第50話「勉強会合宿⑨」
『今日は中間報告配信をするぞ』
と午後七時半晩ご飯をすませたあと、俺は自分のチャンネルで告げる。
『それでゲストがふたりいるぞ』
と言うと、
『はいー。ゴールデンウィークのど真ん中なのに、配信を見てる寂しいみなさんこんモルー。モルモだよ♡』
まずモルモがあいさつをするが、彼女らしく可愛らしい煽りから入った。
【コメント】
:泣いた
:楽しみに待機してたのに……
:他人のチャンネルでファンを煽る女、モルモ
:いかにも小悪魔らしい
『人のチャンネルで煽るのはやめてほしい』
すぐそばにいる魂の桂花に抗議の視線を送りつつ言うと、
『えへっ♡ ごめんね♡』
桂花はめっちゃ可愛い表情と声で謝る。
もちろん俺にも向けて。
これで許せてしまうんだから可愛いって正義なんだと思う。
とくに桂花はメチャクチャとか形容詞がつくし。
【コメント】
:可愛い
:クソ可愛い
:これは大正義
:これは許せる
コメントもモルモの可愛さにやられた視聴者が続出している。
『こほん。気を取り直して、もうひとりゲストを呼んでみよう』
と俺が言って合図すると紗世さんは小さくうなずく。
『こんラビ。バードくんのチャンネルにお邪魔してます、同期のラビット・ホワイトステップです。みなさん、よろしくお願いしますね』
と彼女らしいていねいなあいさつをする。
【コメント】
:こんラビ
:清楚
:これは天使
:モルモちゃんとは大違いや…
:あっちは小悪魔だからな
:まさに天使と小悪魔だな
:間に挟まれてる鳥は超人だし、何気にすごい三人組
:超人、超鳥
何か三人一組で受け入れられているようだ。
とくに反発はなかったはずだけど、こういうコメントを見るとやっぱり安心できる。
『報告って言っても俺は勉強頑張ってるとしか言えないんだが。正直、できるようになった実感ってないし』
と正直にカミングアウトした。
【コメント】
:草
:いかにも鳥らしい
:いやまあ合宿をはじめて2、3日で成果実感できるほうがこわい
:漫画の世界じゃないんだから…
:ラビちゃんとモルモちゃんがどれだけ優秀でもきついでしょ
『そうだな。俺が負担になってるという自覚はある』
とコメントを拾う。
『自分のわかってるところ、わかってないところの確認ができてるから気にしないでいいよ。人に教えると自分のためにもなるって本当だよ』
とモルモが答える。
『たしかにモルモさんはバードくんを見ながら、自分でも力をつけてきているように思います』
とラビさんが言う。
そういうものなのか?
【コメント】
:おや? モルモちゃんのほうが成長してるの?
:すくなくともラビちゃん的にはそうってことかな?
:30点を50点にするより、70点を80点にするほうが難しい気がするが……
:それよりバードさんはひどいってことなの?
:全鳥が泣いた
:バードウォッチャーの私も泣いた
:自分も泣いた
:泣く人が多すぎて草
:草が生える
コメントが盛り上がってるが、これはこれでおいしいかもしれない。
ぼっちの俺はいじられることすらない空気マンだったからな。
『バードくんは基礎固めに時間がかかって、結果はすぐに実感しづらい状況ですね。その点モルモさんはつまずいている部分がわかればいいという状態でしたから』
紗世さんが説明する。
『たしかに成果は全然わかんないです。まあ数日だから仕方ないとは言え、いい効果が現れはじめてるモルモはすごいですね』
と答えた。
紗世さんの説明で桂花が成長した理由に納得する。
俺はわかってない部分が多すぎるから、急には伸びないってことなんだろう。
中間試験まで間に合ってくれたらいいんだが。
『バードはあせらないことね。もともと赤点をとったことはないんだから』
と桂花に言われてうなずく。
『そうですよ。まだあわてる状況ではありません』
と紗世さんも言う。
『了解です』
ふたりに返事をしておく。
【コメント】
:そういや赤点はとったことないのか
:女子ふたりがこう言うってことは、実はそこまでやばくない?
:危機感を持つのが早かったおかげでまだ取り返しがつく感じ
:それ考えると鳥さんえらいよね
:ゲームと配信だけで食っていけそうなのに、胡坐をかかず勉強するのはえらい
俺が急に褒められる流れになった。
『たしかに鳥はえらいわね』
『そうですね。勉強は手を抜いても大丈夫そうなのに頑張るのはえらいですし、とてもすばらしいことです』
桂花と紗世さんのふたりからも褒められる。
『すぐに成果を出しはじめたモルモもえらいし、ふたりの面倒を見てるラビさんもえらいですよ』
お返しとばかりに俺はふたりを褒めた。
『一番大変なのはラビさんだろうし』
『それは間違いないわね』
桂花がすかさず賛成する。
【コメント】
:ラビちゃんはふたり分見てるもんな
:ふたり分見れるなんてすごくない?
:それに自分の家を勉強場所として提供してるし
:天使かな?
:ひかえめに言って女神かもしれない
コメントが今度は紗世さんを称える流れに変わった。
いいぞ、もっとやってくれ。
俺ばかり褒められるのはちょっとバツが悪い。
その点、同期たちが褒められるのは見ていて気分がよかった。
『ラビさんはすごい人だよな。いっしょにいて余計にそう思った』
と話す。
『わかる。とんでもない人と同期になっちゃったよね』
すかさず桂花が乗ってくる。
『え、やだ、ふたりして何ですか。困っちゃいます』
紗世さんはガチで照れ、真っ赤になってうつむいてしまう。
【コメント】
:ラビちゃんガチ照れやん
:これはラビちゃん負け
:ラビちゃんひとり負け
:同期たちてぇてぇ
:普通にてぇてぇだな
:男が混ざってるのにてぇてぇを摂取できるからペガサス2期はいい
:それな
:関係を楽しむのに集中させてくれるのはすごい
てぇてぇに関しては正直よくわかんない。
桂花と紗世さんのふたりは可愛い、または美人で見ても聞いても保養になるのはわかるんだが、俺って関係ある?
邪魔だ、やめろって言われないだけ、まだ頑張れてるほうだとは思う。
『モルモとラビさんって、てぇてぇだよな』
しみじみと言うと、
『バードくんが言うんですか?』
紗世さんに驚かれ、
『あなたもてぇてぇに入ってるのよ? 自覚ないの?』
桂花には呆れられてしまう。
あれ? ときどき見る展開になってないかこれ?
【コメント】
:出たよ、鳥の天然
:自分も入ってるのに無自覚なんだよな
:鳥はもともと天然でしょ
:家畜化された鳥じゃなくて野生に生きてた鳥だからな
:天然記念物なのは仕方ないね
:↑お前らw
:大草原不可避w
『そう言えばバードは野生で生きていたところをボア先輩に発見されて、ペガサスに拾われたんだったわね』
コメントの流れを桂花がさっそく拾う。
同時にこっちを見てウインクを飛ばしてくる。
『ああ。ペガサスに保護された鳥だよ』
と俺が応じると、
『ペガサスが鳥を保護するって翼がある生き物同士、シンパシーがあるのでしょうか』
と紗世さんが話に加わって微笑む。
『あるかもしれないわね。わたしとラビさんは小動物だけど』
と桂花は笑う。
【コメント】
:草
:まさかの事務所いじりで草
:モルモちゃんはともかくラビちゃんがこの話題に乗るなんて意外かも
:たしかにな
:まあ台本通りでしょ
:ペガサスはもともとそういう路線ゆるゆるだからな
:自社ネタなら他社の反応が怖くないもんね
;草
俺はふたりに許可取ってるの? と目で聞いてみる。
ほかふたりは不思議そうな顔を返す。
……アイコンタクトやジェスチャーじゃ通じませんでした。
あとで聞いてみよう。
俺と違って危機管理しっかりしてる人たちだから、大丈夫だと思うけど。
『ペガサスなのに動物園? と思っていたのは俺だけじゃなかったか』
と言うと、
『あー、言っちゃった。みんな思ってても言わなかったことを』
桂花が間髪入れずに応対する。
【コメント】
:草
:ペガサス動物園
:Vたちが言っていいのかよw
:ペガサスはどう見ても意識してるからいいんじゃない?
:牛、蛇、猪、ネズミ、羊、鳥だからね
:3期生が来るなら虎や竜、犬、猿あたりか?
:だろうな
:それだと12しか用意できないんだよな
:このまま好調なら5期生とかどうすんの? という疑問はある
:動物はこの世にいっぱいいるだろ、動物の数を信じろ
:↑草
:そういう意味で鳥だけで鳥類使っちゃったのはもったいなかったかな
:↑何で? サメとかトナカイとか猫とかいろいろいるだろ
:まあ動物ネタを使い切るほどデビューさせられるかと言うと…
『はーい、話を戻すよー』
コメントの方向がおかしくなりかけたところで、桂花が手を叩いて明るく言う。
『俺はまだやばい、モルモは順調、ラビさんはすごい、だな』
と要点をまとめて話す。
『ざっくりなまとめありがとー。とりあえずラビさんは女神。これはガチ』
『ガチだな』
桂花の発言に俺が同意する。
『も、もうっ、ふたりとも、恥ずかしいのでやめてください』
紗世さんの恥らないながらの抗議は弱弱しくて可愛らしい。
【コメント】
:可愛い
:ラビちゃん可愛い
:これは天使
:いや女神じゃないかな
:女神であり天使でもある
:どういうことだよw
:鳥がいじり側になった以外は解釈一致
:それな
結局中間報告の半数以上が紗世さんや経過を褒める内容になった。
視聴者たちはてぇてぇだと喜んでいたのでアリだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます