第45話「勉強会合宿④」
いつものように最初に俺の配信だ。
桂花と紗世さんは二階にあがってもらい、一階は俺だけとなる。
万が一ふたりの声が入ってしまったら言い訳が面倒だからだ。
この時間帯ならまだ帰ってなくてもおかしくないかもしれないが、念のため。
『こんばんは。勉強会合宿、めちゃくちゃ疲れたよ』
俺は意識的にしんどそうな声を出す。
【コメント】
:こん&おつ
:声からして疲れてるな… ¥500
:まあ勉強はしておいて損はないよ ¥150 ジュース代
:そうだな ¥200
:美女ふたりと勉強ってうらやましい
:甘酸っぱい青春みたいだ
:本人にそんな余裕なさそうだがな
:ゲーム極振りだったんだから仕方ない
:いまの時代ゲームと配信で食えそうなのに、学業もやるってえらいな
:それな
コメントで普通に褒められている。
気にしすぎたかな?
いや、ふたりのファンに対する配慮はしたほうが絶対いいだろ。
『まあいつまでできるかわかんないから……と言うか、いままで何も考えてなかっただけなんだよな。その点、モルモはちゃんと考えててびっくりした』
と告白する。
モルモ(桂花)のことを褒める分にはかまわないだろう。
【コメント】
:モルモちゃんはしっかり者だもんな
:計算型女子だけあって将来もきっちり計算してそう
:ラビちゃんもメチャクチャ賢いんだっけ?
:まあライバーなんてバカにはキツイでしょ
:鳥さんだって地頭が悪いわけじゃないだろうしね
:頭がいいと勉強ができるは≒だったり
『そうなんだよ。ふたりともすごいんだよ。正直ちょっとあせる。俺って何も考えてないダメなやつなんだって、思い知った感じ』
と正直に打ち明ける。
ふたりはいまごろ上の階で見ているだろうけど、べつに知られたってかまわない。
【コメント】
:まだ若いから取り返しはつくよ
:人を見て気づけるのはえらい
:そうだよな
:気づいて実行してるのは立派
優しいコメントが並ぶ。
……その優しさに甘えすぎないように、本来の配信に戻ろう。
『勉強会の話はここまでにして、ゲーム配信をしようか。とりあえずクリバスをやっていくよ』
迷ったらクリバスか頂上戦争というのは、猫島さんにも言われている。
【コメント】
:待ってました
:今度はどんなトンデモが飛び出すのか楽しみ
:またウルトラEが出るんだろうなぁ
:トンデモが前提になってて草
:言いたいことはわかる
:期待したくなっちゃう気持ちはわかります
コメントを見て苦笑したくなった。
『いやいや、そんなに期待されてもそろそろネタ切れだと思うよ』
無限に楽しませられることはないと思う。
期待されるのはうれしいんだが。
【コメント】
:ふりだね
:押すなよ押すなよ
:鳥だと「期待するなよ期待するなよ」になる
:お約束だな
何かお約束扱いされてるが気にしないでおこう。
『今日は鬼獅子一頭のウルトラ級をやろうと思う。防具はなしで』
とまずは言う。
【コメント】
:それだけ聞いたら普通に思えてしまうな
:↑は訓練されすぎて感覚マヒしすぎだろ
:ウルトラ級を防御なしって時点で、すでに頭オカシイからな!?
:いくつものツッコミどころがツッコミどころとは思えなくなってる…
:いやでも、鳥さんにしては普通な気がする
:↑あくまで鳥基準だがな……
『まあ単に狩るだけだったら退屈かもしれないから、タイムアタックやってみようと思います』
これなら視聴者に刺激を与えることもできるだろうと期待して発言する。
【コメント】
:は?
:タイムアタック?
:ウルトラ級、防具なしで?
:やっぱり発想そのものが頭オカシイ
:タイムアタックやるなら、防具つけるべきでは?
:↑それが普通だよな
ゲームを起動させて準備をしつつ、コメントを拾う。
『いや、防具つけてのタイムアタックって、たぶん誰かやってるだろう? それをやってもなぁ』
あんまり目立たないと思う。
タイムアタックで相当いい記録を出さないといけないが、それ専門でやり込んでる人には及ばない気がする。
【コメント】
:そりゃそうだろうが、おまえ普通にやっても絶対強いだろ!
:縛りプレイをやってるくせに超絶強いのがおまえだろ……
:何だ、相変わらずとんでもねえくらいズレてるんだな
:勉強や将来の話をはじめたから案外まっとうなのかなと思ったけど、べつにそんなことはなかったようだ
:↑奇遇だな、俺も同意見だよ
:自分も
:私もです
:相変わらずすごいこと考えるなぁ<ボア・ブラウンスタンプ>
:ボアちゃんいたのか…
:だってバードさんですもの<雪眠ラチカ>
:ラチカちゃんも来てた!
『あれ? ボア先輩、ラチカさん、いらっしゃい』
ふたりがまさか来てくれるなんて思ってもみなかった。
【コメント】
:見てはいるけど、あんまりコメントはしてない<ボア・ブラウンスタンプ>
:わたしもですね。見ることに集中したいので<雪眠ラチカ>
:人気者ふたりから熱い視線を送られる鳥
:↑たぶん熱の種類が違うけどな
:語弊がある表現はやめろォ…
何やらコメントでネタがはじまったようだけど、ここはスルーするとしよう。
『じゃあ鬼獅子タイムアタックはじめるよ。大事なのは最初の配置運なんだが』
と率直に言った。
鬼獅子と遭遇するのに時間がかかってしまうと、その分だけロスが増える。
【コメント】
:ぶっちゃけた
:まあ真理ではある
:タイムアタックやるなら、最初の配置運がすごい重要だ
:運が悪いとそれだけで1分くらいはロスするもんな
ボア先輩とラチカさんはもうコメントしてこなかった。
ボア先輩ならタイムアタックやるうえで重要なポイントも知ってると思うんだが。
「視聴に集中したい」ということかな?
クエストに出発して画面が切り替わる。
『お、ラッキー』
思わず声に出たのは目の前に鬼獅子がいた。
タイムアタックやるなら最高のスタート位置じゃないか。
【コメント】
:これはいい位置
:これは絶好のスタート
:上手くないプレイヤーだったら絶望するところだがな
:鳥にとっては「目の前にカモがいた」と言うべき状況
:普通は鬼獅子にカモられるはずなんだよなあ
:鳥に普通なわけないだろ、いい加減にしよう
:すごい言われようだなと思わずに納得してしまうのがバードウォッチャー
『こういうとき、まずはトラップを仕掛けて、鬼獅子を拘束するまでの間に火力アップアイテムを使う』
実況も忘れちゃいけない。
攻撃力アップした瞬間、鬼獅子がトラップにかかって動けなくなる。
『んで足を狙っていくよー。破壊報酬はどうでもいいからな』
報酬狙いじゃないなら、ひたすら足を狙って一回でも多くダウンをとるのがセオリーだ。
【コメント】
:相変わらず流れるような展開だ
:どうやれば鬼獅子がどう動くのか、完ぺきに覚えてて実行してるんだな
:どれだけやり込んだんだろうな
:タイムアタックやるなら1回でも多くダウンを取りたい
:ダウンとるほど鬼獅子の動きを封じられて、攻撃チャンスが増えるもんね
:攻撃チャンスを増やすのは大正義。タイムアタックなら余計に
バーサーク乱舞攻撃を足に当ててダウンをとり、さらに足を狙い続ける。
立ち上がった鬼獅子は怒りの咆哮をあげた。
『怒ったので、その隙に次のトラップを仕掛ける』
怒ったクリーチャーは攻撃力とスピードがあがるんだが、俺に言わせれば隙も増える。
トラップで動きを止めて乱舞攻撃というセオリーが決まりやすい。
【コメント】
:怒って大暴れする鬼獅子、普通はこんなバンバントラップ決まらないけどな
:動きを完全に読み切ってないとできないよね
:やばい
:ラグがほとんどないせい立ち回りがやばすぎる
:普通どうしても間やズレができてしまうはずなんだが…
:バスター歴長いやつほどわかる鳥の動きのやばさ
:↑素人だけどほかの動画と明らかに動きが違うのは理解できるよ
:それな
こうなってくると単純作業なんだが、タイムアタック狙いとなるといかにロスを減らすかという戦いになる。
鬼獅子の攻撃を食らいづらい位置を確保しつつ、動きが止まるタイミングを見計らってこっちの攻撃を当てるのだ。
【コメント】
:ほんとに一発も食らわないな
:ここまで攻撃を食らわないなら、スキルをほかのことに集中させられる
:集中させるほどのスキル発動させてないでしょ…
:ほんとそれ。スキルほとんどなしでこの動きって点が一番やばい
:スキル発動させてるなら、同じことできるヤツけっこういると思うよ
:スキルありとなしじゃ天国と地獄だからな、クリハン
:バードくん、自分の発想や感覚がオカシイって気づいてないんだよね。ガチで。<ボア・ブラウンスタンプ>
:ガチなのか……
:やっぱそうなんだ
『よし、勝った。タイムは9分45秒か。9分台なら上出来だろう』
タイムを見て満足しつつ報告をする。
【コメント】
:お疲れさまー
:8888
:すごかったね ¥20000
:お布施 ¥20000
:今日もいいもの見せてもらった ¥10000
:俺もおひねり投げておこう ¥10000
:やっぱり鳥さんがナンバーワン ¥50000
:ウルトラ級の鬼獅子9分台はやばすぎるだろ…
:スキルがアレだからね……
:晩飯代 ¥1000
:ディナー代 ¥8000
『スパチャありがとう。9分台ってどれくらいいいのかわかんないけどな。俺が自分で満足しただけで』
ほかの人のプレイ動画見てからはじめればよかったか。
『ちょっと失敗だったかな? 行き当たりばったりだったと反省してる』
今度タイムアタックに挑戦するときは、ちゃんと調べておこう。
【コメント】
:やべぇ、どこからつっこんでいいのかわからねぇ…
:成長したなと思ってけど、気のせいだった
:あんまり変わってなかった
:行き当たりばったりだったのか…
:事務所からの指示とかじゃなくて?
:どこまでもやばい鳥
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