第54話「勉強会打ち上げ配信③」
桂花はカードをもらえるマスに行き、紗世さんは駅に止まった。
序盤は動きが静かだなと思っていたがふと気づく。
『モルモが連続でカード駅に止まってるけど、ひょっとして作戦?』
『あ、わかった? さすがね』
桂花はバレたと隠さずに答える。
【コメント】
:まだ3ターンくらいなのに気づくのか
:鳥、勘がいいな
:さすがだね
:初心者でも気づくものなんだな
:初手でサイコロ増やすカードを集めてぶっちぎるのはこのゲームの勝ちパターンだぞ
:モルモちゃんガチで勝ちに来てるよな
:ラビちゃんはマイペースか
:たぶん戦略知らないんじゃない?
:上級者の戦略だからライト層は知らなくても普通
『上級者向けの戦略か』
『そんなものがあったのですね』
俺と紗世さんはコメントを確認する。
まあ紗世さんは知らなくても変じゃないか。
『すくなくともバードは手を抜かれるのいやでしょ?』
『当然だ』
桂花の質問に力強く言い切った。
まだ知り合って1か月程度だが、俺の性格をよくわかっている。
『わたしも別に強い人が本気でプレイするのは、大丈夫ですよ』
と紗世さんはおっとりとした口調で話す。
『ですよね』
だから桂花は本気でやってるのだと笑う。
『サイコロ振る系だと出ないときは出ないだろうしな』
と俺が言うと、
『やめて』
桂花がちょっと悲しそうに答える。
何やらトラウマでも思い出したんだろうか。
【コメント】
:たしかに出ないときはマジで出ない
:ゲームに関する勘はさすが鳥だな
:くり返し使える周遊カードマジで便利
:あるいは好きな数進めるスペリオルカードな
:むしろそれら二択になるんじゃないか?
『へー、周遊カードとスペリオルカードか。覚えておこう』
太郎鉄道はこれらがあると便利なのか。
今回以外にもプレイする機会はあるかもしれない。
『あー、バードが覚えていく』
『わたしも覚えますよ?』
桂花が厄介だと反応したら、紗世さんが微笑みながらアピールする。
『そうですね』
対する桂花はにっこりと笑顔を返す。
【コメント】
:鳥とラビちゃんとでモルモちゃんの反応違いすぎて草
:ラビちゃん運はいいけそ、そこまで強くないからな
:鳥は運が絡まないやつは学習すると強そう
:運はあんまりよくないけどな、鳥
:運が一番いいのはたぶんラビちゃん
:この3人だと何気にバランス取れてるんだよな、偶然だと思うが
:ゲームやるときの運なんてさすがに選考に入れられるはずないしね…
コメントで言われてることはもっともだと思う。
運だけはたしかめようがないし、現に俺はチェックされていない。
『一年目が終わってどんぐりの背比べだな、これ』
と俺が率直に言う。
『一年目で差がつくのはまれだよ』
桂花は軽く苦笑した。
【コメント】
:さすがにそれはね
:だんだんインフレしていくからな
:いきなり勝負がつくことはないよう調整はされている
なるほど、それもそうか。
90年とかスパンの勝負なのに、開始5年目で勝敗が決まるのはまずいもんな。
最後の1,2年まで勝敗がわかんないくらいのほうがプレイしている人も楽しいはずだ。
『そこは人生ゲームとちょっと違うかもしれませんね。あれはすぐに差がつく場合もありますから』
と紗世さんが言う。
『そうなんだな』
人生ゲーム、ほとんどやったことないからわかんない。
『これは次は人生ゲームをやる流れになりそう』
と桂花が言った。
【コメント】
:さすがモルモちゃん、さっそく次の配信のネタを拾った
:鳥、人生ゲームやったことなかったっけ?
:配信以外ではガチでやったことないと思う
:ルールすら知らないからね…
:鳥は知ってるかどうかわかりやすいしね
『たしかにやったことないよ』
とコメントを見て発言し、自分のターンでサイコロを振る。
物件駅に止まったので安いやつを買ってみた。
【コメント】
:物件買わなきゃはじまらないからな
:所持金持ってるだけじゃほとんど意味ないゲームだもんね
:何となくわかってきたのかな?
視聴者たちはあれこれ予想しているが、いまはまだ手探りだ。
手を抜くつもりはないけど、いきなり勝てるとは思っていない。
紗世さんはともかく桂花は確実に上級者なんだから、勝てってほうが無茶だろう。
真剣勝負のほうが楽しいだろうから、勝負は捨てないけど。
『はい、目的地にゴール』
『これでモルモちゃんが二回連続でゴールですか』
桂花はサイコロの数を増やせるカードを使い、目的地にゴールして報奨金をもらっている。
『すこしずつだけど差がつきはじめたな』
やっぱり桂花が一番強いか。
【コメント】
:差がついてくるよね
:そりゃ持ちカードがこれだけ違っていたらな
:近くが連続して目的地になるなら別だけど、遠くが目的地になったらモルモちゃんがつよつよだろ
:目的地に着くほど持ちカードの差は効いてくるんじゃないかな
『カードの差か。いまから挽回は無理だろうな』
これが数十年するパターンならまだわかんないだろう。
しかし、すでにそれなりのプレイ時間が過ぎている。
『一時間で終わるルールだからね、逃げ切らせてもらうよ』
と桂花が不敵に微笑む。
『モルモちゃん強い、そして上手いですね』
紗世さんが感心した。
この流れで純粋に対戦相手を称賛できるのは彼女の美点だと思う。
【コメント】
:これはモルモちゃんの勝ちか
:鳥は勝ちパターン知らなかったもんな
:気づいただけで大したものだよ
:ラビちゃんはマイペースだよね
:ガツガツ勝ちに行くのは性分じゃないんだろう
:たしかにラビちゃんはみんなと楽しく遊びたいタイプか
:モルモちゃんが大人げなく勝ちに行ってもニコニコだもんな
:鳥も勝ちにいく姿勢に理解あるから、この3人マジでいい組み合わせ
:ペガサスは組ませるの上手い
:1期生もあれで上手く回ってるしな
たしかに紗世さんはマイペースだよなと思う。
楽しい時間を過ごすのが大事で、自分の勝敗には執着がない印象だ。
俺には正直理解しづらいんだが、彼女のおかげでいい感じになってるのは事実だ。
想像するしかないんだが、いないと困る状況もきっと多いだろう。
このまま桂花が逃げ切ると思っていたが、突然BGMがかわって画面が切り替える。
【ここで緊急ニュースが入ってきました】
とメッセージが表示され、
『あっ』
と桂花が悲鳴に近い叫び声をあげた。
【コメント】
:あっ
:まあそんだけ物件を買ったらね……
:年数的にもイベント発生条件満たしたんだろうな
そう、災害イベントの発生し、桂花が所有している物件に被害が直撃する。
『10億円の被害が出て借金か』
さっきまでトップを走っていたのに、一気に転落してしまった。
『これが太郎鉄道の怖さなのよね……』
勝ち誇っていた笑顔はどこへやら。
桂花は一気にずーんと落ち込んでいる。
【コメント】
:それな
:わかる
:1か月でトップから転落させられるから太郎鉄道は恐ろしい…
:転落するときは一瞬なんだよな、このゲーム
『怖いですよねー』
紗世さんは純粋に桂花に同情的で、人柄がよくわかった。
『モルモには悪いが、横取りいただき』
と言って目的地にゴールして報奨金をもらい、物件を買って行く。
『仕方ないわよ。というかバード、飲み込み早くない? 今日やるのが初めてなんだよね?』
『そうだけど』
桂花の問いにうなずいた。
太郎鉄道は正直タイトルは聞いたことあるレベルだったのは事実だ。
『バードくん、ゲームが強いのが理解できますね』
紗世さんも俺を見て驚いているらしい。
【コメント】
:これはすごいな
:モルモちゃんのプレイを見て学習したんだろうけど、いきなりできるか?
:実践して成功できるのは運もあるだろ
:カード運、サイコロ運、どっちも大事
:鳥さん、運はよくないイメージだったけど…
:よくはないだろ、モルモちゃんが落ちてきた結果だし
:モルモちゃんしか災害イベントの対象条件を満たしてなかったわけだからな
:運がいいならさっきモルモちゃんと一緒に被害受けてた
:↑太郎鉄道ってそういうゲームだよね…
:なるほど、そんなゲームなのか
:災害系イベントって種類多いし、範囲もけっこう広いからな
『そっか。右も左もわかんない状態だったのが幸いしたんだな』
コメントを見て理解する。
ビキナーズラック? とはちょっと違う気がするけど、結果だけ見れば似たようなもんだろう。
時間の関係で俺がトップに出たまま逃げ切り、桂花は最下位に終わる。
『時間のおかげで俺は勝てたようなもんだな』
ゲーム配信時間があと1時間くらいあったなら、たぶん桂花が再逆転してきただろう。
巻き返すにはあまりにも時間が足りなかったのだと、俺でも察することはできた。
『それを含めて時間制限性の楽しさだからね。悔しいけど、楽しかった』
と桂花は笑顔で言いきる。
『波乱万丈そのものな結果になりましたね』
と紗世さんも満足そうに言った。
彼女は堅実に2位で終わっているのはらしいな。
【コメント】
:ドラマがもう1回起きるには時間がなかったな
:短時間制限でやったらこんなこともあるさ
:見てる分には楽しかったけど、モルモちゃんは悔しいだろうなー
:鳥的には何が何だかわかんないうちに終わったんじゃないかな?
:↑どう見ても途中でモルモちゃん戦法をまねしてたぞ
:物件の買い方とかいろいろあるし、その辺学ぶヒマなかったから次やったらモルモちゃん勝つんじゃないか?
コメントもわいわい盛り上がってる。
俺も次やれば普通にモルモが勝つんじゃないかという意見に賛成だ。
『じゃあそろそろ配信終わりだな。お疲れ』
『おつラビです』
『おつモルー』
シンプルな俺、落ち着いた感じの紗世さん、可愛い桂花と三者三様のあいさつで終了する。
【コメント】
:お疲れ
:面白かった
:まさかこの手のゲームで鳥が勝つとは……
:予想外の展開だったね
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます