第29話「ラチカさんとコラボの反響」

 エゴサーチ……ネットで自分の評判を検索することは、基本的にやらない。

 俺と接してる人はみんな優しいけど、そうじゃない人だっているだろう。


 教室でも批判めいたことを言ってるヤツ(名前覚えてない)いたんだし。

 いやなものを目にしないのも、自分を守るコツだと思う。


「そう言えばラチカちゃんのコラボ見た?」


「男とコラボなんてしてほしくないから見てない」


 タイミングがいいのか悪いのか、顔を覚えてない男子が話題に出している。


「すごかったぜ。バードのテクニック。ラチカちゃんが困ってたクリーチャー、あっという間に倒してた」


「へえ」


 興奮して話す友達に対して、明らかに気がない返事。


「録画だけでも見てみろよ。コメントも盛り上がってやばかったんだから」


 たしかにコメントも盛り上がってたな。

 みんな思ったよりノリがよかったし、俺に対して好意的だったと思う。


「えー!?」


 話しかけられてるほうは不満そうだ。

 まあ世の中には配信者に本気で恋してる【ガチ恋勢】もいるらしいし。


「おまえ、ラチカちゃんが好きならラチカちゃんの悩みが解決したことを、まずは喜んでやれよ」


「……そりゃそうだけど」


 悔しそうにしながらも返事をする男子。


「鳥、ゲーマーとしてマジで頼りになるんだぜ?」


 なんて力説がはじまって、俺はおやっと思う。


「おまえ、もしかしてバードウォッチャーかよ」


 なんてラチカさん好き男子に聞かれている。

 うん、ちょっと同じことを思ったよ。


「まあな。俺は雪鳥を推せそうだわ。ボアバードもよかったけど」


 なんて答えている。

 俺が言うのもなんだけど、かなりのツワモノじゃないか?


 ところで雪鳥ってなんだろう?

 話の流れ的にラチカさんと俺のことだろうか?


 検索するのは怖いから、家に帰ったらモルモに聞いてみよう。



 

 帰宅して事務所から支給されてる端末をチェックする。

 まず猫島さんから返事がきていた。

  

マネージャー[エゴサはしなくていいと思います。応援してくれる人の数だけ見るほうが健全ですよ]


 エゴサしたくないという俺の考えに賛成してくれてホッとする。

 

マネージャー[情報はこちらからお伝えできますしね。いまのところ好評だと言えるでしょう。ラチカさんの動画再生数も30万を超えたようです]


 ひと晩で30万!?

 びっくりして返事をすると、


[それってすごいんですか?]

マネージャー[かなりすごいですよ。ラチカさん級でもひと晩だと10万くらいが平均ですから]


 すぐに猫島さんからレスが届く。

 えっ、つまり平均の3倍!?


「マジで!?」


 自宅でほかに誰もいなかったので、叫び声をあげる。


[それ、かなりすごいってことですか?]

マネージャー[そうですよ。もちろんバードくんひとりの功績というわけではないですが、ピスケスも大成功だと喜んでいますね]


 大成功。

 その文字が見て体があったかくなってくる。


 よかったぁぁぁ。


 俺のせいで失敗しなくてほっとした気持ちと、俺がコラボ相手として受け入れてもらえてよかったという気持ち。


 両方同時にこみあげてくる。

 いや、沸騰しているといったほうが近い感覚だ。


マネージャー[それからフォックスさんも喜んでくれてます]


 フォックスさんは「バード・スカイムーブ」のイラストを手掛けてくれた人である。


 フリーのイラストレーター、さらに年上の女性らしく、俺との接点はほとんどない。


 ツブヤイターのアカウントを作ったときにあいさつしたくらいだ。


マネージャー[何もなければ今日は通常配信をお願いしたいのですが]

[はい。何もないので今日も頑張ります]


 猫島さんも知っているからか、すぐに話を変える。

 今日もクリバスのウルトラ級をやろうか。


 それとも頂上戦争にしようかな。

 何にも言われてないから配信枠は30分だろうし。


 頂上戦争にしようか。

 クリバスだらけだとあきられるのが早いかもしれないから。


 自分なりに結論を出したところで、端末が震える。


モルモ[雪鳥ってラチカさん×バードのことみたいだよ。よく気づいたね? バードってエゴサしないんじゃなかったっけ?]


 モルモの疑問は当然だった。


[近くから聞こえたライバーに関する話で、もしかしてと思って]


 ウソじゃない。

 我ながらちょっと苦しいかもと思ったけど。


モルモ[あってるよ。いまのところ弱いラチカさんと、助けるバードって組み合わせで認知されてるみたい]


ラビ[盛り上がり、すごかったですねー。あれなら書き込んでもバレないかなって思っちゃいました]


 グループチャットを見たらしいラビさんが会話に入ってくる。

 

[ありがとうございます、見ていたんですね]

ラビ[もちろんですよー]

モルモ[わたしも見てたわよ]


 ふたりの返事にニヤニヤしてしまう。

 応援されるのはうれしいし、このふたりが見てくれてるのはありがたい。


[もちろん俺だってふたりの配信はしっかり生で見たよ]

ラビ[ありがとうございます]

モルモ[ありがとう]


 話はここで終わりかな。

 すくなくとも俺には何もない。


 同期ふたりがいつものように雑談をいろいろと振ってくれないかな?


モルモ[まだアイデア段階なんだけど、オフコラボ興味ない?]

ラビ[もしよかったら3人で次の土日にでもやりませんか?]


 なんて思っていたらふたりからすごい話題が飛んできた。


[えっ? オフコラボ? 3人で!?]


 メッセージを打ちながら声にも出してしまう。

 それくらいびっくりしたんだ。


モルモ[そうだよ。先輩や外の人とコラボして、わたしたちとはしないなんてさびしいじゃない?]

ラビ[バードくんはわたしたちの同期ですし]


 何かふたりはそう主張してくる。

 うん、大事なのは同期の仲間だよな。


[でもいきなりオフコラボって急と言うか、飛躍してないか?]


 何回かコラボするって段階を踏んだほうがいいんじゃ?


モルモ[バードがその段階すっ飛ばしちゃったからね……]

ラビ[刺激が弱いと思うのですよ。普通にコラボするだけでは]


 モルモとラビさんの主張に首をひねる。

 そういうものなんだろうか?


 配信者の戦略に関しては俺は役立たずだという自覚がある。

 ふたりに頼るほうが賢いだろう。


[そうなのか? 猫島さんの許可があるなら俺はかまわないけど]


 と返信する。

 事務所の許可と理解は必須だろう。


マネージャー[上と相談した結果、許可を出すことにしました。やはり2期生は2期生としてプッシュしていきたいので]


 猫島さんからの返信は早かった。

 ふたりは俺に言うよりも先に問い合わせをしてたんだろうな。


モルモ[やっぱりラチカさんとの件が大きかったのですか?]

マネージャー[雪眠ラチカさんとのコラボが上々に終わったので、これなら2期生のオフコラボもおそらく大丈夫だろうと判断されました]


 モルモの問いに猫島さんが答えている。

 なるほど。


 他社の大人気女性ライバーとのコラボって、それだけ難しかったということか。


ラビ[バードくん、いつもどおりこなしててすごかったです。わたしだったら緊張しちゃって無理だったと思います]

モルモ[ほんとですよ。バードって安定感がすごいですよね]


 同期たちは褒めてくれるが、単に事の重大さをわかってなかっただけと思う。

 

[よくわかってなかったから、プレッシャーなかったのが大きいよ]


 同期や猫島さん相手に隠し事も見栄を張るのもなしにしようと、正直に打ち明ける。


[大丈夫ならやってみたいです]


 オフで会っても何を話せばいいかなんてわからない。

 でも、俺だけ仲間ハズレなのはさびしい。


マネージャー[では決まりですね。土曜日がいいか、日曜日がいいか。みなさんで相談してください]


モルモ[どうする? わたしはどっちでもいいけど]

ラビ[わたしはできれば土曜日のほうがありがたいですね]


 マネージャーの一言で相談がはじまる。


[俺もどっちでもいいですね。土曜日にしましょうか?]


 ラビさんは日曜日だと都合が悪そうだから。

 

モルモ[じゃあ土曜日で。お昼をいっしょに食べません?]

ラビ[いいですね! 新宿か渋谷か、どっちにしましょうか?]


 女子ふたりがテンポよく盛り上がっている。


モルモ[どっちも激コミだと思うので、穴場にしませんか? 〇〇駅ってみんなの家から遠いです?]


 モルモの提案にちょっと驚いたが、たしかに土曜の渋谷や新宿は人が多そうだ。

 合流するのも、あいてる店を探すのも大変だろう。


 それにその駅なら距離的に問題ない。


[俺は問題なく行けるよ]

ラビ[わたしはすこし遠くなりますが、大丈夫です]

モルモ[ありがとうございます。集合時間はどうしましょうか?]


 集合時間か、早めのほうがいいと思うけど、みんなの都合はどうなんだろう。

 ちょっと様子見をしてみよう。


ラビ[わたしは11時半ごろ以降なら大丈夫ですよ]

[俺も11時半くらいでいいと思う]


 ラビさんがかまわないならいいだろうと思ったのだ。


モルモ[じゃあ11時半ごろに〇〇駅の××口前に集合でいいかしら?]

ラビ[了解です]

[それでいいよ]


 集合時間と場所が決まったところで、次は店だった。

 モルモが昼を食べる店、次にカラオケの店のページを貼る。


 俺もラビさんも賛成したので段取りは決まりだ。


モルモ[じゃあ土曜日の11時半でよろしくね]

ラビ[わかりましたー]

[了解。これはサプライズ? それとも予告するのか?]


 俺はふと疑問に思って聞く。

 勝手に告知してしまうのはまずいのでたしかめておかないと。


モルモ[サプライズのつもり。みんなを驚かせたいからね!]

ラビ[モルモちゃんらしいですね。笑]


 モルモは小悪魔みたいなことを言っていて、ラビさんは笑っている。

 猫島さんも見てるグループで何も言われないんだから、許可はあるのか。


 なら反対しなくていいな。

 今日は頂上戦争配信をするつもりだけど、うっかりしゃべらないよう気をつけよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る