第58話「ラチカさんとコラボ」
『こんラチー。雪クランのみんな、今日も元気かな?』
とラチカさんがいつもの透明感ある可愛い声であいさつした。
【コメント】
:こんラチー
:元気だよ
:ラチカちゃんの声を聞いて元気になった
:ラチカちゃんねるに来て元気になった
:ラチカちゃんに会えたので元気全開
雪クランのみんなは本気で言ってるのか、あいさつやノリで言ってるのか判別しづらいコメントをする。
『今日はね、告知したとおりバード・スカイムーブさんと二回目のコラボだよー。バードさん?』
『こんばんは。今回もお世話になります』
ラチカさんに呼びかけられたので、なるべくていねいなあいさつを心がけた。
【コメント】
:またこの鳥か
:まあ助っ人としては最強クラスでしょ
:たしかにラチカちゃんのコネつよつよだね
:本来鳥が言われる側になるはずなんだが…
:今回もゲームなんだろうし、ラチカちゃんがコネを使った側になるんじゃないかな
雪クランのみんなは冷静な反応で安心する。
『すでに同時接続数1万超えってすごいですね、ラチカさん』
と俺は言った。
登録者数こそ俺は多いが、接続数は6千くらいの場合が多い。
配信直後で1万いくのはすごいことだし、あこがれもする。
目標と言いたいけど、ちょっと遠そうだ。
『みんなのおかげですよー。いつも来てくれてありがとうね!』
とラチカさんは明るくファンたちに礼を言う。
【コメント】
:こっちこそいつも配信してくれてありがとう
:このチャンネル来るたびに生き返る
:実質蘇生アイテム
:わかる
:それな
『ラチカさんのちゃんねるで蘇生する、ちょっとわかるかも』
と俺は発言する。
ラチカさんは可愛く明るく、聞いていると元気をもらえるような配信者だ。
戦略としてやっているのか、天然なのかはわかんないけど。
『えーっ、やだー、バードさん、何言ってるんですかー?』
とラチカさんが笑う。
照れてるようなトーンだ。
まさか本気で照れてるわけじゃないと思うけど。
【コメント】
:おっ、この鳥、雪クランの素養ある?
:それは見込みがある
:教え甲斐がある
:仕込み甲斐がある
:沼に沈め甲斐がある
ファンはと言うとまるで業界初心者を見つけて布教しようとしているコア層みたいな反応だ。
ラチカさんのファン・雪クランは統制の取れ方がすごいらしいと聞いたことはあるけど、これはたしかにすごい。
『バードさんは大事なお客様なので、大切な対応をしてね?』
とラチカさんが優しく言い聞かせるように、ファンたちに呼びかける。
【コメント】
:はーい
:任せろ
:ラチカちゃんにとって大事な客は、俺らにとっても大事だからな
:うむ、最大級の敬意をもって見守ろう
:おもてなしはラチカちゃんの役目だし
:スパチャできないしなぁ
:スパチャ、コラボ相手もできるようになれば便利なんだが…
:このまま業界が定着すれば可能性は出てくるだろう
俺を客扱いする流れから、何やらガチっぽい業界にまつわるトークに変わった。
雪クランにガチ勢が多いと言われるのは、こういうところがあるからだろうか?
『そうね! コラボ相手にもいろいろとできるようになったらいいね! みんなの力を集めて、すこしずつ業界をよりよくしていこうよ!』
とラチカさんが言う。
なんてポジティブな発言なんだろう。
光属性の天使だなと思わざるを得ない。
設定的には雪の妖精らしいけど。
『すごいですね。壮大でみんなのことを考えた、立派な目標だなぁ』
俺は感心する。
ほかになんて言えばいいのか、全然わかんない。
何も考えてないってことがばれてしまう。
『ラチカさんが人気あるのはわかる気がしますね。俺、そんなこと考えたことないですから』
と自分の至らないところを正直に明かす。
『わたしが考えすぎなだけかもしれませんよー?』
ラチカさんは笑って受け止める。
いやみに聞こえないところが彼女の人徳であり、魅力的な部分だ。
『そんなことはないと思います』
謙虚なところも彼女の魅力のひとつだと思う。
【コメント】
:だよな!
:この鳥、わかってんじゃん
:これは仲間にし甲斐がありそうだ
:もともとゲームでは戦力だし、有望な業界の後輩の登場だな
コメントのファンたちも当たり前なんだろうけど、俺と同意見だった。
ラチカさんのことを見てる彼らのほうがよく知ってるだろうな。
『はーい。今日はですね、マイスタークラフトをやっていこうと思います』
ラチカさんは今日の本題に移る。
『初めてプレイするので楽しみですね』
と俺が応えた。
【コメント】
:マイスターか!
:ラチカさんいまさらながらドはまりしたもんなー
:鳥、やったことないんだっけ?
:配信見たかぎり経験なさそうだよ
:まあマイスターは初心者でも戦力になるゲームだし
:サーバーはどうすんの?
:ピスケスに部外者入れちゃっていいの?
コメントを見ておやっと思ったので、質問しておこう。
『そうですね。俺部外者なんですけど、大丈夫なんですか?』
『ラチカの招待枠で参加してもらえるから平気』
というのがラチカさんの答えだった。
【コメント】
:ひとり1枠、ゲストを呼ぶ枠がある
:1回登録しておけば何度でも呼べるんだよね
:別のサーバーに行くなら同じアカウントを併用できるシステムだから
:マイスターはその辺融通が利いて便利だよね
:自分で遊びつつ、友達のところへ出張もできる
マイスタークラフトのシステムについてコメントで説明してくれている。
うちのチャンネルでも詳しい人の解説があるので、同じ展開かな。
『そうなんだね。教えてくれてありがとう!』
と俺は礼を言う。
『わかりやすい説明、いつもありがとうね』
ラチカさんも続いて感謝する。
【コメント】
:いいんだよ
:役に立ててうれしい
:わかる。推しの役に立ちたい
:いいなー。俺もゲーム覚えようかな
:ゲーム覚えてもラチカちゃんと遊べるわけじゃないって思ってたけど、そういう使い道があったか!
:不純な動機で草
:気持ちはわかる
:俺もゲームやってみるか…
:その発想はなかったので俺もやってみよう
:さすが雪クラン、統率された民しかいねえ
『さすがですよね』
と俺はラチカさんに話しかける。
示し合わせてるわけじゃなさそうなのに、この反応。
統率された精鋭部隊ってたとえが誇張じゃない気がしている。
『あはは』
ラチカさんは笑って受け流す。
うん、どう答えればいいのか難しいもんな。
流されても場が明るくて、こっちも楽しい気分になるところがすごい。
『今回の配信目的は、建物を作っていくこと。倉庫を作りたいので、バードさんには木を切ったり、鉱物を掘ったりして、材料を集めてほしいなーって思います』
とラチカさんが話す。
もっともこれは事前の打ち合わせで聞かされていたことだ。
『了解です。どこに行けばいいのか知らないので、ナビをお願いすることになりそうですが』
とこれもまた事前の打ち合わせで、俺が言った内容を言う。
『もちろんです。最初はふたりで行動しましょうか』
とラチカさんに言われる。
『ありがとうございます』
フォローしてもらってありがたいし、申し訳ない気持ちもあった。
『いえいえ、こちらこそお手伝いしてもらってありがとうございます』
とラチカさんは優しく答える。
【コメント】
:よきかなよきかな
:てぇてぇ……ではないがこれもいい
:すこしずつ仲良くなっていく友達って感じだ
:青春を見てるみたいだ
:青春だねえ
雪クランの面子もあたたかく見守ってくれていた。
まずは木を伐採して、建物を作りたい地点に運ぶ。
それから鉱脈に移動して、鉱物を採掘してから同じ地点に戻る。
『こんな感じで集めてもらえるとうれしいです。感覚はつかめましたか?』
とラチカさんに言われた。
『はい、ありがとうございます』
と俺は答える。
『ゲームなら方向を覚えるのは大丈夫ですし。わかんないことがあったら、聞くと思いますけど』
それでも初めてやるゲームだから、不安がないわけじゃない。
難しいと思ったら素直に頼らせてもらおう。
『何でも質問してくださいね』
とラチカさんは言い残して、自分のプレイに戻る。
よし、さっそく木を伐採しに行こう。
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