第34話「同期たちとオフコラボ③」

 ラビさんの次は俺だ。

 知っているのはアニメソングくらいなので、有名どころを選ぶ。


【コメント】

:あー、これか

:オタクならたいがい知ってる有名どころだな

:チョイスは悪くない

:歌わない人ならこれしか知らないパターンもある


 モルモにコメントを見せてもらうと、反応は悪くなかった。

 単に知ってる曲がすくないってだけなんだが。


 とあるコメントが正しい。


「~~~♪♪♪」


 歌ってみるが、明らかにふたりと比べたら劣っている。

 指摘されなくても自分が一番よくわかった。


 だけど、ふたりは笑顔で手拍子してくれるので引っ込められない。

 頑張って歌い切ろう。



【コメント】

:音痴ではないな

:音程とれてないし、声も張れてないけど、慣れてないだけって感じ

:練習すれば上達できるでしょ

:大事なのは他のふたりと比べないこと



 歌い終わってコメント見たら、意外と優しかった。


『下手でごめんな。ふたりくらい上手かったらなと思うんだが』


 と言うと、


『え? 下手じゃないでしょ? 練習不足だとは思ったけど』


 とモルモが即答する。


【コメント】

:そうそう、練習不足だな

:鳥が自分で思ってるほどひどくはないよ

:数をこなせばマシになっていくよ

:ゲームといっしょだ、数をこなせ


 優しいはげましが飛んでくる。

 練習不足? そうなのか?


 疑問に思いながら、チラッとラビさんを見る。


『はい。練習すれば大丈夫ですよ。いい機会だから、練習しませんか?』


 と彼女は微笑みながら言う。


『……いいのかな?』


 練習すれば上達するとみんなに言われるのと、ちょっとや挑戦してみたくなる。

 ゲームと同じという意見を目にしたのも大きい。


『いいわよ? せっかくやるんだし、楽しく挑戦するくらいでちょうどいいんじゃない?』


 とモルモにも言われる。


『じゃあやってみようかな。ダメでもともとのつもりで』


 と俺は言った。

 周囲が優しくても、いきなり上達できるとは思わない。


 だからちょっと腰が引けたような言い方になってしまう。


『それでいいと思いますよ?』


『うんうん』


 ラビさんとモルモが優しく受け入れてくれる。


【コメント】

:苦手だとわかってるのに挑戦する鳥えらいな

:鳥さんえらい

:すごい!

:俺だったらやろうとは思わない……

:上手いふたりといっしょだと公開処刑に近いもんな

:勇敢というか、度胸と根性があるよな

:これが鳥と俺らの違いか

:ゲームがあれだけ上手いのも納得した。強くなれるはずだわ



『何でか知らないけど、驚いている人が多いな?』


 と俺は首をひねる。

 ヘタクソは引っ込んでろ、的なことを言われてるわけじゃないことはわかった。


『バードの向上心に感心してるんじゃない? いまの自分を受け入れて前に進む男のの子ってカッコいいわよね』


『ガッツもありますよね。素敵だと思います』


 モルモもラビさんもびっくりするくらい褒めてくれる。


【コメント】

:わかる、バードさんカッコイイよ♡

:くっ、俺は何を見せられてるんだ…

:モヤッとするが、バードのすごさを実感したところなのがな

:悔しい、でも何も言えない



 コメントでは何やら複雑そうな意見が出ていた。


『次はまたモルモだよな?』


 と俺は話しかける。

 俺が最後ってことで一周したはずだよな。


『ええ。じゃあ行くわよ!』

 

 と言ってモルモはマイクを受け取り、またテンポのいい曲を選んで歌う。

 みんなが楽しくなるような曲が好きなのかな?


 いや、モルモのことだから、視聴者たちを楽しませるための選択って可能性は大いにあるな。


 ラビさんとふたりで手拍子しつつ、盛り上がってるコメントを横目で見ながら思った。


「ふー」


 笑顔で歌え終えてマイクを置くモルモに、ラビさんとふたりで拍手を送る。


『モルモちゃん、すごく上手ですよね』


 ラビさんは心の底から言っているのだろう。

 まったく同感だ。


『本当だよ。歌手目指さないのか? って聞きたくなる』


 と俺は言う。

 自分もプロゲーマーうんぬんと言われているので、軽い気持ちだった。


【コメント】

:わかる

:モルモちゃんならなれると思う

:目指すなら応援するよ

:ファンのひいき目かもだけど、いい線いけると思う



 コメントでも俺に同意する人が次々に集まっている。


『残念ながらプロの世界は甘くないと思うのよね。わたしくらい上手い子は何人もいるし』


 とモルモは微苦笑を浮かべて答えた。


『そっか』


 まあ厳しい世界なのだろうということくらいは想像できる。

 本人にその気がないのに無理にすすめることでもないだろう。


『モルモちゃんがどの道を進んでも、応援しますよー』


 とラビさんがほんわかと言う。

 さっき進路相談されていたからだろうか?


 なおかつそれを知らない視聴者たちには気づかれないような上手な言い回しだ。


『俺も。俺の応援が役に立つかは、わからないけどな』


 便乗してエールを送る。

 後半はべつに自虐したつもりはない。


 年上ですごい大学に通ってるラビさんに比べて、俺が助言を送れるような知識を持ってないというのは事実だ。


『大丈夫よ。応援してくれる人たちがいるってだけで、とても心強いから』


 と答えるモルモは天使のようだった。

 天使がふたりになったのかな? なんて場の空気を読まない考えが頭をよぎる。


【コメント】

:俺たちだってついてるよ!

:もちろんモルモちゃんの味方だよ!

:応援するくらいしかできないかもだけど、いくらでも応援するよ!



『みんな、ありがとう。後悔しなくてもいいような道を選ぶつもり!』


 モルモはウーロン茶を飲んで、マイクを握って元気に言った。

 そしてラビさんに渡す。


『わたしはお話を聞くくらいしかできないと思いますが、モルモちゃんもバードくんも応援しますね』


 と彼女は言って歌に戻る。

 いまの流れで普通に歌って、雰囲気を戻せるって強いと言うしかない。


 ラビさんってほんわかした癒し系だけど、ふしぎなパワーを持ってる気がする。


 俺の順番が来たのでまたアニメソングを歌う。


『~~~♪♪♪』


【コメント】

:有名曲だな

:こういうのしか知らない疑惑

:まあ誰も知らない曲を歌うよりかは……

:配慮ができるということだね

:コミュ障と言ってる割に配慮はできる模様



 何とか歌い終わった。

 充実感よりは解放された感じのほうが強い。


 ふたりは拍手をしてくれてありがたい。


『ちょっと休憩したくなってきた』


 思わず弱気なことを言ってしまう。


『いいんじゃない? ちょっと休憩しようか』


『あと2枠ありますもんね。休むのも大切です』


 モルモもラビさんもいやな顔をせず、賛成してくれる。


【コメント】

:まだ2巡目なのに休憩は草

:さすがにちょっと早くない?

:バードは慣れてないんだよ、察してやれ

:慣れないことでも頑張っててえらい

:鳥さんおつかれー



 コメントでも大半が理解あるコメントだ。

 あたたかい視聴者で、本当にありがたい。


『飲み物飲んでなかった』


 とあわててウーロン茶を飲む。


【コメント】

:草

:水分補給は大切だよ

:そりゃ疲れるわ



 何だかコントみたいになってしまったけど、コメントが好意的だからいいのかな?

 モルモとラビさんをチラッと見ても、ふたりとも微笑んでいる。


 彼女たちの表情を見るかぎり大丈夫だろう。

 さてどうしようと思っていると、


『時間ができたし質問グミを片付けようかな』


 とモルモが言う。

 質問グミってなんだっけ?


 ふしぎそうな顔をラビさんに向けると、彼女はそっと体を寄せてくる。

 バニラ系のいい匂いがしてドキッとしたが、


「匿名で質問を送れるサービスですよ。もしかしてやってないのですか?」


 と小声で聞かれた。

 知らなかったので小さくうなずく。


「じゃあモルモちゃんとわたしのを見て覚えてくださいね」


 と言われたのでもう一度首を縦にふる。


『好きなパスタとラーメンはどっち派? ラーメンかな。わたし、太りにくいからね。どう? うらやましい?』


 モルモは小悪魔めいた表情で、挑発するような言い方をした。


【コメント】

:くう、うらやましい

:体重計が気になるんだよなあ

:小悪魔ボイスたすかる

:ごほうびです

:この煽りがいいんだよな



 視聴者たちは怒るどころか喜んでいる。

 可愛い女の子に可愛い声で煽られるのが好きな人たちなんだろうか。


 ラビさんをちらっと見ると、慈愛に満ちた微笑が返ってくる。

 

『じゃあ次はラビさん行くね。バード、たしか質問グミ開設してなかったもんね』


 とモルモは知っているよ、という表情で俺を見た。


【コメント】

:たしかに鳥のグミ、見たことがない

:作ってなかったのか……

:はじめて1週間くらいたってんだから作れよ

:鳥さんに質問を送りたいんですけど??



 コメントで普通にいじられている。


『ごめんなさーい』


 明るく謝った。

 何となくだけど、真剣な謝罪を求められているわけじゃないと思ったからだ。


【コメント】

:許す

:開設してくれたら許す

:歌を聞かせてくれたら許す

:ソロ配信してくれるなら許す



 条件ついてるけど、ご愛敬だ。

『みんな許してくれてありがとう』


 と俺は話しかける。


『さすがバードくん、みなさんに愛されていますね』


 なんてラビさんは言う。

 みんなが優しいからで、思いあがらないように気をつけなきゃと俺は思う。


 これは自分でわかっていればいいことだから、声に出さなくていいかな。


『いつも何時間くらい寝ていますか? 8時間くらいですね。わたし、寝ないとダメな体質みたいなんです』


 ラビさんはちょっと恥ずかしそうに言う。

 天使や女神って言われる美人なのに、こういう表情は可愛いからちょっとずるい。


『わたしは7時間くらいかなー。バードは?』


 モルモは話に入って、俺にふってくれる。


『5、6時間かな。ずっとゲームしてる』


 答えないのは失礼だと思って正直に話す。


『……だから強いんだね』


『バードくん、とてつもなく上手ですもんねー。それだけ積み上げてきたものがあるんでしょうね』


 ふたりは納得したようだった。


【コメント】

:やばい

:もっと寝たほうがいいと思うけど、でも成果は出てる

:あの強さでマネタイズもできてるんだしな

:ある意味、ちゃんとした人生設計の結果は出してる

:結果が出てるんなら、なおさら睡眠時間とったほうがいいのでは?

:それはそう



『もうちょっと寝たほうがいいのか。たしかに眠いと集中力は落ちるしな。よし、増やしてみよう』


 と言う。


『素直か』


『素直ですね』


 モルモとラビさんはそろって笑い声を立てる。

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