第33話「同期たちとオフコラボ②」

 ご飯を食べ終えた俺たちは、すこし休んでから予定通りカラオケにやってきた。

 ここでも桂花が活躍し、デキる女子という印象が強くなる。


「へえ、こんな風になってるのか」


 と個室を見回す。

 けっこう広いので入り口付近に座ると、


「何でそんな離れてるの? こっちおいでよ」


 と桂花が笑いながらそばを指さした。


「そうですよ」


 紗世さんも笑って自分と桂花の間に手を置いてアピールする。

 迷ったけど俺はふたりの間にお邪魔した。


 顔がすごくいい女子の間って普通に緊張するんだよな……ふたりとも全然気にしてないんだが。


「配信の前にドリンクを持ってきましょうか」


 と桂花が言う。

 この店はフードは注文だが、ドリンクは自分で持ってくるシステムらしい。


「アルコールは注文しなきゃだけど、わたしたちには関係ないからね」


 桂花は言ってから笑った。

 俺とこの子は未成年で飲めないもんな。


「紗世さんは飲めるんですか?」


 ふと思って聞く。


「まだ19歳だからダメですよー。来月から飲めますけど」


 紗世さんはいたずらっぽく笑いながら答えてくれる。

 つまり来月で20歳ってことか。


「てことはわたしの3つ上なんですね。わたしいま高2だから」


 と桂花が言う。


「俺も高2ですね」


 そうか、紗世さんは3歳年上なのかと意味なく思った。


「そんな感じはしてました」


 と紗世さんが微笑む。

 

「大学ってどこなのか聞いてもいいですか?」


 と桂花が思いがけない質問をする。


「進路相談的な意味で、ですか?」


 紗世さんは笑みを消して首をひねった。

 いきなりそんな質問をぶちこまれたらそうなるよな。


「はい、いきなりすみません。大学には進学するつもりなんですが、迷ってて。紗世さんの大学なら、Vとの両立はできるのですよね?」


 真剣な顔で桂花は問いかける。


「ええ、大丈夫ですよ。んーと、わたしが通ってるのは聖フィアナなんですけど」


 紗世さんはちょっと歯切れ悪くなったが、納得だった。


 早獲大、慶旺大に匹敵する難関私立で、女子大としてはたしかお茶の湯女子に次ぐレベル。


 桂花も息をのんで一瞬固まる。


「紗世さん、女子大育ちっぽいなーと思ってたんですけど、すごいところですね」


 彼女は息を吐き出しながら言った。


「わたしの偏差値じゃきついです。CHARMなら狙えるって言われてるんですけど」


 そして自嘲気味に笑う。

 CHARMもすごい人気大学なのになと思ったが、黙っている。


 ……俺、進路のことなんて何も考えてなかったなと反省しながら。


「CHARMなら高校時代の友人が何人か進学してるので、雰囲気は聞けると思いますよ?」


 と紗世さんが天使のような笑顔で言う。


「いいんですか?」


 桂花は明らかにうれしそうに目を輝かせる。


「お安い御用ですよー」


 紗世さんは快諾した。

 ひかえめに言って女神さまだな。


 桂花はほっとした表情でこっちをチラッと見る。


「かけるくんは進路で悩みとかないの?」


 自分だけは恥ずかしいのか、いい機会を作ったから相談しろって意味なのか。

 桂花の性格なら両方あり得る気がする。


「ないな。何も考えてなかったから」


 俺はもっと恥ずかしいやつがいるぞ、と正直に打ち明けた。

 そもそも俺の学力で入れる大学があるのかわからない。


「危機感なさすぎじゃない?」


 さすがの桂花も呆れる。


「まあ2年生だとそんなものじゃないですか? 桂花ちゃんがすごいんだと思いますよ」


 やんわりと紗世さんがフォローしてくれた。


「俺もなんか考えたほうがいいのかな」


 と言ってみたものの何も思いつかない。

 

「あせってはダメですよ」


 と紗世さんがやんわりと制止する。


「そうだよ。わたしだって去年から考えてて、まだ悩んでるんだから」


 と桂花が自嘲気味に微笑む。


「そっか」


 彼女はそれだけ真剣なんだろうと感心する。

 なのにあわててうわべだけマネしてもたしかに意味なさそうだ。


「ごめん」


「謝ることじゃないわよ」


 桂花は今度は優しく笑う。


「お悩み相談はこれくらいにして、飲み物を取りに行きましょうか」


 紗世さんが話題をかえる。


 店に入った段階でコラボ告知して、反応があるのでたしかにそろそろ配信準備をしたほうがいいだろう。


「じゃあ俺が行くよ。何をとってくればいい?」


 と立ち上がってふたりに聞く。

 今回のコラボは桂花→紗世さん→俺の順に30分ずつ配信する予定だ。


 最初の枠主になる桂花はいたほうがいいだろうと思う。


「ごめんね。じゃあウーロン茶をお願い」


「わたしもウーロン茶をお願いします」


 桂花と紗世さんは申し訳なさそうに、同じものを頼む。

 じゃあウーロン茶を三つ持ってくるか。


 壁に貼られている案内図を確認し、ドリンクバーに行ってグラス三つにウーロン茶を入れて帰る。


『それじゃペガサス2期生オフコラボ、はじめて行くよー』


 と桂花が可愛らしく言っていた。

 ちょうどはじまったところらしい。


【コメント】

:まさかのサプライズオフコラボだと!?

:マジで鳥もいるの?

:美少女と美女に挟まれた鳥そこかわれ

:わたしはむしろモルモちゃんかラビちゃんにかわってほしい

:当たり前だがバードウォッチャー女子もいるんだな…


『もちろんラビもいますよー』


 と紗世さん、ラビさんが名乗る。


『俺も参加してる。めっちゃ緊張してる』


 と最後に俺も名乗った。


【コメント】

:本当にバードいるのか

:これはうらやましい

:緊張で声がうわずってて草

:ほかふたりは普通なのに

:マジでぼっちだから、三人以上との会話はしんどいんだよ

:むしろ頑張ってる鳥さんえらい


 

 批判はあるかと思ったら、意外と受け入れられている。

 そして優しい視聴者もいた。


 たぶんバードウォッチャーなんだろうけど。


『そうだよね。バード、苦手なのに頑張っててえらいゾ♡』


 とモルモが小悪魔ボイスで褒めてくれる。


『わたしたちが誘ったんですけど、苦手なところを見せずに応じてくれましたからね。本当にえらい人だと思います』


 ラビさんは天使のスマイルと声で続く。


【コメント】

:何それw

:どういう経緯だったのか気になってきた

:鳥が自分からは誘えないのは解釈一致

:ふたりのお誘いを断れないのも解釈一致

:この三人だとモルモちゃんが引っ張って、ラビちゃんが応じて、鳥はふたりについていくイメージ

:↑わかる



 コメントで俺たちの関係性について想像してる人、すごいな。


 モルモとラビさんの関係性は俺にはよくわかってないけど、俺に関してはほとんどそのとおりだよ。


 あ、これは声に出していいやつか。


『俺に関しては正解だよ。ふたりに誘われたらついていくスタイル。自分からは誘えない』


 ぼっちだからな、と言わなくても伝わるだろう。

 期待を込めて言った。


【コメント】

:草

:草

:平常運転ですね

:誘いに応じてるのにぼっち??

:まあ前世じゃぼっちって意味でしょ

:バード、設定瀕死だけどな

:言ってやるなよ…



 おおむね好意的に受け入れられている。


『今日はカラオケに来てますー。順番に歌っていくよー』


 とモルモが説明した。


【コメント】

:カラオケ?

:まじで!?

:モルモちゃんとラビちゃんはともかく、鳥は歌えるのか?

:歌えるとは思うが、歌唱力はいかに


 

 当たり前と言えば当たり前だが、俺のことが気になるらしい。


『俺の歌唱力に期待するほうが間違ってるよな』


 と言い切った。


【コメント】

:草

:言い切ってて草

:開き直んなw



『大事なのは楽しいことだから、ね?』


 とモルモが可愛らしさ二割増しの声で言う。


『そうですよー。上手い下手は二の次ですよー』


 とラビさんも同意する。

 このふたりと一緒じゃなかったら、カラオケで歌おうと思わなかったな。


『ふたりがこう言うから来たんだよな。じゃなかったらとてもじゃないけど、来る勇気はなかったよ』


 と説明する。

 

【コメント】

:なるほど

:言いたいことはわかる

:俺だってラビちゃんとモルモちゃんとなら、カラオケ行くなあ

:わたしはバードくんとならカラオケ行くよ!



 ……言いたいことはわかると言いたいけど、俺となら行きたい人のことはよくわからん。


『じゃあ一番はわたしね。その次はラビさんだよ。バードは三番ね』


 とモルモが言う。


【コメント】

:いいのか、その順番で?

:鳥のハードル上がらない?

:下手な奴は一番のほうがよくない?



 何やら心配している声が並ぶ。

 それとも音痴に対する不安かな?


『まあふたりの歌声を堪能しよう。俺のは蛇足だよ』


 自分で言うのもべつに恥ずかしくない。

 

『そんなこと言わないで』


『そうですよ』


 ふたりに優しくたしなめられてしまった。

 そのあと、モルモが選んだ曲が流れはじめる。


『~~~~♪♪♪』


 彼女の歌声はとても綺麗だ。

 

 それに明るくアップテンポなノリの曲と彼女の声質はあっていて、聞いていてとても楽しい。


【コメント】

:モルモちゃん、普通に上手い

:これはテンションがアガる

:手拍子したくなるな


 

 ラビさんと俺も手拍子をする。

 俺のほうはリズム感覚に自信がないので、小さくひかえめに。

 

 モルモにノってることさえ伝わればそれでいいと思った。


『ふー』


 気持ちよく歌い終わったモルモが、充実した表情でマイクをラビさんに渡す。


【コメント】

:8888

:8888

:うんめえ


 コメントも普通に盛り上がっている。

 トップバッターとしては理想的ですごいと俺も感心した。


『では次はわたしですねー。モルモちゃんほど上手くないですけど、精いっぱいやるので聞いてください』


 とラビさんは言ってからマイクを手に持つ。


『~~~♪♪♪』


 彼女が選んだのはモルモとは違い、バラード系の曲だと思う。

 今度は手拍子などはせず、耳を閉じて彼女の歌声に集中する。


【コメント】

:めっちゃ上手い

:これは天使……

:え、これ無料で聞いていいの?

:すごくお上手

:前世歌手だったりする?



 コメントもラビさんの上手さに驚いてる人が多い。

 俺も正直びっくりだ。


 ラビさん、上手そうだとは思ってたけど、ここまですごいなんて。

 ……この次に歌うなんて、もしかして俺ハードモードなんじゃないか?

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