第53話「勉強会打ち上げ配信②」

 視聴者の知らないところで盛り上がってしまった。


 配信時間の告知はしてなかったので、配信が後ろ倒しになったところでセーフだろう。


 セーフだと思いたい。


「配信予定時間は一時間ですよね? 一時間かけてクリアできるか、あるいは30分くらいで終わるものが二つあればなって思うんですけど」


 と俺は自分の考えを話す。


 15分かける4でもかまわないと思うが、そんなちょうどいいゲームが4種類もあるってのはけっこうハードルが高いだろう。


「それですと太郎鉄道がいいんじゃない? 1時間たったらゲーム終了って条件で勝負できるよ」


 と桂花が提案する。


「いいですね。かけるくんはいかがでしょうか? 太郎鉄道は?」


 紗世さんは賛成し、俺に確認した。


「太郎鉄道って知らないんですよね。どんなゲームなんですか?」


 タイトルは一応知ってるんだが、それだけしかない。


「さいころを振って駅に止まったら物件を買う。そして一番資産がある人が優勝。簡単に言うとそんな感じかな?」


「……何となくわかったような、よくわかんないような」


 桂花がしてくれた説明はちょっと簡単すぎた。


「やってみればわかるかな?」


「そりゃ実際にやってみるのが一番手っ取り早いわよ」


 俺の問いに彼女は即答する。


「あの、ほかにもゲームはあるので、太郎鉄道以外でもいいですよ?」


 紗世さんが気遣うようにこっちを見た。


「いや、どうせ知らないゲームが多いので、太郎鉄道で何の問題もないと思います」


 俺にしてみれば知らないゲームをやることに変わりはないなよな。

 だったらふたりがやりたいゲームでいい。


「それもそっか」


「言われてみれば……」


 ふたりも俺の考えに納得してくれたらしい。


「というわけで太郎鉄道をやりましょう」


「ではそうしましょうか」


 太郎鉄道に決まったので配信準備もする。

 視聴者たちからは見えないだろうが、念のためゲームは二階でやることになった。


『こんにちは、配信をはじめるよ』


 枠主は俺でふたりがコラボという形だ。


『今日は予告どおり勉強会終わりの打ち上げ配信で、同期とゲームをするぞ』


 とまずは俺があいさつし、簡単に話す。


【コメント】

:待ってました

:勉強会お疲れさま

:ちょっとは成果が出るといいね



 コメントはけっこうあったかい。


『こんラビー。勉強会無事に終わりました。打ち上げということで三人で遊びたいと思います』


 二番目にあいさつするのは紗世さんで、俺と違ってていねいな内容だ。


【コメント】

:こんラビー、またコラボか

:合宿中だからか、同期コラボ多いね

:俺大勝利で大歓喜

:モルラビバードはてぇてぇだからな

:自分も大歓喜



『こんモル。長いようであっという間だったよ。やってよかったなって思ってる』


 最後に桂花があいさつをする。


【コメント】

:こんモル

:モルモちゃんが一番成長したんだろうか?

:たぶん

:鳥は……頑張れ

:期待されてなくて草



『俺もやってよかったよ。試験を受けてみなきゃわかんないけど』


 正直手ごたえはあるんだけど、現状口にしないほうがいい気がした。


 できると言ったのにできないというのは、世話を焼いてくれた紗世さんと桂花に申し訳ない。


 自分でやってダメだったのなら、ネタにして笑い飛ばすのもありなんだが。


【コメント】

:そりゃまあそうだ

:ちょっと面白みがないな…

:ここでイキったりしないのが実に鳥らしい

:よくも悪くもこれがバードの持ち味なんだよ

:メンタルは安定してるのがえらい

:常に冷静って何も悪いことじゃないからな

:ゲーム実況はエキサイティングだから、それでええんやで



 コメント見てるとちょっとうれしくなる。


『淡々としてつまらない性格ってのは、言われたことあるな』


 と俺が申告すると、


『どんなときも安定してる人ってつき合いやすくて助かるわよ?』


 と桂花がフォローしてくれた。


『そうですよ。面白いことなんてみんなで探せばいいのですから』


 紗世さんも優しく微笑む。


【コメント】

:てぇてぇ

:これはてぇてぇ

:たしかに安定感ある人間はつき合いやすいよな

:情緒不安定な人は怖いよねえ

:そもそも一緒にいて面白いって何なの?

:生きてるだけで面白い奴ってザラにいるはずもなく

:話題だっていつか尽きるもんだろ

:プロの芸人ならともかく一般人にそれを求められても

:言いたくても言えないことってあるから…



『ほら、みんなバードはつき合いやすいって』


 と桂花がささやく。


『優しい世界ってあるんだなぁ』


 それが正直な俺の感想だ。

 世の中つらいことばかりじゃない。


 こうして実感しなければ納得できなかっただろう。

 きれいごとにすぎないって反発してたかも。


『バードくんだからこそですよ』


『そうそう。自分の力でもあるって忘れないでね』


 同期たちふたりも優しい。

 ペガサスオフィスはそれだけ見る目があるってことかな?


 この表現だと俺も中に入りそうだから、ちょっと恥ずかしいんだが。


『あー、みんなの力ってことにしてしまおう』


 俺は照れくささをごまかす。


【コメント】

:照れたな

:照れバード

:照れる鳥さん可愛い♡  ¥5000

:私にはご褒美です  ¥1000

:お姉さまのツボを的確に刺す鳥

:ゲームがはじまらなくて草

:何でや! てぇてぇやろ!

:てぇてぇが摂取できるなら何でもいいよ  ¥2000

:ゆるくて草

:このゆるさがペガサスファンのよさだと思う



『うんうん、ファンまでてぇてぇだよね。えらい♡ えらい♡』


 と桂花が小悪魔モードの声で視聴者たちを褒める。


【コメント】

:やばいめっちゃ可愛い

:照れる

:ガチで破壊力ある…

:これは女にも効く…

:尊死



 男性ファンどころか女性ファンにも効果がすごかったらしい。

 さすが桂花だと感心しながら、俺たちはゲームの準備を整えた。


『今日は太郎鉄道を三人でやるぞ。初めてだから楽しみだ』


 と俺は画面を映しながら告げる。


【コメント】

:太郎鉄道か

:またの名を友情破壊ゲーム

:カップルや夫婦仲も破壊されることもあるおそろしいゲームだ

:鳥はやったことないんだな

:一応ひとりでもコンピュータと遊べるけどね…

:あれだけ頂上戦争やクリバスが上手いんだから、ほかのゲーム未経験なのはむしろ納得できる

:わかる

:やったことがあるゲームが少ないからこそ上手いってのは説得力あるよね



『え? ゆ、友情破壊ゲーム?』


 何かおそろしく物騒な言われ方してない?


『ああ、疫病神モードですね。このソフトはオフにできるので大丈夫ですよ』


 と紗世さんが言う。


『疫病神?』


 知らない名前だ。


『説明してると時間がかかっちゃうから』


 と桂花がやんわりと言う。


『おっとそうだな。さすがにこれ以上時間は伸ばせないもんな』


 と俺は答える。


【コメント】

:いや、太郎鉄道知らない人もいるでしょ?

:知らない

:名前だけは知ってる

:プレイしたことはないかな

:太郎鉄道やってる人と三人の視聴者層、微妙に重なってなさそうだしな…



『知らない人、意外と多いんだな』


 すこしびっくりする。


 ゲーム配信でバズったんだから、ゲームが好きで詳しい人が多いと単純に考えていたのだ。


『わたしの視聴者はたぶんゲーム詳しくないよ。印象だけどね』


 と桂花が話す。


『そうなんだ。視聴者かたよらないほうがいいんだろうな』


『でしょうね』


 と言いながらゲームをスタートする。

 所持金を持った状態で全国を鉄道で旅するゲームか。


 サイコロを振って止まったマス次第でいろいろとできることが変わるらしい。


『一番は俺か。所持金が多ければいいの?』


 と聞く。


『簡単に言うとプラスマスに止まってお金を稼いで、駅マスで物件を買って収益を増やすのよ』


『所持金が減るイベントもありますからね。物件を持っているのは大事ですよ』


『あ、はい』


 とりあえずサイコロを振って、プラスの駅に寄ってみよう。


【コメント】

:鳥さんガチで初心者なんだな

:初々しい

:自分も初心者だから解説助かる

:所持金が減るイベントってなに?

:台風とか火山とか大雪とか

:そのへんは日本の気候らしい災害イベントなんだな

:怪獣襲撃イベント、いつの間にかなくなったからな

:昔はもっと災害イベントあった気がする

:あとカードで相手の所持金を奪ったり減らしたりできる

:へー



 コメントを見ると何やら説明があった。


『災害イベントがあったり、カードで所持金を奪ったりできるのか』


 とつぶやくと、


『災害はだいたいターン開始にランダム発生するよ』


 と桂花が教えてくれる。


『止まってるマスじゃなくて、持ってる物件などが関係してるのは珍しいかもしれませんね』


 と続きは紗世さんが言った。


『へーそうなんですね』


 たしかにマスに関係なくイベントが発生するパターン、俺は初めてだ。

 プレイ年数が進んだら経験するのかな?

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