第57話「凸待ち配信」
『こんばんは。今日は雑談配信をしようと思う』
と俺が開口一番話すと、すぐにコメントが反応する。
【コメント】
:こん。雑談……?
:バードが?
:できないって常に言ってなかったっけ?
:どうしたの、急に?
予想通り疑問が多い。
そりゃ俺が雑談配信をしたことなんて一度もないもんな。
俺だってする予定はまったくなかったんだが、猫島さんからの提案されたんだ。
『事務所からの提案で、登録者数突破記念凸待ち雑談ならいいんじゃないか? というわけなんだよ』
と事情を話す。
同期のふたりと1期生の三人は来てくれると裏で確定している。
じゃなかったら俺がやる勇気を出せなかっただろうし、猫島さんもわかっていたんだろう。
【コメント】
:なるほど、そういうことか
:記念凸やんないのか? と思ったらこのタイミングでか
:1か月たってコラボも増えたし、いまならいけるってことか?
:まあ慣れないのに無理にやらせるもんでもないし…
:ペガサス、無理させない感じがいいよね
:同意
理解あるコメントが流れているのも助かる。
この人たちもじゅうぶん訓練された視聴者たちじゃないか?
業界内で一番有名なのはラチカさんのファンらしいけど。
『誰がどんな順番で来るかは実は知らないんだよな、俺』
とちょっとおどけるように言う。
これはウソじゃなかった。
1期生と同期が来ることだけは知っているが、順番についてはいっさい知らされていない。
多少は俺が驚かないとやらせっぽくなるかもしれないとペガサスに判断されたからだ。
演技なんてできるはずがないんで承知したのである。
【コメント】
:本人も知らないほうが見ていて楽しい
:ガチドッキリはよくないかもだが、これくらいなら適度なスリルを楽しめそう
:バード、驚いたフリとか無理だろうしね
:演技ができるなら対人関係の苦労はもうちょっと減ると思うの…
:できたらできたらでストレスの原因になったりするがな
:できるからって疲れないわけじゃないもんね
:↑現実は悲しかった
:そのためのバードチャンネルだろ!
:そのとおり!
『みんな大変なんだな。来てくれてありがとう』
つらくて大変な日常を送ってるのは俺だけじゃない。
そう思うとねぎらいたくなってくる。
【コメント】
:ええんやで
:こっちこそ楽しませてくれてありがとうやで
:生きる糧にさせてもらっとるで
:↑突然の関西弁ラッシュで草
:バードウォッチャーたちいきなりどうしたw
:関西弁ネイティブがさらっと混じってる気がする…
バードウォッチャーのみんな、けっこうノリがいいよな。
『じゃあそろそろ呼びかけてみようかな。凸待ちの人たちに』
と俺は言った。
それを合図に最初の反応が来る。
『こ、こんファルです。100万突破おめでとうございます』
と最初にあいさつしてきたのはヘーファル先輩だった。
聞き覚えのあるすこしおどおどとした話し方は変わらない。
『こんばんは。ヘーファル先輩、ありがとうございます』
俺は驚きながらもあいさつを返す。
【コメント】
:ヘーファルちゃん来た!
:ヘーファルちゃんがトップバッター!?
:これは順番読めないぞ
:最初はモルモちゃん、ラビちゃん、ボアちゃんかと思ってた
:↑同じく
:自分も思ってた
トップバッター候補としてあがってる三人について、実は俺も同意見だよ。
まさかあまり絡んだことがない人が最初だなんて。
運営は何考えてんだ!? という気持ちがないと言えばウソになる。
『す、すごい勢いですよね、バードさん』
『ありがたいです。自分でも何が起こってるのか、ちょっとわかんないことになってるんですが』
男の配信者がこんなに伸びるってかなりレアケースっぽいんだよな。
そろそろ運を使い果たしたかな? なんて思ったりもする。
『と、とても素敵です。こ、これからもよろしくお願いします。そ、それじゃ次の人に譲りますね』
『はい、お越しいただきありがとうございます』
ヘーファル先輩にお礼を言って彼女とのコラボは終了した。
そして続けてコラボであがってきて、
『こんモル。二番目はわたしだよー』
とあいさつしたのはモルモこと桂花だった。
『こんばんは。モルモが二番目なのか』
すっかり聞き慣れた声にすこしほっとすると同時に、次が桂花ということに驚く。
【コメント】
:こんモルー
:え、次がモルモちゃん!?
:しかしバードは安心したようだぞ
:話したことがない人が連続するよりはね?
:同期のほうが話しやすいだろうしな
『バードがすごすぎてすっかり忘れてたね。凸待ちまだやったことないって!』
『みんな忘れてたっぽいんだよな。もちろん俺も』
と俺たちは言いあって同時に笑う。
【コメント】
:草ァ
:ペガサスらしいノリだな
:いいよ、こういうノリ好き
コメントではあたたかく受け入れてくれている。
いやな人は見てないんだろうけど、やっぱりうれしいな。
『このあとの順番、モルモは知ってるのか?』
話題に困ったので質問をしてみる。
『わたしは自分の順番しか知らないよー』
というのが桂花の答えだった。
彼女は知ってたとしても、知ってるとは言わないかな。
聞いてから気づいた。
『俺は最後までドキドキしそうだな』
『それが狙いなんじゃない? ファンのみんなとあなたがドキドキワクワクするのが』
と桂花に言われる。
『なるほど』
そういう狙いだったのかと納得した。
【コメント】
:運営の手のひらの上で踊らされそうだな
:鳥といっしょにな
:言っても4番目がわかった時点で5番目もわかるけどな
:↑しーっ
:野暮なこと言うなよ…
:おっと、ごめん
:いいんやで
:優しい世界
たしかに最後のほうになると二択になるしな。
だからと言って楽しさを損ねるとは思わないけど。
『じゃあわたしはこの辺で落ちるね。がんばって♡』
『うん、お疲れー』
かわいいボイスを残して桂花は去っていく。
たぶんサービスだろう。
トップがヘーファル先輩、次が桂花なら三番目は誰なんだろう?
『こんミアー。お邪魔しますわね』
三番目はラミア先輩だった。
『こんばんは、お越しいただきありがとうございます』
『いえいえ、ようやくコラボできてうれしいわ』
というのがラミア先輩の答え。
『1期生のみなさんとの合同以来になりますね』
あのあと勉強会合宿があったりしたので、先輩たちとコラボするチャンスがなかったのだ。
【コメント】
:こんミアー
:ラミアちゃんこの枠で見るのけっこう新鮮だな
:実はほかふたりとコラボしたことはあるのにね
:ありそうでなかったこの組み合わせ
:見に来てよかった!
『ええ、その説はとてもお世話になったわ。上手い人がひとり入るだけで、あそこまで結果に違いが出るなんてね』
とラミア先輩は感慨深そうに話す。
『みなさんが上手いからですよ。俺ひとりだけじゃ無理です』
と答えたけど謙遜のつもりはない。
足りない火力を俺が補えばいいだけだったから、あの結果になったのだ。
ほかのことも俺がやらなきゃいけないなら、クリアできなかっただろう。
【コメント】
:それはそのとおり
:あのゲーム、4人でクリアしたいなら介護要員いると無理だからな
:超上手いのは鳥とボアちゃんのふたりだけど、下手がいなかったのはデカい
コメントでも俺の考えが支持されている。
『話したいことはいろいろあるけど、今日はこの辺で』
『はい、またの機会にお願いします』
あいさつをかわしてラミア先輩は落ちた。
これで残りはボア先輩と紗世さんのふたりだけか。
すぐに次の人はやってくる。
『こんボアー! 久しぶりだね、バードくん』
あいさつしてきたのはボア先輩だった。
自動的に紗世さんがラストになるな。
『こんばんは、お久しぶりです』
『いやー、本当にすごいよね、バードくんの勢い』
とボア先輩に感心される。
『ありがとうございます』
俺は短く礼を言うだけにした。
あんまり言うと自虐か自慢かになってしまいそうなんだよな。
先輩はまだしも視聴者たちに誤解されるのが怖い。
『またコラボしようね』
『はい、よろしくお願いします』
ボア先輩はじゃあねと言い残して落ちていく。
そして最後に紗世さんが登場する。
『こんラビです。みなさん予想されたでしょうけど、最後になりますラビです』
『こんばんは、来てくださってありがとうございます』
最後にこの人か経過を持ってきたのは運営の配慮かな。
やっぱり同期ふたりがホッとする。
『見ていると楽しかったですけど、バードくんはいかがでしたか?』
『俺も楽しかったですよ。ゲームとは違ったスリルもありましたし』
見ている人も楽しかったんだろうか?
【コメント】
:わかる
:それな
:誰がどう来るのかわかんないって、アリだな
:昔どっきりとか不意打ちとか人気コンテンツだった理由、ちょっとわかった気がする
コメントでも評価は高いようだ。
『ならよかった。もしかしたらほかの人でもやるかもしれないよ』
評判がいいなら次もやろうってのが、ペガサスオフィスの基本方針みたいだから。
【コメント】
:楽しみ
:ラビちゃんやモルモちゃんでも見たい
『そうですね。次があればわたしもぜひ参加させていただきたいですね。ではこれで失礼しますね』
『はい、お疲れさまです』
紗世さんが落ちたので、猫島さんから事前に支持されていたとおり明日の告知をやろう。
『最後に告知するけど、明日雪眠ラチカさんとコラボやるよ。『マイスタークラフト』というゲームをいっしょにする予定なんだ』
とカミングアウトする。
これは事務所の許可が下りているものだ。
【コメント】
:マジで!?
:またラチカちゃんとコラボ!?
:ラチカちゃんが箱外と2回もコラボするのって鳥が初めてじゃないか?
:すごいな、鳥
:さすがバードさんです
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