第69話「アポロライブとコラボ2」

『イエーイ! 勝ったぜ!』


『俺ら強いってか、バードさん超鬼つえええ』


 ヒガサと白夜さんが盛り上がっているように、俺たちは協力プレイで結果を出せた。


「いや、みんなで力を合わせた結果だよ」


 対戦協力プレイって、俺ひとりが頑張っても勝てるようにはできていない。

 ヒガサと白夜さん、自分で言ってるほど下手じゃないし。


【コメント】

:バートさんやっぱり上手いなー

:いうて他のふたり下手じゃないよな

:足手まといがふたりもいて勝てるゲームじゃないのはバードさんの言うとおり

:バードさん、火力も支援も防御も全部できるのが強いな……

:おかげで他のふたりは自分の得意なことだけやればいい

:普通、得手不得手はあるはずなんだがなあ

:↑すごい上手い人基準でならあると思うよ。俺らにはわかりづらいけど

:ああ、上手くないと全部すごく見えるだけなのか…

:この人、個人時代は埋もれてたってマジ?

:いまの時代、個人はよっぽどのきっかけがないと埋もれる…

:同接二ケタなら神だから

:鳥はいろんなものが偶然かみ合った結果だと思うが



『いやー、怖い時代になったよな! これで埋もれてたってマジかよって、俺も思うもんね!』


 ヒガサに明るく言われるので、いやな感じはまったくない。


「いま思えば、ヘタクソだったし足りないものだらけで、バズらなくても当然だった気はしますね」


 と振り返る。


『謙虚か! いやー、ビッグになっても奢らず謙虚で、冷静に過去を分析するって、強いわ!』


 とヒガサが勢いよくしゃべった。


『これこそ、バードさんが人気の秘訣なのかもなぁー。勉強になるわー』


 白夜さんが納得したとばかりに言う。

 そんなものなのかな?


「デビューしてまだ大して経ってないし、俺よりもすごい人たくさんいるから、天狗になりようがないけど」


 そんな得意になれるほど活躍はしてないと思う。

 受け入れてもらってる実感が、ようやくできてきたって認識?


 ラチカさんとかのほうが人気も知名度も実績も上だと思う。

 それにアポロライブには「御三家」がいるんだし……。


【コメント】

:謙虚だね~

:いや、普通短期間でこんな大成功したら多少は天狗になるよ

:個人勢でバズれなかったのが、いい風に働いてるんのかな

:バードさんの場合、天然の気もする…

:個人勢時代のことも大して気にしてなさそうだもんな

:たいていの人ならもっと闇を抱えてるよね

:割り切れる強さみたいなのを感じる

:女性Vとコラボしてもいやらしさみたいなのないしな

:わかる。鳥の場合、想定する男女コラボとは何か違う…



 珍しいとか異質みたいなこと、言われた覚えはあるけど、俺ってそんなに他の人と違うんだろうか?


『うちのリーダーもバードさんみたいなことを言うんだよなぁ。知ってる? 俺らのリーダー?』


「もちろん。知らないほうが珍しいと思う」


 ヒガサの問いに即答する。

 御三家のひとりにして、唯一の男性っていうレジェンドだ。


【コメント】

:連王子ガイはさすがに知ってるか

:当たり前じゃないか?

:一般知名度ならアリス嬢のほうが上かもだが、業界知名度なら互角だろう

:御三家同士だもんな


『だよなぁ! 俺らのリーダーも謙虚なんだよね! あのクラスが全然奢らないんじゃ、俺らだってえらそうにできねーってよく思うもん!』


 とヒガサが言えば、


『うちのリーダー、もうちょっと威張っても許されるんじゃないかとは思うな』


 白夜も同調する。

 連王子ガイって謙虚な人なのか。


 どんな人なのか全然イメージできなかったけど、ちょっと好感を持つ。

 

【コメント】

:ガイリーダーもそんな感じなのか

:たしかに浮ついたところは無縁だな

:アリス嬢もだけど、御三家ってストイックな印象が強い

:そうじゃないと何年も業界のトップとして君臨はできないんだろう

:業界は成長期なんだろうし、後発どんどん出て来てるからな…


 さっきから名前が出ているアリス嬢って御三家の【白天(しらそら)アリス】さんのことでいいのかな?


「すごい人ってやっぱり意識からして違うのかぁ。俺も見習わないとなぁ」


 じゃないと追いつくどころか、いつまでも背中が見えないままだ。


 追いつけるかはどうかわかんないけど、追いかけるつもりで頑張らないとダメだろうな。


 競争が激しい業界になってきてるんだから。


『あれ? 今の流れでそんな感想を持っちゃいますか? バードさんって謙虚ですごいよねって話をしたつもりなんだけど?』


 ヒガサが困惑する。


『おそらくバードさんは自分を気を引き締めただけなんだろうけど、話がかみ合ってるか不安になるやつだ』


 白夜さんが苦笑していた。


【コメント】

:草

:ヒガサが困惑する展開は珍しくて草

:上の人の話を聞いて、そんな風に思っちゃうバードさん純朴だなぁ

:たしかに話がかみ合ってない感じはあるw

:自分が話の発端だって頭から抜けちゃったのかな?w



「おっとすみません。言葉の選択を間違えたみたいで」


 話を聞いていなかったと誤解されたくなかったので、素直に謝る。


『いいよ、いいよ! すれ違いからはじまる認識のすり合わせも、コミュニケーションの醍醐味なんだから!』


 ヒガサは明るく笑って許してくれた。


『俺らはまたひとつ、バードさんのことを理解できたってことだ! 大事な一歩だと思うよ?』


 白夜さんはいい笑顔で言う。


「優しい世界だ」


 ふたりともいい人で良かった。


【コメント】

:これはよきよき

:やさしい

:優しい世界が広がっている

:これこそ光属性陽キャ

:コミュ障の闇が浄化されていく…

:こんな友達がほしい人生だった

:↑わかる

:こんな人生を歩みたかった

:俺も

:バードさんよかったねぇ



「リスナーのみんなもありがとう。優しいみんなに見守られていて、とてもうれしいよ」


 視聴者たちへの感謝も忘れちゃいけない。


『そうだよなー! みんながいてこその俺らだよなー!』


『バードさんって大事なものを大事にしてるよな』


 なんて言って盛り上がる。

 ふたりとも、視聴者のことが好きなんだなということが伝わってきた。

 

【コメント】

:なんか俺らに飛んできた

:これまた珍しい流れ

:いつもお礼は言われても話題にはならない

:これもまたバードさん効果かな

:バードさん効果すごいな

:まさかここまでいろんな効果が出るなんて



『言われてみれば普段こういう話を白夜たちとしたことなかったな!』


『そうかもな』


 ふたりも驚いている。


「いや、俺も同期たちと裏でありがたいよねって話はしても、配信中に言ったことはなかったかも」


 それはこっちも同じだ。


「俺も配信で言った記憶はないな。何でこうなったのかな?」


 我ながら不思議だと首をかしげたくなる。


『ははは! コラボあるあるだよ! どういう方向の会話になるのか、俺ら本人だって全然わからねーの!』


『人数増えるとたいてい不思議な方向に進むよな』


 ふたり同時に笑い転げはじめた。

 おかげで俺もそういうものなんだなーと受け流すことができる。


【コメント】

:コミュ力つよつよ同士だと、どう話題が転がるかわからんからな

:見ていて笑える

:ただしゃべってるだけなのに面白いってすごいよな

:今回みたいな珍しいケースはバードさんのおかげだろうね

:バードさんがほかふたりの真面目な一面を引き出した感じでいい

:バードさんはともかく、ほかふたりの普段からは想像できない

:たしかにここ最近じゃあ意外な展開だった



「何かみんな驚いてるみたいですね」


 ふたりって真面目なイメージを持たれてなかったんだろうか?


 切り抜きチェックが大半だった俺と違って、リアルタイムで見ている視聴者はすくなくないだろうに。


 そっちのほうが偉大だった。


『俺らそういう話、普段しないから! 明るくて楽しくてみんなノれて、盛り上がれそうなことを選んでるから!』


 とヒガサがけらけら笑う。


『そういう意味では日ごろの行い?』


 なんて白夜さんが自分に手厳しいことを言い放つ。

 

【コメント】

:自分で言うなw

:辛らつw

:白夜らしいけどなw

:基本温和なのに、自分に対しては別

:ストイックっていうのも何か違うよな、白夜


 白夜さん、そういう人なんだなー。


「白夜さんについては解釈一致かもなあ」


 とうなずく。


『あはは! そうなんだ? 白夜、言われてるよ? よかったな』


『これは予期してなかった褒め言葉だ。バードさんサンキュー』


 なんて軽妙な会話がポンポン返ってくれる。

 モルモやラビさんとは違った楽しさを、ふたりとのやりとりで感じた。


「……おしゃべりってけっこう楽しいものなんだな。友達いないから知らなかったよ」


 と正直に吐露する。


『ええー!? この流れでそのネタ、ぶち込んでくる!? もしかして、それがバードさんの持ちネタってわけ?』


 うん、流れ的にはあんまりよくなかったかも、とちょっと反省。


「ごめんね。ついつい」


 ヒガサは本気で迷惑に思っているわけじゃなく、ツッコミの一種で言っているのだろうと想像はできたが、変な発言だったのは事実。


 謝っておいたほうがいい。


『いやー、謝ってもらうほどのことじゃないけどね? 反射的にツッコミ入れちゃっただけで!』


 ヒガサが言うと、


『バードさんはそれだけこの配信楽しんでくれてるんだよ。今のはヒガサが悪い』


 白夜が予想外の切り返しをする。

  

『うっ!? それはそうかも! うん、俺が悪いな! ごめんね、バードさん! 変な絡み方をしちゃって!』


「いや、それそこ謝ってもらうようなことじゃないよ」


 思いがけない展開に俺は面食らう。

 とりあえずヒガサが謝ることじゃないように思う。


【コメント】

:これは珍しい流れ

:白夜だから言えるツッコミ

:どっちも謝るようなことじゃない気がするけどなw

:まあ謝ったほうが円滑よ

:水面下で打ち合わせしたかもだけど、実質初対面みたいなもんだろうし

:ごめんなさい言えないヤツって面倒に思われるしな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る