第41話「1期生たちとコラボ③」
ザコ敵を片付けて城にやってきた。
『お城だー。いよいよだね』
とボア先輩が言う。
腕まくりしてる姿が想像できるほど、ワクワクしているのが伝わってくる。
『本当にボアはゲームが好きよね。頼んでよかったわ』
とラミア先輩が笑う。
【コメント】
:ボアラミてぇてぇ
:やっぱりこの2人は鉄板
:ボアヘファもいいけど
『ひとりだとほとんどゲームしないんですけど、みなさんとなら楽しいです』
ヘーファル先輩は言う。
ひとりじゃやらないのにつき合うって大変だろうに。
友達思い、仲間思いのいい人なんだろうな。
『俺はひとりだとゲームばかりなので、また誘ってもらえたら参加したいです』
と最後に言う。
当たり前だけど呼ばれなきゃ来れないから。
『いやいや、何エンドロール感を出してるの!?』
とボア先輩が笑いながらツッコミをくり出す。
【コメント】
:草
:この流れは草
:まるでラスボスとの決戦直前みたいなシーンだった
:これは3面、ラスボスは8面
:まー、ずっとここまで来れなくて足踏みしてたんだけど
言われてみればたしかに最終局面っぽいな。
まあ枠の配信時間的にはそろそろなのは間違いじゃないが。
『行くわよ?』
ボア先輩はコメントのツッコミを気にせず、城の中に踏み込む。
ラミア先輩、ヘーファル先輩と続いて俺が最後尾だ。
このゲーム、いまのところ背後から不意打ちされるパターンはないけど、一応気をつけておくか。
【コメント】
:鳥は背後を警戒してる?
:3面だとまだ背後からはないけど、警戒するのはさすがだな
:無駄とは言えないしな
:無駄なことやって必要なことがおろそかになるならともかく、鳥にかぎってそれはない
:広範囲警戒、普通にできるもんな
『前と上から敵だね』
とボア先輩が言った瞬間、俺は空から下りてきた敵たちを倒す。
『バードさん、速すぎてわたしたちの出る幕がないわね』
ラミア先輩が苦笑する。
『頼りになるね』
とヘーファル先輩は安心したように言う。
『ボア先輩も同じことできるはずですよ。いまは壁ですけど』
だから特別じゃないと言いたかった。
『そういうのいいから、素直に褒められたら?』
とボア先輩に言われてしまう。
『あ、はい』
べつに素直に受け取らないつもりはなかった。
だけど、ほかの人にはそうは思えなかったのだと気づく。
【コメント】
:お、漫才か?
:ボアバードもありかな
:姉弟っぽいよな
:明るくてしっかり者の姉、どっか抜けてる弟
:言えてる
:姉の友達と頑張って遊ぶシャイな弟
:わかる
コメントを見て、そういう風に見えるのかと驚く。
たしかに姉とその友達と遊ぶって構図かも。
……自分で頭の中で言ってみてあんまり違和感がなくて目を丸くする。
そしてザコ敵を倒して先に行くと、大きな黒い扉が現れた。
『パターン的にボス戦だね』
とボア先輩が言う。
たしかに雰囲気が違うし、ザコ敵も出なくなったからな。
この手のゲームだとこの奥にボスがいるのだろう。
『いよいよなのね。ここまで来れるなんて正直思ってなかったわ』
『びっくりです』
ラミア先輩とヘーファル先輩の言葉はどこか他人事だった。
ゲームをあまりやらないふたりは、手ごたえのようなものを感じづらかったのかな? と思う。
『俺はボスが楽しみですね』
マウントと誤解されたくないので、俺は違うことを言った。
ボス戦にワクワクしているのは事実である。
たぶんボア先輩も同じだと思う。
【コメント】
:ボアちゃんと鳥、それ以外で反応が違いすぎだろw
:鳥は戦闘民族みたいだな
:鳥はそうだろう
:戦うことに特化してる
:ボアちゃんは経験豊富な先輩って感じか?
:ほかふたりの初々しさはないよな
コメントで戦闘民族扱いされていることにそっと苦笑する。
ボア先輩に初々しさがない点には同意だけど。
なんて思っていたらボア先輩が扉を開けて中に入っていく。
続いて中に入るとBGMが一度止まった。
『ボス戦特有のこの感じ、たまらないんだよね』
とボア先輩が興奮を隠しきれない口調で言う。
『わかります』
俺はすかさず同意する。
俺たち四人がステージに乗ると、おどろおどろしいBGMが流れはじめて水色の大きなカエルが現れた。
中ボスが恐竜モデルで、ステージボスがカエル?
なんて疑問に思ったが、野暮だろう。
『最後の戦い、よろしくね』
とラミア先輩が気合いの入った声で言う。
『了解』
それに答える俺たち三人の声は重なり、直後にカエルが咆哮する。
『バードくん、ボス戦はひとりでも生き残れたらクリアになるから、いざってときはよろしくね!』
とボア先輩が言った。
最悪、先輩たちを見捨ててでもボスを倒してしまえって意味かな?
この手のゲームのボスに、壁も回復もなしで勝てるとは思えないけど、一応頭の片隅には入れておこう。
戦うスタイルはいままでと同じで、ボスは攻撃が痛い上に状態異常も使ってくるから回復が忙しい。
【コメント】
:キングフログは状態異常がいやらしい
:ヒーラーの腕がかなり重要
:↑ヘーファルちゃんが気にするよ
:まあボアちゃんがしっかり受けて、ラミアちゃんと鳥が削ればいいんだが
:4人だからな……5人で壁2枚か、6人で壁とヒーラーが2枚は鉄板
:何気に少人数チャレンジやってるからな……だから見てるんだけど
:ラミアちゃんはわからないけど、ボアちゃんはわかっててやってるよね?
:↑間違いない
:鳥はたぶん何も知らずに参加だな…
:鳥ってゲーム関連はしっかりしてるようで、ときどき抜けてるもんね
とりあえずカエルの行動パターンを見ながら、試行錯誤をする。
ブレスのために口を開いた瞬間、攻撃を数回当てると行動キャンセルできることを発見した。
行動キャンセルできると味方がひと息つけるので、俺の主軸にしたほうがいいだろう。
『さすがバードくん、ちょっと楽になるわ』
ボスとの戦闘中にしゃべる余裕があるのはボア先輩だけらしい。
ほかふたりは掛け声みたいなのをときどき出すので精いっぱいだった。
【コメント】
:おいおい、もう行動キャンセルをマスターしたぞ?
:キングフログはブレス阻害を安定してできるかで、攻略難易度変わるんだよなぁ…
:ブレスはダメージデカいし、状態異常がウザいからな
:鳥って下調べしてないんだよな?
:してないだろ? 手さぐり感全開の立ち回りだったじゃん
:鳥さんなら知ってさえいれば、いきなりブレス阻害やって成功させちゃうでしょ
:現にいきなりブレス阻害の行動キャンセル成功させてたもんな
:それもそうか
:サポート火力が重要ってそういう理由があるからなんだが、鳥を見れば一目瞭然
:本当は回復もこなせるほうがいいんだけど、ほかの能力でカバーしまくってる
何とか安定してるので、油断せず押し切って全員で勝てた。
ボスが光のエフェクトに包まれて消え、BGMが明るいものに変わる。
『ウソ……勝てたの?』
ラミア先輩が信じられないと声を漏らす。
『びっくりだね。まさか本当に初見で勝てるなんて』
とボア先輩が言う。
『ボスって強いんだよね?』
ヘーファル先輩がちょっと不思議そうな声を出す。
『強いはずよ?』
とラミア先輩が言った。
『バードくんがブレスキャンセルを安定させてくれたおかげで、メチャクチャ楽だっただけよ。相変わらずとんでもないわね』
ボア先輩がしみじみと語る。
『意外と狙いやすかったですよ』
俺はついうっかり正直に言ってしまった。
頂上戦争で3対1の戦いよりは楽である。
『まあバードくん基準だとそうなんだろうね』
ボア先輩に苦笑された。
【コメント】
:草ァ
:これは笑うしかない
:お前がとんでもねぇことやってんだよ!(定期)
:これ鳥のチャンネルじゃないのに
:ラミアちゃんの枠なんだよなぁ
:先輩の枠を乗っ取る気か、鳥?(笑)
『え、乗っ取りって何で?』
コメントで何言ってんだろうと不思議に思う。
『バードくんの発言、ツッコミどころ多いからね。ツッコミ一色になっちゃうからでしょ』
ボア先輩がすかさず答える。
『たしかにあなたすごい人なのにって言いたくなるわね』
ラミア先輩は笑いを嚙み殺して言う。
『あ、何か、わかる気が』
ヘーファル先輩は遠慮しながらも、ふたりの先輩に同意する。
『そういうものなんですか?』
全然わかんない。
『そういうものよ』
とボア先輩は即答し、
『そろそろ勝利宣言とかやらない?』
と提案する。
『あっ、そうだったわ』
ラミア先輩が素の声を出す。
『完全に忘れてたのね。わからなくないけど』
ボア先輩が笑う。
『バードくん、すごすぎ……インパクトありすぎ、だから』
とヘーファル先輩も言った。
【コメント】
:だよな
:みんなツッコミ入れたくなるバード氏
:持っていかれてたってのはある
:もっと勝てたって盛り上がると思ったんだよなぁ…
:ラミアちゃんがハッスルするの見たかった
:もっと衝撃的なことがあったからな
何やら空気がちょっとおかしい。
先輩のチャンネルだぞって言われたのは、もしかしてこういう理由?
『こほん、それじゃ気を取り直して』
ラミア先輩は咳ばらいをして仕切りなおす。
『とんでもなく強い助っ人のおかげで、無事に勝てたわ。いぇーい』
と明るく言った。
ボア先輩とヘーファル先輩が拍手をはじめたので、俺もふたりのまねをする。
【コメント】
:8888 ご祝儀¥2000
:8888
:グダったのはご愛敬 ¥1000
:おめでとう!
:おめでと。ついにクリアだね
:いやー、長かったよなあ
:感無量だわ ¥1000
コメントもすこし遅れて盛りあがりはじめた。
俺も役に立てたならよかった。
『手伝ってくれた三人、本当にありがとうね』
とラミア先輩が締めのあいさつをして配信は終わる。
「ふーっ」
思わず息を吐き出した。
実はちょっと緊張していたんだけど、何とかなったな。
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