第68話「アポロライブとのコラボ」

『イエーイ! みんな、今日も元気にリスナーしてるかい!?』


 開幕一番でいきなりこのハイテンション。

 俺には正直ちょっとつらいけど、この配信者のリスナーたちは慣れっこだ。


 今日のコラボ相手でMC担当、アポロライブ六期生の【富士原ヒガサ】である。

 ガワは金髪で頭にサングラスを乗せてアロハシャツを着た美少年だ。


 陽キャ全開、というのが率直な感想だった。


【コメント】

:いえーい!

:いえーい!

:相変わらずのテンションw

:元気をもらえるぜ

:さすが視聴する活力剤w

:↑言いえて妙だよなw

:たしかにヒガサにはぴったりのあだ名



 そう、この富士原ヒガサという配信者は「視聴する活力剤」というあだ名を、リスナーたちからつけられている。


 たしかに見ているだけ、そしてファンでもない俺でも何だか元気をもらえているような心境になっていた。


『今日は告知していた通り、コラボでゲームをやっていくぜ!』


 とヒガサが叫ぶように宣言する。


【コメント】

:いえーい!

:待ってました!

:これを楽しみにしてた!

:楽しみすぎて夜八時間しか眠れなかった!

:有給とった!

:↑八時間寝てるなら充分じゃないかw


 ノリがすごい。

 ずっとこのテンションで行くのは過去の配信を見て、把握している。


 ……でも、俺がこのノリについていけるのかな?

 今さらになって不安になってきた。


『ならさっそく今日のメンバーを紹介するぜ! 一人目! 同じ事務所の同期! 白夜(びゃくや)トオル!』

 

「よろしく頼むぜ!」


 【白夜トオル】はヒガサほどじゃないけど明るい男性配信者だ。

 ふたりが並ぶと光の陽キャのダブルスって感じで圧倒される。


【コメント】

:白夜はそんな上手くなかったよな

:下手じゃないけど上級者相手になるときついライン

:まあゲームの種類と目的次第だろうな

:ヒガサってそこまで考えてんのかな?

:↑真顔で本当のことを言っちゃダメだよ

:お前らww

:ちょっとは加減しろw


 ヒガサがどちらかと言えば深く考えて行動するタイプじゃないってのは、正直同じ意見だ。


『そして最後に一人、箱外からの心強い助っ人! バード・スカイムーブさんだ!!』


 絶叫するようなアナウンスに苦笑を抑えてあいさつをする。


「初めまして、ペガサスのバード・スカイムーブです。今日はよろしくお願いします」


『よろしくー!』


 白夜さんがハイテンションであいさつを返してきた。


【コメント】

;おおお! 激強助っ人じゃないか!!

:え、マジ???

:鬼上手ムーブで定評がある鳥さんじゃないか

:噂の超強い新人か

:切り抜き見たけどやばかった

:箱外とは聞いてたけど、まさか鳥の人とは

:よく呼べたよな。いろんな意味で

:ペガサスと絡むのって地味に初めて?

:ヒガサ、白夜は初めてのはずだよ

:ペガサス、基本女の箱だったから、女とのほうが絡みやすい


『事務所を通してお願いしてみたら、許可が出ました! やったね! イエーイ!』


『イエーイ!』


 ヒガサさんと白夜さんがそろって叫ぶ。


「い、いえーい」


 俺には絶対に似合わないと思うものの、空気に冷や水をかけるのはまずいので、頑張ってみた。


【コメント】

:初々しいなw

:ほっこり

:普通にやってくれて助かる

:鳥の貴重ないえーい、助かる

:素朴な感じがいいね

:ハイテンションに慣れた身には新鮮だわ



『初めてなのにつき合ってくれてありがとう!! バートさん、めっちゃいい人、イエーイ!!』


『イエーイ!!』


 畳みかけるようなテンションにはさすがについていけず、出遅れてしまう。


【コメント】

:畳みかけるなw

:バードさん困ってるだろ!

:二回目は対応できなかった模様

:こいつらのテンションおかしいから、仕方ない

:初めてでいきなり

:箱内コラボだって対応しきれる人のほうが珍しいからな



 コメントを見てちょっと安心した。


 同箱でも対応できる人が少ないのなら、俺が足を引っ張ってしまったということはないはず。


『いやー、ごめんね、バードさん? スゲエ人が来てくれるってことで、俺らメチャクチャテンション上がっちゃってさー。無理のない範囲でつき合ってもらえたら、うれしいなー』


 とヒガサに謝られる。

 謝ると言うよりはまくし立てられてたって感じだけど、それはご愛敬かな。


「あ、はい。それなら大丈夫です」


 答えながら俺は安心した。


 アポロライブは大手だけに、その点への配慮もできる配信者が揃っているんだろう。


【コメント】

:ヒガサはテンションがおかしいだけで悪い奴ではないです

:うちのがハイテンションで絡んでごめんなさい

:誰にでもこんな態度なんです

:ファンたちの釈明や解説がはじまった(いつもの)

:いつもの

:いつものなんだ!?


「いつものなんですね」


 パッと目に入ったコメントに心の底から共感できる。


『まあこれが平常運転だし? よそいきの態度ってどうやればいいかわかんねーし? 何とかなるっしょの精神でやっていくしかないっしょ!』


 ヒガサはハハハと笑う。


「ああ、それはわかります」


 どうすればいいのかわからない以上、いつもの自分で行くしかない。

 開き直りと言われようと、他に選択肢が存在していないのだ。


『おお、わかってくれますか!? いやー、うれしいなぁ! 開き直るなって言われたりしたらどうしようって思ってたんですよねー!』


 ヒガサは我が意を得たりとばかりにうれしそうにしゃべる。


【コメント】

:わかるのかw

:あー、たしかにヒガサとバードさんは似た者同士かもしれない

:方向性は違う気はする

:バードさんって寡黙で真面目で素朴だからね

:ヒガサとは全然違うよなぁ……

:ヒガサが別に不真面目だとは思わないけどさ

:バードは単に引き出しが少ない感じ、ヒガサさんは行けるところまで行けって感じ?

:↑バードさんはわかんないけど、ヒガサはナニカ違うのはわかる



『お、何か視聴者同士で交流がはじまってんねー! いいな、いいな! みんなで交流していくのも醍醐味だからね!』


 ヒガサは楽しそうに笑った。

 

『ヒガサって好きだよな。そういうの。俺も好きだぜ!』


 とトオルも笑う。

 ああ、陽キャってこういう人たちなのかって思った。


 俺が上手くいかなかったらどうしようって考えてしまうところで、彼らは進んで行くのだ。


 俺にはない推進力……。


『まあしゃべっててもあれなんで、そろそろゲームをやっていこうか! 今日のゲームは頂上戦争だ! 俺らでチームを組むぜ!』


『ぶっちゃけバードさんが敵になると俺らに勝ち目ゼロだからな!』

 

 頂上戦争を一緒に楽しむってのは聞いていたけど、白夜の発言はアドリブだ。


『ハハハ! 白夜の言うとおりだよな! 二対一でもぼこぼこにされる自信しかないんだわ!』


 というヒガサの発言も俺は聞いてなくて、反応に困る。


【コメント】

:そんな明るく自虐ネタぶっこまれてもバードさんを困らせるだろ

:ちょっとは遠慮しろ

:人をサゲないのは立派だが、自分をサゲるのはオッケーってことでもない

:現にバードさん困ってるよね

:そんなことないって否定しようにも、力の差は明らかだからな…


 

 とりあえずヒガサファン、白夜さんファンともに優しくて気遣いができる人たちなんだなって感心するし、ありがたく思う。


 優しい世界だ。


「いや、ちょっと困ったけど、楽しくはあるよ。ヒガサさんも白夜さんも、人を楽しい気持ちにする力を持っててすごいよな」


 俺にはできない芸当だと思うし、彼らが人気Vチューバーである理由のひとつなんじゃないだろうか。


『おう……真正面から褒められると、何かこう恥ずかしいものがあるな』


『わかる。照れる』


 ヒガサと白夜さんのふたりのハイテンションがちょっと落ち着く。


【コメント】

:おっ? こいつらが照れるなんて珍しいな

:たしかにとても新鮮

:これはファンもにっこりの流れ

:ストレートに褒められた経験、意外とないんじゃないか

:鳥さん意外とこういうのストレートなんだ

:鳥は逆にストレートしか使えないよ。器用さがないから

:なるほどw

:↑解釈一致かなぁ……一本気というか

:まっすぐなんだね

:コラボのいい化学反応がさっそく見られてよきよき

:たしかに、バードさんがこいつらの新しい面を引き出してくれた



 何か俺の評価が高くなってるなぁ。


 たしかに切り抜きや録画を見たかぎりだと、このふたりが照れたりするシーンははなかったけど。


「ファンに喜んでもらえたならよかったです」


 失敗コラボなんてことになるのだけは避けたい。


『いいね。聖人みたいだね! こういう人がいると場がよくなるよね!』


 とヒガサが言えば、


『素朴な発言から、性格のよさがにじみ出ているな』


 と白夜も褒めてくれる。


【コメント】

:それな

:せやな

:コラボとなると性格は大事よ

:基本、人気配信者って気配りできる人多いけどな

:結局は人間関係というか、対人スキルが物を言うよな…

:見てるのも人間、しゃべる相手も人間だからな



「褒めてもらってありがたいけど、俺って性格いいって言われたのは初めてだな。そもそも友達いなかったし」


 と正直に打ち明ける。


【コメント】

:泣いた

:悲しみ

:あれ、俺がいる?

:つらたん…

:そういや鳥さん、ぼっちって言ってたね

:やめてくれ、俺に効く


『悲しいこと言わないでくださいよ! 俺たちはもうコラボ仲間! 実質友達みたいなものじゃないですか!』


 とヒガサがすかさず切り返してくれた。


『そうです! 俺らコラボ仲間だし、何なら配信者仲間じゃないですか。つまりこれは友達なんです』


 と白夜が畳みかけてくる。


「え、そうなんですか?」


 友達ってそんな簡単に作れるものじゃないと思ってた。

 

『そうそう! せっかく知り合えたんだから仲良くやりましょうよ! そのほうが楽しいですって!』


『ヒガサに賛成ですね。俺らはもう友達ってことで!』


「あ、はい」


 ふたりに押し切られた形になったけど、悪い気はしない。

 むしろうれしくあった。


【コメント】

:鳥、友達ができたな、おめでとう

:バードさん、おめでとう

:よかった

:これはよい一ページ

:まるで存在しない青春を見てるかのようだ

:↑これはバーチャルであっても現実なので

:よかったよかった

:全俺が泣いた

:わたしも泣いた


********************************************************************

拙作「転生皇子が原作知識で世界最強」が講談社マガジンポケットで

7月18日から連載開始します。

よければお読みください。

よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る