第31話「返したい」

 撃破5をとれたのでホクホクだ。

 残存数が20を切っているので、さらに移動しよう。


『移動しよう。この分だと意外と最後まで生き残れるかも』


 と言うのを忘れずに。


【コメント】

:ほんとに生存点を取れそうになってきて草

:はじまった直後はやばそうだったのにな

:プレイヤースキルがやばすぎで草

:何とかしてしまうプレイヤースキル

:普通は序盤で即死だよ……<ボア・ブラウンスタンプ>

:ボア先輩来てて草

:やっぱりあそこで即死だよね



『頑張れば何とかなる。頑張ろう』


 と俺は言うけど、これは何だか言い訳っぽいな。

 でも事実からいいか。


【コメント】

:草

:もはや説明になってなくて草

:バ、バードくんだから……<ボア・ブラウンスタンプ>

:まあ実際できるようになるまで、死ぬほど頑張ったんだろうな


 

 残存数が減ってきてるので無理はしないつもりだったが、敵に狙撃されたのであわてて伏せる。


 勘のいい敵がいるもんだ。


【コメント】

:いきなり撃たれたな

:いまのもタイミングミスったら即死だよね<ボア・ブラウンスタンプ>

:ギリギリで避けてたもんな

:当たり前だけど敵も強いプレイヤー多いんだよな

:そりゃマスターランクだから……無双してる鳥がおかしいので



 敵を減らさないとどうしようもないので、転がり回避と二丁撃ちを試みる。


 何とか1人を撃破、1人をスタンさせるが、最後の1人からの銃弾でこっちもダメージを受けた。


「あ、これはやば」


 次の攻撃でふたりめを撃破したものの、右横から銃撃されてスタンを取られる。

 漁夫の利狙いの敵が接近してたか。


 さっきまで撃ち合っていたチームの最後の生き残りに撃たれてしまい、今回の戦いは終わった。


『あー、負けてしまった。右から寄ってきてたのに気づかなかったのが敗因だな』


 と残念な報告をする。

 残存数は8なのか。


『8だったからあとひと息だったか』

 

 まあ無理なときはあるさ。


【コメント】

:いや、マジかよ

:最後横殴りが来なかったら、たぶん3対1でも勝ってたよな

:何回見ても頭オカシイ

:鳥、ソロじゃなかったらとっくに一番上のクラスになってるよね?

:おそらくな

:やっぱり神ヤバ……<雪眠ラチカ>


 コメントを見るかぎりだと、今回の配信は成功と言えそうだ。

 そしてラチカさんも来ている。


『あれ? ラチカさん、こんばんはです。初めましてでいいですか?』


 と話しかけてみた。

 

【コメント】

:ラチカちゃん!?

:書き込んでいいのか?

:お話したことあるのにww たしかに初コメントですけどw<雪眠ラチカ>

:鳥さんとコラボしたことある人、全員集合だね

:たしかに

:コラボした相手に初めましては草

:草

:バードらしい。笑<モルモ・グレイウォーク>

:バ、バードくんのチャンネルで話すのは初めてでいいですよ?<ラビ・ホワイトステップ>



 言われてみればラチカさんで全員がそろったことになる。

 正直この状況はまったく想定していなかった。


 そしてラビさんがフォローを頑張ってくれている。


『フォローありがとう。ところで時間はまだ残ってるけど、何かプレイ見たいやつある?』


 と俺は質問した。


【コメント】

:雑談は?

:雑談はよw

:たまには雑談してくれてもいいんだよ


 

 コメントからは雑談を希望される。

 意外だな。


『雑談なんて俺にできるわけがないよ。コラボのときだって、ほかの人に話を回してもらってるんだから』


 と言う。


【コメント】

:開き直ってて草

:草

:苦手なのはわかるが、練習したほうがいいんじゃない?

:いまのままだと自分の枠にコラボ相手呼べなくね?

:自分の枠なのに他人に何とかしてもらうことになるぞ?



『あっ』


 コメントの指摘を見て思わずまぬけな声が出る。


『言われてみればそうだな。自分のチャンネルでやることを考えてなかった』


 誰かに何とかしてもらうつもりだったのは否定できない。


【コメント】

:登録者数的には鳥が同期を引っ張っていくんだぞ

:リーダーシップとれるタイプじゃないのはわかるけどな

:鳥が集めた視聴者を、同期にも流れるようにしていくのが一般的

:トップが同期の導線にならないとな

:箱推し以外にはまだまだ知られてないだろうしね



 コメントの意見を見てなるほどと思う。


『そうか。俺が頑張らなきゃか』


 とつぶやく。


【コメント】

:無理しなくていいからね!?<モルモ・グレイウォーク>

:バードくんひとりが頑張ることじゃないですよ!?<ラビ・ホワイトステップ>

:そうそう。みんなで助け合ってやっていくものだよ<ボア・ブラウンスタンプ>


 

 同期ふたり、それからボア先輩からあたたかい言葉がくる。


『三人とも、ありがとう。でも、お世話になりっぱなしなのは俺がいやだから、何か恩返しをしたいよ』


 三人には前回のオフでよくしてもらった記憶しかない。

 モルモとラビさんはいつも仲良くしてくれるし。


 みんなのために役に立ちたいんだよね。

 自分が受け取ったものを、すこしでも返したい。


 もらいっぱなしじゃよくないよ。


【コメント】

:てぇてぇ

:これはてぇてぇ

:男女てぇてぇは実在するんだな…

:俺たちが生き証人だ

:気にしなくていいのに<モルモ・グレイウォーク>

:そうですよ? 助け合いなんですから<ラビ・ホワイトステップ>


 ふたりとも本当に優しいな。


『うん』


 とりあえず返事だけしておこう。

 このまま雑談しようにも話が思いつかない。


 ふたりのことを延々と語るのは恥ずかしいし。


『ふたりのこと話すのは恥ずかしいから、ゲームに戻るよ。クリバスをさくっとやって終わろう』


 と告げる。


【コメント】

:草

:鳥が恥ずかしがり屋なのは解釈一致

:同感

:照れる鳥さん可愛い

:こういうところ可愛いよね



 可愛いって一応はほめ言葉なんだよな?

 女性の場合だと。


 喜んでおこう。


『ありがとう。時間があんまりないから、グレート級をやろうと思う』


 5分程度で討伐が終わるやつ。

 

『赤牙猿かな。すぐに終わるのは』


 と言って準備をはじめる。


【コメント】

:グレート級の赤牙猿って、うざいやつじゃん

:悪臭攻撃の連発でアイテム封じがね……

:HPは低めだから、ふたりいればすぐに終わるんだが

:ソロだとけっこう面倒だよな

:鳥だとすぐ終わりそう

:立ち回り参考にできないかな?

:鳥さんだし無理じゃない?

:鳥のまねだけはやめておけ……

:悪いこと言わないからやめておこう



『俺のまね? いいと思うよ。参考になる立ち回りができるかどうかはわからないけど、まずは見てくれ』


 と言ったのは役に立てたらうれしいからだ。

 参考にならないと言われることは何度もあるけど、やってみなきゃわからない。


『ちょっと待ってくれ。持ち込むアイテムを見直すから』


 赤牙獣なら普通に二刀流で殴ると早いんだけど、それじゃ参考にならないかもと思い至った。


『安定して勝ちたいならフラッシュとトラップは大事だぞ。実践してみよう』


 と言ってクエストをはじめる。


【コメント】

:言ってることはわかるんだが、果たして理解できるプレイになるんだろうか

:ならないに一票

:難しいだろうな

:無理じゃないかな

:みんな、もうちょっと鳥さんを信じてあげて……

:↑信じてるからこそだよ

:そうだよ。きっと俺たちにはまねできない無双をしてくれるはずさ

:草

:ある意味信頼関係は築けてると言えるなw

:鳥が思ってるとは正反対の方向でなw

:草



『あれ? 変だな? まあいいや。やっていくよ』


 クエストがはじまったので画面に集中する。

 いきなり赤牙獣と遭遇したのはラッキーだ。


『お、ラッキー、じゃあまずフラッシュで動きを止める』


 と言って実行し、次はトラップを準備する。


『こいつは動き回るのですこし手前くらいにトラップを設置する』


 そして動きを封じたら二刀流でラッシュを叩き込む。


【コメント】

:何ひとつ無駄がなくて草

:すでにまねするのが難しいだろw

:流れるような美しい討伐行動

:これ、まねしろってほうが無茶だろ……

:俺、無謀なこと言っちゃった


 

『あ、クリティカル距離はだいたいこの位置かな』


 と一度動きを止めて説明をする。

 クリティカル距離を覚えられるか、戦闘を続けられるかで全然違うからだ。


 赤牙猿が自由になって暴れはじめたので距離をとる。


『安定第一なら、タイミングを見てもう一度フラッシュ』


 と解説しつつ実際に使ってみせた。

 赤牙猿にヒットしてまた暴れ回る。


『それからトラップを仕掛けて、足を狙ってラッシュを続ける』


 と話す。

 いい感じに説明できていると思う。


 すくなくとも俺にしては頑張っているほうだ。


【コメント】

:何でドンピシャでフラッシュが当たるんだ?

:クリーチャーが行動を開始する前か、行動が終わった瞬間を狙うんだよ

:こうやればいいって手本にはなってるけど、細かい説明がないな

:一番難しい微調整の説明がないw

:行動開始前か、動きが終わった直後を狙うのがセオリー

:鳥は一番肝心な点を説明してないんじゃないか?

:それくらいはやってうちに学べるからな……

:セオリー理解せずにグレート級まで行くやつザラにはいないだろ、さすがに

:鳥さんが悪いってわけじゃないよね



 コメントは加速しているようだが、見ている余裕はない。


『赤牙猿は基本フラッシュとトラップで動きを止めて、足を狙っていくといいよ。持ち込める分が尽きたあとは、頑張って後ろ足を狙う』


 と話す。

 フラッシュとトラップが使えなくなったあとは、正直頑張れとしか言えない。

 

【コメント】

:尽きたあとどうすればいいのか、一番知りたいはずだが??

:大事なとこがあやふや!

:草

:一番大事なのはフラッシュとトラップないときの動きだよ!!

:これは草

:これだから鳥は

:どうしよう、フォローが難しい



 とりあえず赤牙猿を倒して、コメントを見たら肝心な部分がと言われていた。


『だって何がきついのか言ってくれないと、助言のしようがないし』


 本音を話す。


【コメント】

:開き直るなw

:草

:開き直りがひどい

:草



 笑われながら配信は終了した。

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