想を言う。

 なるほど、うかつなことを言えばペガサスやピスケスとの比較になっちゃうのか。

 

『ほぇ~勉強になります』


 ラチカさんのほうは気づいてなかったらしく感心している。

 俺と同類なのか?


『続いてモルモさんですね。自己紹介どうぞー』


 レミリアさんに言われてモルモが登場する。


『初めまして、ペガサス二期生のモルモ・グレイウォークです。今日はお招きいただいてありがとうございます。よろしくお願いいたします』


『すっごいお堅いあいさつが来た……』


 ラチカさんはすこし面食らったようだ。

 ここまで堅苦しいモルモのあいさつは、俺も何気に初めて聞いたかもしれない。


【コメント】

:ペガサス、礼儀正しいな……

:女の子同士のコラボだからもっとゆるいかと思ってた

:同じくゆるいイメージが強かった

:思えば鳥も礼儀正しかったな 

:おかげで安心して見ていられたっけ…

:ペガサスの伝統なのかな?

:これはこれでよき

:堅苦しい子が打ち解けて、砕けた態度になってほしい

:そういうの見たいよね



『初めまして。ペガサスのみなさん、とても礼儀正しくて真面目で、企業の姿勢がうかがえてとても素敵ですね。こちらこそよろしくお願いします』


 レミリアさんもていねいな口調で返す。


『よ、よろしくお願いします』


 ラチカさんがちょっと気圧されながらも、レミリアさんのマネをする。

 何だか新鮮だなと思っていると、コメント欄でも似たような反応だ。


【コメント】

:なんか珍しいな

:こんなガッチガチのラチカちゃんはレア

:珍しいものを見れた気持ち

:新鮮な流れだ

:箱内だともうかなりフランクだったもんな

:お堅い対応を素でできるレミリアちゃん、とまどうラチカちゃんの違い

:それな


 たしかにラチカさんとレミリアさんで、反応に差があった。 


 レミリアさんのほうが場に慣れているっていうか……そういう経験を積んでる人なんだろうか?


 中の人の経歴を探るのはマナー違反だけど、興味深くはあるよな。


『今日はお互いの好きなものを話していこうかなって思っています。お互い初対面だしねー』


 とラチカさんが言う。


【コメント】

:たしかに気になるな

:箱外の情報はあんまり持ってないから助かる

:こういう企画って意外と話を転がしやすい

:初対面同士だと、話のとっかかりになる材料も欲しいだろうね

:女子同士でも最初は手さぐりなのか

:すぐに仲良くなれるのは強いけど

:盛り上がる材料がないとさすがに厳しいよ、俺は男だけど

:男なのかよw

:女性視聴者っているのか?

:……アイドル路線ふたりに、そうじゃなくても女性配信者ふたりだからなぁ



『女性視聴者っているものなんでしょうか?』

 

 とモルモが聞く。


『どうなんだろうね? いるらしいと聞いたことはあるけど、コメントやスパチャで見たことはないかな』


 ラチカさんが答え、レミリアさんもうなずいた。


『ええ、見てくれてる人はいても、残念ながら熱心なファンはいないということかなとわたしは推測しています』


 そういうものなのか。


【コメント】

:たしかに女性らしき人見た覚えはない

:オス率100%なのか

:いないわけじゃないだろうけど、男にまぎれてのコメントはためらうのかも

:女性心理ってわからんなぁ

:すくなくとも俺らには無縁なものだろう

:いやいや、推しが女性なんだから、無縁って言い切るのはまずいだろ

:それもそうだ



 何やらふしぎな流れがはじまったようだけど、レミリアさんもラチカさんもあわてていない。



『この流れってよくあることなんですか?』


 モルモがずばっと切り込む。


『わたしたちのコラボだと珍しくないですね』


 くすっと笑いながらレミリアさんが応じる。


『そんな話題が転がるようなこと、言ってるかなあってふしぎなんですけどね』


 とラチカさんも認めた。

 そうだったのか。


 ラチカさんの単独配信と切り抜きを中心に見てたから、気づいてなかった。


【コメント】

:ラチカちゃんは天然

:天然と言うよりは無自覚系?

:なるほど

:しっくりくる


『ラチカさんは天然じゃなくて、無自覚系なのですね』


 とラビがコメントを拾う。


『何となくわかってきた気がします』


 とモルモが告げる。

 

『えっ? えっ? えっ?』


 ラチカさんはわかってないらしく、ふしぎそうな声を放つ。


『ふたりには伝わっちゃいましたか』


 とレミリアさんがいたずらっぽく笑う。

 小悪魔ムーブが似合うモルモにどことなく似ていた。


 それでいてふたりのキャラがかぶっているとは思わない。

 もしかしたら被らないように注意しているのかもだけど。


 その後、だんだんと打ち解けていって、四人は他愛もない話で楽しそうに盛り上がる。


 見ているだけでこっちも楽しくなるから、この人たちは強い。


【コメント】

:何だろう、女子会を特等席で見てる気分だな

:そうだな

:女の子たちが楽しそうに過ごしているって、それだけで尊いよね

:よきかなよきかな


 リスナーたちも楽しそうだ。

 こういうのが彼女たちの強みなんだろうなって思う。


 俺には同じことができないのでうらやましく感じる。


 もっとも言葉にしたらモルモあたりに「あなたにはあなたの武器がある」と切り返されそうだけど。


『またペガサスさんとはコラボしたいなぁ。今度はみんなでゲームとかどう?』


 とラチカさんが言い出す。



【コメント】

:おや?

:この流れは?

:いや、他意のない発言かもしれないし


 コメントがすこしざわついている。

 まあペガサスとのコラボって言うと、俺も該当するかもしれないからだろうな。



『わたしたちはいいですよ。ね?』


 気づかないふりをしてか、モルモが返事をする。


『ええ。呼んでいただけるなら、ぜひご一緒しましょう』


 とラビもおだやかに微笑む。


『ふふ、この四人でゲームするのは楽しそうね』


 とレミリアさんも賛同する。


『え、あ、うん、はい』


 ラチカさんは思っていたのと違うって言いたそうだったが、とりあえず返事はする。


【コメント】

:ラチカちゃん……w

:これは草

:ペガサス勢、意図的にスルーしたのかな?w

:おそらくそうだろう

:事務所の許可なしだと無理だろうしな

:悪いのは騒ぐやつだが

:あの鳥は無害だろうにな

:お前、女と雑談すらしたことないの? と言いたくなる

:↑やめてくれ、その発言は俺にも効く

:あっ……

:不毛な会話になりそうだ



 四人が楽しくゲームをするのは一向にかまわないと思う。

 俺は俺で遊ぶ相手を探す必要はあるけど、いままでとくに困ったことはない。


 リアルだとぼっちのせいで無理でも、オンラインだと違ってくるのだ。


 インターネットがない時代だったら、たぶん俺はひとりで遊べるゲームしかできなかっただろう。


 いい時代に生まれてきたと思う。


『えーっと、マネージャーさんにいろいろと相談してみるね』


 とラチカさんが言った。


『粘るわね』


 ぼそっと言ったのはレミリアさんで、残りふたりは苦笑している。


【コメント】

:どうなんだろうな?

:五人でやるなら別にいいんじゃないのか?

:一対一じゃなかったらすでにやってるのに、いまさら避ける意味が分からん

:実はあれ、見切り発車だったとか?

:ピスケスはそんな無謀なところじゃないだろう

:それとも見えてないところで何かあったのか…?



 何かあったなら猫島さんが俺に黙っているということはさすがにないだろう。

 多少あったけど、共有するほどのことじゃないってあたりじゃないだろうか。


『あ、マネージャーから返事が。五人なら別にいいよだって』


 とレミリアさんが反応する。


『えっ!? 本当に!? やったー!』


 ラチカさんは目を閉じてもわかるくらい、喜びにあふれた声を出してはしゃぐ。

 

『それはそれとして、配信が終わったあとでお説教らしいわよ?』


 レミリアさんは笑いをかみ殺しながらつけ加える。


『あぅぅううう』


 ラチカさんはとたんに情けない表情になって、悲鳴をあげる。


【コメント】

:草

:これは草

:そらそうなるわよな

:怒られるといいよ

:ちゃんと反省するように



 ファンのみんな、あたかかく見守ってる感じだなぁ。

 というかさりげなく俺の次のコラボ、決まったんじゃないだろうか?


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転生皇子、漫画連載記念更新です

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