第30話「推しは大事だとわからせ」
『こんばんはー。あいさつは結局なくてもいい気がするなと思っているんだけど、どうなんだろうか?』
と俺はあいさつの段階で質問を投げてみる。
【コメント】
:こんー。
:手抜きするなw
:手抜きw
:久々に投げられる ¥20000
:私も投げよう ¥5000
『うぇ? いきなりスパチャ? みんな自分のお金は大事にしようよ』
久しぶりって何だ?
と首をひねりながらも反応する。
【コメント】
:大事にしてるから投げる ¥10000
:推しに投げるために大事にしてるのよ ¥30000
:そうだそうだ ¥1000
:心配してくれるならいっぱい配信して。それで元とれるから ¥5000
『うん? それでいいのか、みんな? いまのところなるべく毎日配信するつもりだけど』
首をひねりながらも返事をする。
【コメント】
:推しは大事だとわからせる ¥10000
:推しは大事だとわからせる ¥10000
:推しは大事だとわからせる ¥10000
:推しは大事だとわからせる ¥10000
:推しは大事だとわからせる ¥10000
:わからせネキが来たかw
「あ、はい。みなさんにとっては大事なんですね。わかりました」
圧倒的なスパチャで殴られ、俺はもう何も言えない。
【コメント】
:草
:金の力に負ける鳥
:鳥さんだって生き物なんだもの
:コラボ成功祝い<みっくすじゅーす> ¥10000
コメントを見ていたら見覚えのある名前が、スパチャをしてくれた。
『あれ、もしかしてみっくすじゅーすママ?』
この年でママと呼びかけるのはちょっと恥ずかしいんだが、これも業界のルールみたいなもの。
俺の場合、イラストを手掛けてくれたみっくすじゅーすさんのことだ。
【コメント】
:はい、みっくすじゅーすママですよ。ずっと見てたけど初コメ<みっくすじゅーす>
:ずっと見てたんだ
:気づかなかった
:見てるだけじゃ気づきようがない
:ママ、子の配信についてあんまり話さないしね
:そもそもママの子、ふたりしかいないはず…
コメントで書かれてることは勉強になる。
みっくすじゅーすさんは女性ということで、俺のほうからはちょっと絡みづらかったんだよな。
『みっくすじゅーすママのおかげで、ラチカさんとのコラボも無事に終わりました。何かけっこう評判がよかったみたいだよ』
もうちょっとラチカさんに近づくなって言われるかと思ったんだが。
教室の男子みたいに。
まあいい結果に終わってよかったので黙っておこう。
【コメント】
:あれはすごかった
:最初不本意そうな雪クラン多かったけど、鳥がカッコよすぎて許された
:それな
:鳥、強すぎてちょっと引かれてたな
:鳥さん、ゲーム以外に興味なさそうだったしね
:淡々とした低めのテンションが、向こうのファンに安心感を与えたらしい
:Vとしてどうなんだと正直ちょっと思ってたが、メリットもあるんだな
『ぼっちだからな。女性相手に何かできるはずがないよ』
と言う。
そんなことができるなら友達や彼女を作れてるはずだ。
【コメント】
:泣いた
:かなしみ
:わたしたちがいるでしょ! ¥10000
:そうそう。ハンカチ代 ¥500
:ティッシュ代 ¥300
:ぼっち??
『ありがとう。涙ふくよ』
俺は礼を言って、本来の予定を話す。
『今日は頂上戦争を遊ぶよ。ソロで生存ポイントを狙おう』
【コメント】
:もうすでに発想がおかしい
:おまえソロで生存ポイント狙えるランク帯じゃないだろw
:ボアちゃんとラチカちゃんに真人間ならぬ真鳥にしてもらったかと思いきや…
:無理だな
:むしろふたりがバードに引きずられないかを心配したほうがよさげ
『それはないだろ』
と言って笑う。
ふたりが俺に影響されるって、いったい何だよ?
そんな未来、とてもじゃないが想像できない。
【コメント】
:いや案外わからないよ
:ピュアな女子、男の影響を受けやすいから…
:男だって彼女の影響を受けるし
:杞憂民がいるのか
:さすがに勘繰りすぎじゃない?
:知り合ったばかりの男に影響されるとかナイナイ
そうだよな、杞憂だと俺だって思う。
『よーし、じゃあさっそくバトルをはじめるよ』
場の空気を変えるために意識して明るめの声を出し、ゲームを開始する。
チームのマッチングを拒否し、ソロで戦場に放り出された。
『うわ、いきなり敵チームがいる』
向こうもこっちに気づいたらしく、発射してくる。
地面に転がって射線を切りつつ、反撃でひとりをしとめた。
幸い遮へい物が近くにあったので、そちらに逃げ込みながらさらに撃つ。
残念ながらこれは外してしまう。
『外したか。回転射撃は命中精度が落ちちゃうんだよな』
【コメント】
:いやいやいやいや
:即死確定の最悪スタートだったのに、何で生き残ってんの!?
:地面を転がる回避ならやるけど、あれって当たらんでしょ
:当ててるやつ、初めて見た気がする
:当たるのか、あれ!?
:いままで回避専用テクニックだと思ってたわ……
:俺もだよ
:すごいものを見せてもらった代 ¥3000
:俺もおひねりがわりに ¥5000
:神テクニック代 ¥2000
状況はあまりよくない。
2対1で押し込もうとしてきている。
相手の弾が当たらず、こっちの攻撃が当たるラインを狙って撃ち、もうひとりを撃破した。
1対1になったところで相手はあきらめたらしく、攻撃がやむ。
『何とかふたり倒したので移動しよう』
近くにプレイヤーがいれば気づかれるからな。
『1チームくらいならともかく、ソロだと2チーム以上はしんどい』
できれば囲まれず、漁夫の利狙いでいきたい。
【コメント】
:ソロだと3対1になった時点で絶望的だよ!
:そういうところだよ、鳥ィ!
:何で普通に勝ってるの……?
:ラチカちゃん配信から来たんだけど、マジですごいんだな
:俺はボアちゃんコラボから見てるけど、ガチでヤバい
:やば鳥
多少余裕が出たのでコメントをチラ見するが、何かよくわからない。
『練習したら当たるようになるよ』
できるようになるまで練習するのは大事だ。
ほふく前進をしながら敵を探す。
【コメント】
:出たよバード節
:できるようになったら苦労はないんだよ!!
:相変わらず天然だね ¥500
:まあ言うだけの努力はしてるでしょ ¥1000
プレイヤーの残存数は40か。
ふたり倒してるし、残存数狙いなら様子見だな。
……配信的に映える展開じゃないか。
『残存数狙うと言ったけど、引きこもりは絵的によくないから、やっぱりちょっと冒険してみる』
と言って俺は動き出す。
【コメント】
:草
:まあ配信者的には正しい
:正直動かない映像を延々と見せられてもな……
:まあバードだし<モルモ・グレイウォーク>
チラッと見た感じだと賛成が多そうだ。
そして見覚えのある名前に、思わず語りかける。
『あれ、モルモ? 珍しいな』
見てはいるけどコメントはしないってスタンスかと思ってた。
【コメント】
:たまにはいいかと思って<モルモ・グレイウォーク>
:わたしもいますよー<ラビ・ホワイトステップ>
:2期生揃い踏みとか、2期生箱推しの自分大歓喜
:俺はモルラビてぇてぇだからセーフ
『ラビさんも珍しいね。いいところ見せたいけど、ソロですでに被弾してるから、今回はあまり期待しないでくれ』
と俺は正直に説明する。
【コメント】
:見せ場ならすでにあったが?(困惑)
:開幕3対1を返り討ちにしてたが?
:普通なら死ぬところを生き残ったんだから大盛り上がりなんだが?
:まあバードだし……<モルモ・グレイウォーク>
:バードくんですもんね<ラビ・ホワイトステップ>
「何だか変な感じになってるな。いや、いつものことか?」
俺がゲームの話をしていると、視聴者はときどきこんな反応になるじゃないか。
「つまり平常運転だと考えていいかな?」
頂上戦争のプレイ中だから、そこまで思考に割く余裕はないし。
【コメント】
:草
:その発想には草
:たしかに鳥は平常運転だよな…
:ツッコミが追い付かないよ……
:ツッコミを入れようとしたとき、そいつはすでに敗北してる
:↑草
:草
コメントから意識を画面に戻すと、遠くで戦いがはじまっていた。
敵の残存数も30までになっている。
『よし、移動する。あと2人くらいは落としたいね』
と話して移動開始だ。
撃破数7プラス生存点を取れるのがベストだけど、果たしてどうだろうか。
【コメント】
:ソロなら撃破数2とかで充分なんだけどな
:絵的にはつらいからね、仕方ないね
:鳥ならあと2撃破くらいはいけそうだし
:状況次第では2撃破は余裕でしょ
:運も絡んでくるから断言はできない
俺が狙える位置に到達したとき、2チームのバトルは進行していて、2対1になっている。
『これはラッキー』
二丁撃ちで両チームを両方1人ずつ撃破し、驚いた最後のひとりののどを撃ちぬく。
『漁夫の利で3撃破とれた。今回はツイてないと思ったけど、そうでもなかったね』
運が悪いとすでに決着がついてるからな。
【コメント】
:うわぁ……
:当たり前のように2人同時撃破とか……
:3人ともHP減ってたんだろうけど、だからと言って瞬殺できるかというと
:やばい
:すごすぎでしょ
:すごいことだけはわかる……<みっくすじゅーす>
コメントは盛り上がってくれるかと思ったら、ちょっと引いてるようだ。
何でだろう?
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