第51話「勉強会合宿⑩」
『今回は休憩配信だよー♡』
と桂花が可愛らしく第一声を放つ。
今回はモルモのチャンネルで勉強の息抜きタイムの配信の回だ。
【コメント】
:待ってました
:勉強は順調かな?
:モルモちゃんより鳥のほうが心配
:モルモちゃんはしっかり者だしな
待機していた視聴者たちがさっそくコメントをくれる。
『そうだね。順調じゃないかなって思うよ。油断は禁物だけどね。頑張ってる子はわたしたち以外にもたくさんいるだろうから』
と桂花が答えた。
彼女はいい感じらしくすごいなと素直に感心する。
【コメント】
:えらい
:油断や慢心と無縁なモルモちゃん
:これは期待できる
:いい結果を勝ち取れるといいね
『モルモはえらいよな。俺も何とか頑張ってるけど』
とここで俺が参加した。
【コメント】
:心配な人が来たな
:一番と言うか唯一の不安材料
:というかこれ休憩配信じゃなかったっけ?
『そうですよー。いまは三人でまったりお茶を飲みながらお菓子を食べています』
と紗世さんが話す。
『紅茶もクッキーも美味しいわよ』
と桂花がしみじみと言う。
『シュークリームも美味い』
俺は最後につけ加える。
目の前に広がっているのはクッキーとビスケット、それからシュークリームだ。
【コメント】
:え? どういうことだ?
:待って、どういう状況?
:雑然としすぎじゃないか?
:クッキーとシュークリーム、どっちも洋菓子だろうけど、何か釈然としない
:もっと整った空間になってると思ってた
:ここにきてまさかの解釈不一致
:同じく初めての解釈不一致
コメントが軽く混乱してるを見て、俺と桂花は声を出さずに笑う。
そして桂花は口を開いて、
『シュークリームを食べてるのはバードひとりよ。びっくりした?』
といつもの小悪魔ムーブでささやく。
【コメント】
:何だ、そういうことか
:それなら解釈一致
:え? 鳥さん自分だけ違うもの食べるかな?
:みんなに合わせるスキル、普通に持ってそうだが…
:ラビちゃんが作りすぎたか、買いすぎた説に一票
:勉強会はラビちゃんの家でやっているんだっけ?
:同期ふたりを呼ぶのがうれしすぎて買いすぎたラビちゃん
:萌える
:可愛いな
本当はちょっと違うんだが、勘違いされたほうが得かな?
と思って紗世さんに目をやる。
『そうなんです、ちょっと失敗しちゃいました。バードくんが食べてくれるので、大助かりです』
彼女はにっこり笑みを浮かべながら言った。
『本当ね。うちの弟もだけど、男子ってよく食べるのね。感心しちゃう』
と桂花は感嘆する。
【コメント】
:ラビちゃんは男兄弟いないから若い男がどれだけ食べるのかわからないんだよな
:モルモちゃんは弟がいるので多少理解できる
:解釈一致
:まあ鳥が女子よりよく食うのはな…
『自分が普通なのか全然わかんない。用意したラビさんは大変だっただろうなと思ったのはたしか』
『ほんとラビさんには頭あげられないわよね』
俺の言葉に桂花が全力で同意した。
これ、ラビさんにできた借りを頑張って返済していく人生がはじまるんじゃないだろうか?
『大げさですよ、ふたりとも』
紗世さんは恥じらいながら笑う。
【コメント】
:ラビちゃん自分は大したことしてないって本気で思ってそう
:実家が太い子ってたいがい感覚がズレてるから…
:同期のために家の力を使うラビちゃんてぇてぇ
:やっぱりラビモルが王道だな
:ラビバード、モルバードも悪くはないけどね
:3人のコラボが増えた俺氏、後方で腕組みしてにっこり
:わかる
:三人全員のファン、けっこういそうだよね
:けっこう珍しい状況になってる
『バード、中間テスト頑張らないとね♡』
桂花がニヤッと笑いながら可愛い声でプレッシャーをかけてくる。
こういう小悪魔ムーブ、本当によく似合う。
これは俺を煽ってるんじゃなくて、彼女なりのはげましだ。
わかるようになったので、
『もちろん頑張ろう。目指せ平均点』
と答える。
【コメント】
:目標ひっくw
:まあ現実的ではある
:ローマは一日にして成らず、勉強も数日じゃ限界があるでしょ
:鳥ってこういうときはリアルなんだよな
:地に足がついてるのは立派だが、ほんとに学生? という疑問も
:自己評価と他人からの評価のギャップに驚いてるあたりは学生らしいけど
:何と言うか落ち着いた人が多いよな、ペガサス
:何が燃えるかわからん世の中だし、その辺は考えて採用するのは妥当
:管理能力ちゃんとしてそう
:油断は禁物だがな
目標の低さをいじられるかと思ったらすぐに話が変わる。
『俺が落ち着いてるって言われるけど、視聴者のみんなも落ち着いたおとなが多いイメージなんだが?』
と俺は言った。
『わかる。わたしもそう思うわ』
桂花が同意を示す。
『ラビットモのみなさんも落ち着いた人が多いと思います。素敵な人達たちですよね』
と紗世さんも共感する。
ペガサスオフィスについてる客層がそうなんだろう。
『いいファンをつかまえているのはきっと先輩たちのおかげだよな』
と一期生たちの活躍に思いをはせる。
『そうですね。先輩たちはみなさん素敵な人たちばかりですから』
『みんなすごいもんね』
ここで先輩たちのすごさについて、お互い確認し合った。
三人とも同じような考えを持っていたらしい。
【コメント】
:何か照れる
:まさか応援してるVに褒められる日が来るとは…
:感謝された経験はあるけど、ナチュラルに褒められたのは初めてだ
:てぇてぇを見に来たのに、てぇてぇに巻き込まれた?
コメントでは驚きと混乱が広まっている。
視聴者たちは本当に想定していなかったみたいだ。
『だって俺らは視聴者のみんなあっての存在だし』
『ですよね。支えてくださるかたがいないと成立しない存在です』
俺と紗世さんは真面目に話す。
『ふたりに全部言われちゃった』
桂花は苦笑する。
彼女も自分のファンに感謝の気持ちを言いたかったのだろう。
【コメント】
:あれ? 今日ファン感謝祭だったっけ?
:俺も同じこと思った
:同期を褒め合う流れからファンを褒める展開になるのは草を超えて困惑
:てぇてぇしかない
:ペガサス2期生はみんなてぇてぇだった
:尊さで無事死亡
:一周まわって蘇生も可能
:尊さは俺らを死なせるだけじゃなくて、蘇生させるパワーもあった?
:ペガサスと言うよりフェニックスだね
:ペガサスのフェニックス2期
:↑何が何だかわからんぞ
:たぶんリアルタイム視聴者以外わけわかんないと思う…
『何か知らない間にわたしたちがフェニックスになってる』
と桂花が笑った。
これには俺も紗世さんも苦笑するしかない。
V同士の交流が尊い、尊いあまり死ねるというのはファンの感想表現であるあるなんだが、それを超えるものが出てきた結果だろう。
『フェニックスかぁ……ラビさんは天使か女神なんだけどな』
と俺は自分の感覚を口にする。
紗世さんは自力で復活してくるタイプとは思えない。
他人を蘇生させる神官とか命の女神とかならぴったりなんだが。
『わたしとバードを蘇生させてくれる女神様ポジションよね』
と桂花が言う。
『まったく同感だ』
俺たちは視線と笑顔を交わす。
距離が近かったらきっとがっちり握手していたなと思う。
『もう……おふたりとも、やめてください……』
紗世さんは真っ赤になって、両手で顔を隠しながら言った。
反則的に可愛い。
【コメント】
:ラビちゃん可愛い
:ガチ照れてぇてぇ
:ふたりとも本気で言ってるからこそのてぇてぇ
:バードかわってくれ
:ラビちゃんの照れ具合生で見てみたい
:鳥も見れるんだっけ?
:勉強会の休憩時間なんだから、そりゃ近くにはいるだろ
:オンラインで教えてる可能性も否定はできないが…
:一緒にお菓子食べてるって文脈だっただろ?
:てぇてぇの過剰摂取で記憶がぶっ壊れてたわ、ごめん
:気持ちはわかる
:言いたいことはわかる
:俺も吹っ飛びそうになってるからな
:わたしも魂が吹き飛びそう
:自分も
『あら? ラビさんの女神パワーでみんなダウンしちゃったかな?』
と桂花が紗世さんをからかう。
『も、もぉ……』
恥じらいで悶絶しながら抗議するラビさんはめちゃくちゃ萌える。
これが萌えパワーってやつかと納得しそうだ。
『とまあ休憩中はこんな感じだよ♡ わかったかな?』
と桂花は視聴者たちに呼びかける。
【コメント】
:よくわかった
:ラビちゃん恥ずかしくて悶絶しまくりなんだな
:モルラビだとそうだろうなと思ってた
:解釈一致だわ
:鳥もモルモちゃん側なのが意外だった
:それな
:鳥さんはラビちゃん側だと思ってたよね……
こうして休憩配信は終わった。
いじられた仕返しに紗世さんがスパルタに変身するということはなかった。
猫島さんから「予想外の一面が見れたと好評です」とあとで連絡が来た。
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