第40話「1期生たちとコラボ②」

 コメントで言われているとおりだが、まだ油断はできない。


 中ボスとの戦闘がはじまっていて、ボア先輩が攻撃を受けてヘーファル先輩が回復している。


 ザコの敵を減らした俺も援護に回ろう。

 練習のときと同じパターンだ。


 ラミア先輩とヘーファル先輩はどうかわからないが、ボア先輩は同じ動きができるはず。


 そのボア先輩が敵意を自分に集め、中ボスを引きつけてくれている。

 非常に重要な働きだ。


【コメント】

:ボアちゃんのヘイト管理が上手い

:さすが

:壁役が上手くないとボス戦は無理ゲー

:壁役以外が殴られたらワンパンで沈みかねないからな

:鳥の火力支援が目立つけど、鳥を活かしてるのはボアちゃん

:そういうことだな



 詳しいゲーマーたちはちゃんとボア先輩のすごさを理解している。

 当然と言えば当然なんだが、やっぱりホッとした。


 チームバトルは俺ひとりの力で何とかできるものじゃないのに、俺だけ持ち上げられるのは心苦しい。


『よっと、ほっ』


 ボア先輩はボスの動きに声を出している。

 

『それっ』


 彼女だけじゃなくて、ラミア先輩も同じだ。

 こうやって声を出したほうがわかりやすいのかな?


 なんていまになって気づいた。

 今度個人配信するときに試してみようかな。


『援護しますー』


 一言かけてから、ラミア先輩の攻撃の間をぬって攻撃を中ボスに当てる。


【コメント】

:鳥、やっぱり上手いな

:ボスの攻撃をいちいち止めてる

:これは仕様なのか?

:ある程度ダメージを受けると、ヘイトが切り替わる仕様だよ

:だからボアちゃん、ラミアちゃん、鳥の三人が切り替わっていくように立ち回ればすごく有利になる

:鳥の攻撃が限定的なのは、↑のループを壊さないためだろう

:なるほど、そういうことだったのか!

:鳥にしては慎重な攻撃だと思ってたんだよな……

:鳥が攻撃しすぎるとボアちゃんがヘイト集められなくなって、戦線崩壊するぞ

:鳥のおかげでときどきボスの動きがとまるから、ヘーファルちゃんにも余裕がある

:こうして見るとサポート火力ってマジで大事なんだな



 コメントの詳しい人たちのおかげで、俺やボア先輩が解説することがない。

 とどめの攻撃をしたのはラミア先輩だった。


『やった! ……ついに勝てたわ!』


 ラミア先輩の喜びはハンパない。

 絶叫するんじゃなくて、感極まって声が震えてるのが伝わってくる。


【コメント】

:おめでとう

:おめでとう

:とうとうやり遂げた

:俺らも感慨深い

:ずっと見てたもんな

:10連敗までは覚えてるが、そっからは数えてない

:鳥、さりげなくとどめをラミアちゃんに譲ってたのが憎い

:あれ、タイミング的には鳥さんが倒せてたね

:え、そうだったんだ

:かなりデキる男、バード・スカイムーブ

:ほんと、対人能力以外はつよつよだな



 さりげなくやったつもりだったが、視聴者の中に気づいた人がいるみたいだ。


『バードくんの心憎い働き、気づいた人いるんだねー』


 ボア先輩が感心したように言う。

 この人は気づいただろうなと思ってた。


『えっ? そうだったの?』


『び、びっくりです。あんな大変だったのに』


 気づいてなかったふたりが驚きをつぶやく。


『バレちゃったか。黙っていようと思ってたのに』


 観念して俺は言った。


『黙って支える縁の下の力持ちだね。しぶカッコイイ!』


 とボア先輩が声をはずませる。

 ゲームでハイになってるのか、俺をからかって楽しんでるのか。


 あるいは両方かもしれない。


【コメント】

:鳥は自分がメインじゃない役回りもできるのか

:たしかに渋い働きができるのはカッコイイ

:縁の下の力持ちでもできるのはえらい

:攻撃を受け切った壁役なボアちゃんも功労者

:だな、ふたりともМVP



『うん、ボア先輩もМVPだよね』


 と俺は納得する。

 彼女のすばらしさをわかる人たちがいるのは見ていて気持ちいい。


 わかってるなと言うとえらそうに聞こえるかな?

 声には出さないでおこう。


『一番すごかった人が何か言ってる』


 とボア先輩が笑う。


『いやみに聞こえないのがかえってすごいわ』


 ラミア先輩は何やら感心する。


『バードさん、すごいなぁ』


 とヘーファル先輩の声が聞こえるが、スルーしよう。


【コメント】

:鳥ってこういうキャラクターなのか?

:そうだよ

:自己評価低め、他人の評価高め



『さて、じゃあせっかくだからボス戦まで行ってみようか?』


 とボア先輩が状況を戻す。


『そのとおりだわ。気を引き締めていきましょう』


 とラミア先輩が賛成する。


『う、うん』


 ヘーファル先輩が小さくうなずく。


『まあバードくんはそもそも油断してないと思うけどね?』


 ボア先輩の言葉に驚いた。


『たしかにしてないですね』


 気を抜いてないだけなんだけど、否定することでもないだろう。


『さすが。バードさん、指揮官に向いてそうね』


 とラミア先輩が言う。

 このゲーム、声に出して連携をとりあう感じじゃないんだよな。


 すくなくとも先輩たちはやってない。

 だから指揮官も何もないと思うんだが。


『このゲームってそういう要素ありましたっけ?』


『やろうと思えばできるよ』


 俺の疑問に答えたのはボア先輩だった。


『ただわたしたちには向いてないんだよね。ひとつの役割に専念してもらうほうがいいから』


 と彼女は続ける。


『ああ、なるほど。そういうことですか』


 言われてみればラミア先輩とヘーファル先輩はかぎられた行動パターンしか持っていないようだった。


 ラミア先輩は体力の低い敵から狙う、ヘーファル先輩はHPが低いキャラクターを最優先で回復する。


『ワタシたちはそこまでゲームをやり込んでないのよね。ボアちゃんから指示が来ても、従えるからわからないわ』


 ラミア先輩が優しく説明した。


『ごめんなさい。そこまで気が回りませんでした』


 謝っておこう。

 ゲームをやり込んでいる人間基準で考えちゃいけなかったのだ。


【コメント】

:ボアちゃん以外はそこまでゲーマーじゃないから

:ラミアちゃんのつき合いで頑張ってたヘーファルちゃんはとくに

:謝れるのはえらい

:素直に頭を下げる鳥はえらい

:謝るほどのことじゃない気がするが、それでもごめん言えるのはえらい

:謝れないヤツ、意外といるからな…



『謝ることじゃないわよ。バードさん、素敵な人ね』


『すぐに謝れるのは、とても立派……』


 謝ったのにラミア先輩とヘーファル先輩に褒められるっていう、意味のわからない展開がはじまって困惑する。


 こういうときどう反応すればいいんだろう?


『はいはい! 今度こそゲームに戻るわよ!』


 とボア先輩が声を張り上げる。

 助け舟を出したもらえた、という気持ちが強い。


 おしゃべりに集中してゲームの手が止まってはいたんだけど。


『そうね、ごめんなさい』


『うっかり……』


『了解です』


 ラミア先輩、ヘーファル先輩、俺の順で返事をして今度こそゲームに戻る。


【コメント】

:草

:笑った

:雑談聞いてるの楽しいからべつにいいのに

:女の子たちがわちゃわちゃしてるのいいよね

:ひとり女の子じゃないやついるけどな

:空気を読んで黙ってるのはえらい



 何か俺の評価がよくわからない形で上がった。

 ボア先輩たちが移動しはじめたので、俺もあとに続く。

 

 それなりに歩いて再びザコ敵と遭遇するようになったので、俺の出番だ。

 中ボスを倒したあとの敵は中ボス並みに強くなる──ということはない。


『敵の種類かわるのね。知らなかったわ』


 とラミア先輩が言う。

 感慨深い言葉をコメントでも感じ取ったのだろう。


【コメント】

:いままでずっと勝てなかったもんな

:鳥さんのおかげで見られた景色

:期待どおりの戦力だったな

:この調子だとボス戦も期待できるんじゃないか?

:いや、無理だろ。3面のボスは5人いないと地獄のはず…

:あっ



 コメント見るかぎり、マップボスかなり強いのか?

 

『そういや俺、マップボスの予習はしてないんですよね』


『……頼んでおくべきだったわね』


 俺が話しかけるとボア先輩がしまったという声を出す。

 彼女の反応見るとやっぱり強いのか。


『まあ念願だったところはクリアできたので、負けても仕方ないわ』


 とラミア先輩が明るい声で言う。


『じゃあ今日はボスと戦うのを目標にしましょうか』


 とボア先輩が彼女に聞く。


『異議なし』


 ラミア先輩は即答する。


『が、がんばる』


 ヘーファル先輩は弱気ながらも同意した。

 単純にNOが言えないだけかもだけど、それでもつき合いがいいのは変わらない。


『俺も異議なしです』


 と最後に言う。

 手ごわいとうわさのボス、見てみたいからちょうどいい。


『強いボス、初見攻略できたら最高ですしね』


 一言つけ加える。


【コメント】

:発想が戦闘民族だな

:そりゃこれだけのゲーマーなら、強いボスは歓迎だろう

:ゲーム上手くなるのはだいたいそういうヤツ

:戦闘民族だけに先頭に立てばいいのに

:↑つっこまないよ

:スルーしようぜ

:(泣いた)

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