3章
第56話「試験が終わっての打ち合わせ」
中間テストが終わり、すべての科目で50点を超えていた。
合宿の成果がいい感じに出たのだ。
この喜びを共有し、改めて感謝するために俺は帰宅してすぐに端末のリスコードを起動させる。
[全部の科目で50点以上取れました。赤点ラインより20点も上でしたよ! ありがとうございます]
モルモ[すごい! 頑張ったね!]
ラビ[バードくんが頑張った成果ですよ。おめでとうございます]
俺としてはつき合ってくれた礼を言いたかったのに、ふたりからあたたかい祝福の言葉を返されてあれっ? となった。
マネージャー[おめでとうございます。まずはひと安心ですね]
猫島さんも喜んでくれているようだ。
モルモ[わたしも成績あがったよ。学年総合9位でした]
[えっ? すごい、やばい、おめでとう]
学年9位とかとれる人、本当にいるんだ。
いや、成績順なんだからどこかにはいるんだろうけど……。
ラビ[おめでとうございます。モルモさん頑張ってましたものね]
モルモ[ラビさんとバードのおかげですよ]
桂花は謙遜したけど、本人の頑張りがとても大きいと思う。
モルモ[バードに教えたことで、理解が深まった気がします]
[まあ役に立てたなら何よりだよ]
言ってもたぶん桂花は謙遜するので、彼女の言葉を受け取っておこう。
[予習復習をサボらずやってれば、成績維持できますかね?]
何しろ真面目に勉強したのはずいぶんと久しぶりだからな。
これからどうすれば維持できるのか、それすらわかんない。
ラビ[できると思いますし、また勉強会を開けばいいのですよ]
モルモ[勉強会の反応よかったみたいだしね。二回目やってもいいんじゃない?]
マネージャー[事務所としてはOKです。懸念事項もとりこし苦労でしたし]
ふたりは乗り気だし、猫島さんからも賛成のメッセージが届く。
懸念事項ってのは俺が紗世さんの自宅に行ったやつかな?
日中だったし、桂花もいっしょってことで視聴者たち的には問題なかったらしい。
すくなくとも大きな騒ぎにはなっていないようだ。
[とりあえず合宿配信したのだから、無事に終わったよ配信もしたほうがいいですよね?]
俺は猫島さんにたずねる。
マネージャー[もちろんですが、日程はずらしてくださいね。学校が特定されるリスクを避けるためにも]
モルモ[日程が全国統一されているならバレにくいでしょうけど、そうじゃないですもんね]
[あっ、そっか]
学校ごとで定期テストのタイミングが違うから、日程で特定されるリスクがあるのか。
住んでる地域がバレてるなら余計に。
[たぶん都内在中ってのはバレてますよね?]
ラビ[言った覚えはないのですけど、隠せてる自信もないですね]
モルモ[詳しい人ならアップした食べ物や店内で特定はできるでしょう]
ふたりの反応になるほどと思う。
特定能力持ちはこわいって聞いた覚えがあるが、ようやく他人事じゃなくなってきたかもしれない。
マネージャー[そういうわけで今月末くらいまではテストの件は話題に出さないでください]
[わかりました]
猫島さんの指示に俺たちはうなずいた。
そしてこれからの打ち合わせがはじまる。
マネージャー[今後はみなさんと1期生のコラボをお願いします。バードさんにはラチカさんと二度目のコラボ依頼が来ています]
[マジですか]
猫島さんからのメッセージに驚く。
ラチカさんサイドが望んでいるという情報は知っていたけど、リップサービスみたいなものだと思っていた。
ラビ[すごいですね、バードくん]
モルモ[ピスケスって箱外コラボ、あんまりやらない主義のはずなのに]
紗世さんも桂花も驚いている。
箱外コラボってたしかほかの事務所所属、もしくは個人の配信者とのコラボって意味だったよな。
ピスケスってそういう会社だったのか?
マネージャー[まずは箱内ブランドを高めて……ということかもしれませんね。ラチカさんはすでに大人気ですし。これはわたしの推測にすぎませんが]
[俺はどうすればいいですか?]
猫島さんの予想が当たってるにせよ、外れてるにせよ決定権を持っているのは事務所だ。
ラチカさんはいい人だったけど、プレッシャーがすごいからあんまりやりたくはないというのが正直なところかな。
もっともあの人のおかげで俺はバズれたようなもんだし、恩知らずなことはできないんだが。
マネージャー[ラチカさんは断りづらいんですよね。それにこちらがピスケス勢と交流するメリットは計り知れません。まだ大手にはかなわないですから]
猫島さんも事務所もやりたいというのが本音っぽいな。
モルモ[ピスケスはコラボやりたくてもできない大手だからね……向こうからオファーなんて来ないよ、普通]
ラビ[わたしも聞いたことがないですね]
それだけバード・スカイムーブがやばいことになってる。
自分のことなのに何か感情がついてこなくて、他人事のように感じてしまう。
[どうすればいいですか?]
俺の手に負える事態じゃない気がするんだよな。
最初から俺の手に余ってたんじゃないか? というのはいまは考えない方向で。
マネージャー[バードさんがいいなら受けるのは決まりですが、内容は要相談ですね。前回と同じはよくないでしょうし]
[そうかもしれませんね]
同じ内容でも案外気にしない人はいるようだけど、ピスケスサイドがなんて言うかわかんないからな。
普通に前回の続きでラチカさんのクリバスの手伝いをするってのが、俺にとっては一番ありがたい。
あれならあんまり会話しなくても何とかなったし。
マネージャー[決まればお知らせしますが、1期生とコラボより多くなるのも困るので、1期生とのコラボもお願いします]
[あ、はい]
たしかに他社との交流のほうが多いのも変な話になるのか。
1期生と言ってもボア先輩以外は知り合いじゃないんだが。
モルモ[バード、モテモテだね♡]
桂花はもちろんからかっているのだろう。
全部仕事なわけだから、俺がモテるわけじゃない。
いや、待てよ?
[仕事にはモテるって意味ではあってるのかも?]
ラビ[ないと困っちゃいますからね……]
モルモ[わたしたちだと死活問題ですもんね]
俺の返しを見たふたりはシリアスな答えをさらに返してくる。
たしかに人気出ないと、仕事がないと致命的なんだよな。
極論、人気があればスパチャと広告収入で生活はできるかもしれないけど。
マネージャー[みなさん真面目なのは喜ばしいですが、上手くいってるときに必要以上に悲観的にならなくても大丈夫ですよ。わたしたちもフォローしていきます]
猫島さんも真面目なメッセージを送ってくるが、画面の向こうでは苦笑しているかも。
モルモ[たしかに後ろ向きになっちゃうのはよくないかも]
ラビ[現実的なのは悪いことではないので難しいですね]
桂花や紗世さんでも難しいんだ。
俺だけが卑屈で後ろ向きってわけじゃないのにはちょっと安心してしまう。
打ち合わせはそのあとも進んでいく。
終わって雑談タイムに切り替わったタイミングで、俺は猫島さんに個別でメッセージを送る。
[Vをやりながらeスポーツの大会に出るということを考えているんですが、事務所としてはどう思いますか?]
マネージャー[わたしとしては賛成です。Vとして参加が認められる大会には出ていただきたいくらいですよ。社長と大会運営の判断次第になりますが]
猫島さんからの返事に一瞬喜ぶ。
そして「社長と大会運営の判断次第」という部分を見て、そうだよなと納得する。
マネージャー[バードくんの考えを社長に伝えてもいいですか? 会社としての判断するのに時間がかかるかもしれないので]
[はい、よろしくお願いします]
いまさら言ったことは引っ込められないと思い、猫島さんによろしく頼む。
学生でも出られる大会ってあるんだろうか?
そしてVの参戦は認められるんだろうか?
疑問はいろいろあるが、事務所の判断に従おう。
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