第37話「GWに向けて打ち合わせ②」

マネージャー[コラボ内容ですが時間は30分でゲームを予定しています。ラミアさんがハマっているゲームがチーム戦なのですが、1人助っ人を呼ぶというのが企画のコンセプトになります]


 猫島さんの説明になるほどと思う。

 ゲームの助っ人という形なら俺は参加しやすい。


 正直こういう形での参加は予想できていた。


[了解です。俺が助っ人ってことはアクションかシューティングか、そういうジャンルでいいんですよね?]


 パーティーゲーム、ボードゲームのたぐいは弱いってすでに知られているはずだ。


マネージャー[ええ。チーム戦のシューティングゲームです]

[それなら戦力になれますね]


 せっかくコラボに呼ばれたのに、先輩たちの足を引っ張る展開はできるだけ避けたい。


マネージャー[ボアさんが期待してるとのことです。問題は日程ですね。勉強も大切ですし。月音さんと相談してみます]


 月音さんってあの美人のお姉さんか。

 いや、モルモ以外はみんな美人のお姉さんだな。


 日程や勉強の大切さを言われると弱い。

 勉強って何のためにすればいいのか、わからなかったんだよなぁ。

 

[てことはしばらく個別配信ってことでしょうか?]

マネージャー[そうですね。まだ案件も来てないですし。ただ、ラチカさんサイドがもう一度コラボを希望してきているので、それがどうなることか……]


 ふぁっ!?

 猫島さんの返事に思わず変な声が出そうになった。


 ひとりでのんびり配信かと思ったらそうはいかないらしい。

 ラチカさんって業界トップクラスの人なんだよな。


 本人は明るくてフレンドリーで話しやすかったけど、それだけに人気があるということがよくわかった。


[もう一回っていいんですか?]

マネージャー[大きな声で言えないのですが、同箱コラボよりもバードくんとのコラボのほうが反響あったみたいで]


 猫島さんの返事はすぐには信じられなかった。

 同箱ってつまりピスケス所属のVのことだろう。


 人気配信者多いのに、俺とのコラボのほうがいい結果が出たなんて。


[珍しかっただけなのでは?]

マネージャー[可能性は否定できませんが、バードくんはもうちょっと自己評価高くてもいいですよ]


 率直な気持ちを問いかけたら、苦笑してるのが伝わってくる文面が返ってくる。

 いや、自分が他の人にどう思われてるかなんて全然わかんないし。


 とりあえず同期や先輩たちにきらわれてはなさそうだなってくらい?

 ……いくら何でも後ろ向きすぎるかな?


[他人からどう思わてるかなんて、正直よくわからないです]


 猫島さんはマネージャーだし、頼りになる人だから言ってしまってもいいだろう。

 Vとして活動していく以上、俺の性格や考えも知ってもらいたいし。


マネージャー[いきなりやれとは言いませんよ。わたしがついていますし。何でも相談していきましょう]


 猫島さんの回答にホッとする。

 この人に担当してもらえてよかったなと思う。

 

[よろしくお願いします。とりあえず勉強したほうがいいですかね?]

マネージャー[真面目ですね。何にせよやる気を出してもらえたのはありがたいです。現状を把握するだけでも教えやすさは違うと思いますよ]


 そういうものなのか。

 何がどこまでできないのか、自分で把握するくらいはやろう。


 せっかく教えてもらえることになったんだから。

 ひとまずすべての教科書を見てみて、わからないところをピックアップする。


 そしてグループチャットで報告した。


モルモ[赤点ギリギリって言ってたもんね……了解]

ラビ[わたしは念のため解き方を思い出しておきますね]


 ふたりは優しく受け止めてくれる。

 本当にありがたい。


[何かお返しできたらいいんだけど]


 だからこうチャットを打ち込まずにはいられなかった。

 お世話になりっぱしじゃいやなんだ。

 

 俺だって何かふたりの役に立ってみたい。


ラビ[え、すでにわたしたちはもらっていますよ?]

モルモ[バードとコラボできたおかげでわたしたちの登録者数のびたし、外を歩くとき男性からガードしてもらってるからね]


 えっ、そうだったのか?


ラビ[わたしたちこそバードくんにたくさんお返しをしたいので、失礼ですけれど勉強会はいいチャンスですね]


[そんな風に考えたことなかったですね]

モルモ[そこがバードのいいところね。本当に気づいてなかったのが、手に取るようにわかるわ]


 ……モルモが何となくあきれてるか、苦笑しているのも予想はできる。


[まあもらいっぱなしになってないならよかった]

ラビ[大丈夫ですよー。ちょっとでもお返しさせてください]

モルモ[そうだよ。頑張って返済させて!]


 ふたりからお返しをしたいと言われて悪い気はしなかった。


 もしかしたら勉強を見てもらうことを気にするなって意味なのかもしれない。

 だが、受け取り拒否はしたくなかった。


[じゃあお言葉に甘えます]


 ちょっと気が楽になったのは否定できない。


マネージャー[では今日はここまでにしましょう。お疲れ様でした]


 打ち合わせは終わってホッとした。



 晩ご飯までのんびりしよう。

 ひとりで勉強してもはかどらないだろう。


 猫島さんから教わった先輩たちがやってるゲームを調べる。

 事務所から貸し出された据え置き機の通信対戦で遊べるようだ。


 時間はあるから練習しよう。

 今日は夜の配信しなくても大丈夫だろうから。


 ゲームは四人で敵を倒しながら進んでいく仕様で、どのマップを全滅することなくどこまで進めるか、挑戦できるタイプらしい。


 ラミア先輩がそれにハマったのか。


 オンライン上でプレイデータをアップしたりして、競争意識が煽られるシステムになっているらしい。


 何度もプレイしていると、支給されたスマホが震えた。

 キリがいいところでゲームをやめて、画面をチェックする。


マネージャー[コラボ予定は4月29日に決まりました。それに合わせて1期生とグループ交流もお願いすることになりました]


 予想どおり猫島さんからだったけど、決まるの早すぎじゃないか?

 普通こんなすぐ決まるものなんだろうか?


 ちょっと疑問に思いながらスマホを触る。


ボア[バードくん、よろしくー!]

ラミア[バードさん、活躍はかねがねよろしくお願いするわね?]

ヘーファル[よ、よろしくです]


 三人の先輩たちからそれぞれメッセージがさっそく届く。

 知らない女性がふたりも増えてちょっと、いやかなり緊張する。


 知らず知らずのうちに手が汗ばんでいた。


[とりあえずちょっと予習してみて、雰囲気はつかめたと思います]

ボア[おー、さすがだね]

ラミア[まじめな殿方ね。頼りにさせてもらうわ]


 先輩たちからはちょっと驚きが見られる。


[コラボが29日なら、10日くらいは練習する時間があるので何とかなると思います]


 プレイしてみた感じ、俺が苦手なジャンルじゃなかった。

 仲間との協力も重要になってくるから、慢心はできないけど。


ヘーファル[すごく熱心ですね]

ボア[まあこれくらいじゃないと上手くならないって!]


 ヘーファル先輩は感心してるのか、意外なのかという反応だ。

 それに対するボア先輩が「さすがわかってる」と言いたくなる返しをしている。


ラミア[そんなに堅苦しくなくてもと思っていたけど、水を差したら悪いわね]

月音[バードさんはかなりの実力者ですし、拡散も期待できますね]


 マネージャーの月音さんまで……なんてすこし思った。

 信頼の証だと思えば悪い気はしないけど。


ボア[打ち合わせって言っても、正直あんまり話すことないよね?]

ラミア[大事なのは顔合わせと交流でしょう。相手の人となりがわかれば多少はやりやすくなるわ。とくにヘーファルさんはね]


ヘーファル[う、がんばります]


 ヘーファル先輩はちょっとおどおどしてるというか、弱気な感じがする。


[俺も対人は得意じゃなくて。コミュ障なので]


 気にしないでほしいとヘーファル先輩に伝えた。


ボア[バードくんは言うほどコミュ障じゃないと思うけどな~]

ラミア[わかる。気遣いと遠慮が上手なだけじゃない?]


 ボア先輩とラミア先輩の答えが優しい。

 たしかに遠慮はすると思うけど、みんなそうなんじゃないだろうか?


ヘーファル[バードさんはだいじょぶな人な気がしてます……]


 ヘーファル先輩にまで言われてしまった。

 うーん、そうなんだろうか?


 だんだんと自信がなくなってきたかもしれない。


ボア[話は変わるんだけど、バードくんゴールデンウィークの予定は入ってる?]

 

 ボア先輩が急に質問してくる。


[はい。実は勉強会をがんばろうということになりまして]

ボア[あー、そう言えばバードくん学生だったね。高校生だっけ?]

ラミア[高校生……なつかしいわね]


 先輩たちはやっぱり年上なんだろうな。

 猫島さんが高校生Vはけっこう珍しいって言ってた気がする。


ボア[昼は勉強会として、夜ならできるんじゃない?]

ラミア[ぐいぐい行くわね。でも、できたとしてもおかしくないわね]


 ラミア先輩はボア先輩の発言に驚きながらも止める気はないらしい。


[それなんですが、夜は復習を頑張ってみようかなと思ってて。せっかく教えてもらうんだから、それっきりしたら悪いなと]


 俺は自分の気持ちを伝える。

 ラビさんもモルモも俺のために時間を使ってくれるんだ。


 だったら俺もその気持ちに応える努力をしたい。

 上手くいくかわからないけど。


ボア[そっかー。それじゃ仕方ないね]

ラミア[バードさん、なんてできた殿方なの……]

ヘーファル[その考え方、とっても素敵ですね]


 三人の先輩たちはそれぞれの表現で認めてくれる。

 ラミア先輩とヘーファル先輩はちょっと持ち上げすぎだと思う。

 

月音[本来は1回だけで終わらずに定期的にコラボしていただきたいのですが、バードさんには学業を優先していただきたいというのが事務所の方針ですね]


 ずっと黙っていたマネージャーの月音さんがここで話に加わる。


月音[もっともバードさん以外の2期生とのコラボも予定しているので、1期生のみなさんもそちらを考えていただきたく思います]


 彼女は猫島さん以上に真面目な人って印象だ。


ボア[そうでしたね。あたしはバードくんほどじゃないけどゲーム以外、絡みづらいんですけどね]


ラミア[占い配信でもしてみようかしら]

ヘーファル[不安、です]


 三人の反応はバラバラだが、俺が口出せる話題じゃなくなったな。

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