第39話「1期生たちとコラボ」

 放送されるのはラミア先輩の枠で、前日には告知された。


 そして猫島さんからの連絡が来て、ピスケスの人と二度目のコラボはゴールデンウィーク明けになるらしい。


 たぶん勉強会を優先してほしいって意味だろう。


『え、今度は1期生全員と!?』


『ガンガン進んでいきますね、応援してます』


 1期生三人とのコラボはこんな風に好意的な反応が多かった。

 一方で1期生のファンたちの反応はと言うと、


『ああ、あのインチキじみた強さの後輩か』


『ラミアちゃん、ずっと同じ面で負けてるからな……』


『3人じゃきついってようやく気づいて助っ人呼んだか』


『ボアちゃんとコラボしてたやつだろ? ウデは期待できるな』


 みたいな感じで淡々と受け入れられている。

 ラミア先輩が同じ面で苦労してるを知ってるからこそ、だろうか。


 俺のせいで先輩たちに迷惑かからないならよかった。

 かかりそうなら事務所が許可を出さないか。

 

「俺って自分に自信が持ててないのかなぁ?」


 と声に出してみる。

 そんな感じのことは何回も言われたように思う。


 ゲームのウデは褒められているので、もうちょっと自分を評価してもいいかもしれないということだけは、かろうじてわかるかも。


 それ以外はよくわからない。

 勉強だって苦手だもんな。


 ありのままの俺を受け入れてもらえてる人たちがいるだけ──というのが俺の認識だ。


 だからこそ大事にしたいなと思う。

 ……考えてもよくわかんないことを考え続けても無駄かも。


 どうせなら勉強会の準備したり、ゲームの練習に時間を費やそう。

 そっちのほうが結果がわかりやすくて、モチベーションも維持しやすい。


 

 そして配信時間本番がやってきた。


『こんミアー。みんな、コラボ告知は見てくれた?』


 とラミア先輩がファンの『ラミフレ』に呼びかける。


【コメント】

:こんミアー。見たよ。楽しみ

:こんミアー。ついに助っ人が来るのか

:朗報

:ボアちゃんひとりじゃ支え切れてなかったからな…

:ラミアちゃんもヘーファルちゃんも下手じゃないんだけどマップ難易度がね

:鳥の後輩、メチャクチャ上手いみたいだし期待できる



『そうなのよ。ボアちゃんといっしょにゲームやってるのワタシも見たけど、超上手かったわよね。あんな上手な人がいるのかってびっくりしちゃった』


 とラミア先輩が語る。


『それじゃあみんなを呼んでいくわよ』


『こんボアー。今日こそ勝つよ! 今日はバードくんが来てくれるから、今度こそきっと大丈夫!』


 最初に呼ばれてあいさつしたのはボア先輩だった。


『こ、こんばんは。今日も精いっぱい頑張ります』


 気弱な感じでヘーファル先輩があいさつをする。


 ほかふたりの先輩と比べると声量は抑えめだけど、呼吸はばっちりだから聞こえづらいということはなかった。


『こんばんは。ヘーファル先輩を見習って精いっぱい頑張ります』


 と俺は最後にあいさつする。


『はーい。飛び切り頼もしい助っ人のバードくんよ。彼がいるならきっとボス戦まで行けるわ』


 ラミア先輩が明るく俺を紹介した。


『自信はないですが、できるかぎりのことはしたいです』


 と答える。

 練習でいい感じだったとか言えないもんな。


【コメント】

:ほんと、自信がなさそうだな…

:あれだけ強いのにね

:そのギャップが最高にいい

:この男、ゲームさせたらつよつよってマジ?

:↑マジなんだよなぁ

:進む道間違ってるんじゃないか? と本気で思うレベルで強いよ

:美女3人に男1人なのに普通に受け入れられてて草



 俺のコメントはちゃんと自信なさそうに伝わったらしく、視聴者たちにネタにされている。


 いま自信がなかったのは演技力のほうだったんだが、これなら大丈夫そうだ。


『まー、アレだね。バードくんが参加したのにダメだったら、これはもうラミアちゃんに諦めてもらうしかないよね! アハハ』


 ボア先輩がケラケラ笑いながら、明るく言い切る。


『そ、そうね。いつまでもつき合ってもらい続けるわけにもいかないのだし。今日ダメだったら、配信でやるのは諦めるわ』


 とラミア先輩は言った。


【コメント】

:え、マジで?

:あれだけ頑固だったラミアちゃんが説得に応じた?

:いままでかたくなに拒否してたのに…

:まさかラミアちゃんが意地っ張りじゃなくなるなんて


 コメント欄でざわめきが起こっている。

 よほど意外だったらしい。


 ラミア先輩、そんなに意地を張っていたのか。


『ワタシも思わずビビって絶句しちゃったけど、ラミフレのみんなも驚いてるよね』


 明るくておしゃべり好きなボア先輩が声を失うレベルだったんだな。

 

『まー、気持ちはわかるかな。今日の助っ人はそれだけ強大な戦力だってね!』


 とボア先輩がニヤッと笑う。

 まさかと思うけど、この人俺のハードルをあげるのを楽しんでるんじゃないか?


【コメント】

:これは後輩の期待値を爆ageする鬼の所業

:ボアちゃんは陽キャ系悪魔かな?

:草

:これは草

:いや、でもこの鳥はマジでヤバいから…


 

 ボア先輩の悪女ムーブが話題になっている。

 正直、まったく同意見で「そこまでやる?」と先輩に言いたい。


 ここで言う勇気はないけど。


『でもバードさん、とんでもなく強そうだから……期待しちゃうのはわかります』


 あれ? ヘーファル先輩?

 まさかここでボア先輩の肩を持つような発言をするなんて。


 ラミア先輩ならまだしも、この人が言うのは意外すぎる。


『あら、ヘーファルちゃんがそんなことを言うなんて』


 俺だけじゃなくてラミア先輩も意外だったようで、驚いた声を出す。


『驚きねー』


 なんてボア先輩も言っている。


【コメント】

:たしかに意外

:ヘーファルちゃんそんなにゲーム詳しくないよね

:まあ鳥のウデは素人目から見てもやばいから

:レベルの違いがわかりやすいってのはそのとおりか

:鳥さんが別格すぎると思うのはわからなくもない



 コメントでも意外だという意見が目立つ。

 うん、ヘーファル先輩に関しては俺のイメージどおりの人だと思ってよさそう。


 もちろんみんな驚かされたくらいだから、それだけじゃないんだろうけど。


『話を戻してさっそくゲームにとりかかるわ! 今日こそ勝つんだもの』

 

 とラミア先輩が大きめの声で言う。

 配信中なんだからいつまで雑談しているわけにもいかないよな。


 俺たちはゲームを起動して、ラミア先輩が作ったルームに入る。

 もちろん先輩はプレイ動画の撮影準備しているだろう。


『じゃあ行くわよ』


 ラミア先輩の号令で戦闘開始だ。


【コメント】

:ワクワク

:どうなるか楽しみだな

:鬼門の中ボスは超えられるのか?

:鳥がサポート火力やるみたいだから、鳥の火力次第だな

:鳥さんが雑魚ラッシュをひとりで処理できるとかなり楽になるよね

:逆に鳥が機能しないと苦しくなるな


 

 コメントの言うとおりだと思う。

 このマップをクリアするためには俺の働きが必要不可欠だ。


 まあ予習した感じだとボス戦まで問題なくいけそうだったが。


『おっと』


『あらっ』


『あっ』


 ボア先輩は余裕ありそうに、ラミア先輩は楽しそうに、ヘーファル先輩はあわてながら、無難に敵と戦っていく。


 三人もの女性の声が聞こえてきて華があると思う。

 俺はもともとあんまり声を出すほうじゃない。


 それにいまは三人もいるんだから、上手くもない実況はいらないだろう。


【コメント】

:後輩、普通にメッチャ上手い

:フレンドリーファイアないと言っても、一発も味方に当ててないな

:後方からの遠距離支援火力、乱戦だと味方が軌道に入るのが普通なのに…

:強いのもわかる、上手いのもわかる、味方に当てないのがわからない

:↑同感だわ

:こそ練でもしたのか?

:すくなくとも鳥がこのゲーム初心者じゃないことだけは確定

:いくら鳥さんでも初めてのプレイでこんなやばい立ち回りは無理だろうね


 

 こっそり練習してたのはバレたか。

 まあ先輩たちとの合同練習も、バレてはいけないわけじゃないからいいか。


 誰も今回のプレイが「ぶっつけ本番」とは一言も言ってない。

 ウソをつくのはよくないと事務所サイドの判断だ。


 まあ人気が出たあとで実はウソをついてたってバレるのはヤバい。

 それくらいは俺も理解できる。


『そろそろいつものところだわ』


 とラミア先輩がちょっと憂うつそうに言う。


『毎回ここで全滅してるもんね』


 ボア先輩はいつもどおり明るい声なのは、俺との練習で成功したからだろう。


【コメント】

:ここまで余裕だったな

:これはいけるんじゃないか?

:安定感が段違いになっているからな



 視聴者は彼女らしいと思っているのか、とくに疑問に思ってないようだ。

 そして例の中ボス戦がはじまる。


 練習でやったことを再現すれば大丈夫だろう。

 先輩たちも今回こそはと意気込んでいて、同じことをやっている。


【コメント】

:バードの火力がやばくね?

:ごりごりザコ敵処理してるじゃん

:今回は安心して見てられる

:鳥が強いのか、単純にメンツが足りてなかったのか

:↑両方だろ? 上手い奴じゃなかったら意味ないし

:そうだな。上手くないと回復の負担が増えるだけだな

:この人選は正解だった



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