第28話「ラチカさんとコラボ④」
『爆砕虎対策ってどうすればいいですか?』
とラチカさんに聞かれる。
『状態異常無効をつけましょう。それと回避の充実ですね』
と答えた。
爆砕虎は複数の状態異常を付与して、大ダメージを与えてくる。
状態異常無効と回避スキルを充実させることで、リスクを激減できるだろう。
『ほしい素材ありますか? 爆砕虎は頭以外の素材は出やすいので、頭を破壊狙いでいこうかと思うんですが』
と聞いてみた。
爆砕虎は頭を破壊しないと出ない一つの素材以外は、何度も倒せば集められる。
もっともラチカさんの希望がわからないので確認は大事だ。
『爆砕虎はもう倒せるだけでありがたいっていうか、志が低くてごめんなさい』
ラチカさんがしゅんとした感じで謝ってきたのであわてる。
『いえいえ! こちらこそ聞き方が悪かったですね。ごめんなさい』
急いで謝罪を返す。
なんて言えばいいのか……ラチカさんの装備が整うまで俺がつき合えたらいいんだけど、できるかわかんないんだよな。
何となく気まずい沈黙に生まれはじめたが、
『この配信が終わったら、マネージャーさんにもっとバードさんとコラボしたいってお話ししますね!!』
ラチカさんが不意に元気に言った。
『実現できるなら、いくらでもお手伝いしますよ!』
たぶんリップサービスだろうと思い、社交辞令のつもりで答えを返す。
実際、クリバスを手伝うのはすこしもいやじゃない。
『約束ですよ! みんな聞いた!?』
ラチカさんがハイテンションでリスナーに話しかける。
【コメント】
:聞いた
:ばっちりな
:まかせろ
:ラチカちゃんのテンションに草
:鳥、かわってくれ
:ラチカちゃんとゲームしたい人生だった
:ラチカちゃんに頼られたい人生だった
:鳥さんとゲームしたい人生だった
:↑当たり前かもだけど、どっちのパターンもいるんだな
:そりゃ鳥も人気チューバーだからな。まだデビューして1週間くらいだけど
ラチカさんのフリのおかげもあって、コメント欄が盛り上がっている。
『そういや俺、デビューしてそろそろ一週間ですね』
全然気づいてなかった。
ライバーとしての活動のおかげで一日が濃く感じるようになったので、すっかり感覚がおかしくなっていたらしい。
『そう言えばバードさんの配信を見て、まだ一週間だった! え、ウソー!?』
ラチカさんはラチカさんで驚いたのか、発言がおかしくなっている。
『ほんとウソー!? って言いたくなる一週間でしたよ』
俺の感覚だと半年くらいは経過してるかな?
大半はラチカさんのツブヤキのおかげだと思う。
あれがなかったたぶん俺のチャンネル登録者数はひとケタすくなかっただろう。
『ラチカさんのおかげだと思います。すごいですよね、ラチカさん』
心からの言葉だ。
『ええー!? すごいのはバードさんですよ? ラチカは単にすごい人見つけたーって騒いだだけなので。バードさんが本当にすごいから伸びたんですよ!』
ラチカさんは照れながらも、しっかり褒め返してくれる。
何この人、ひかえめに言って天使かな?
……うっかり口をすべらさないように注意しなきゃ。
【コメント】
:何だ、てぇてぇか?
:男女でもてぇてぇ?
:てぇてぇでいいでしょ
:一歩間違えたらつきあいはじめてホヤホヤの……
:↑やめろ
:↑火種を投げるのやめて
:すまなかった( ;∀;)
:ええんやで
:何でもそっちに結びつけるのヨクナイ
おっと、コメントもちょっとヤバかったな。
気を利かせてくれた人のおかげで炎上は回避か。
『そうそう。すごい人をすごいねって褒めただけだよー!?』
ラチカさんは明るく笑い飛ばす。
俺がもしも彼女に恋心を持っていたら、粉々に砕かれてただろうな。
いい人だなと思っただけだから何にも感じない。
むしろ炎上回避できた安堵感しかなかった。
『ラチカさんはすごいラチカさんだったということですね』
俺も場をしのごうとしたけど、何か変な言い方になってしまう。
『あははは、何ですか、それー!?』
案の定ラチカさんに爆笑された。
【コメント】
:草
:これは草
:ラチカちゃんがすごいのはそのとおりだがな!
:鳥は滑舌がダメなのかな?
:ゲーム以外凡人だな
:俺らに近いよな
:そこがいいんだけどね、可愛い
:親近感があるよな
:言っても「ゲーム」の部分が違いすぎる
:言わないで
:現実忘れるためにラチカちゃん見てるのに、現実持ってこないで
:すまんかった
:謝れる世界
:優しい世界
『こうしてコラボしてみて、俺も雪クランの仲間入りしたいなって思いましたから』
これはウソじゃない。
まあ営業トークも1%くらいはあるけど。
『うれしいですねー! でもラチカはとっくに登録済みですけどね!!』
ラチカさんはうれしそうに切り返してくる。
『えっ?』
正直まったく想像していなかったので、一瞬頭も体も硬直してしまった。
【コメント】
:これは鳥ギルティでは?
:いやまあ、一週間であれだけ伸びたらそりゃ気づけないよ
:言わずにこっそりやったほうがよかったけどな
:ラチカちゃん、登録してたんだ
:ラチカちゃんはカジュアルに登録するタイプだよ
:ツブヤイターでの反応を考えれば、バードウォッチャーやってるのはむしろ自然
『ご、ごめんなさい』
勝手がわからなかったから、というのは言い訳だな。
せめて見苦しさを減らそうと飲み込む。
『いいんですよー! 初めてなんですから。わからないことばかり、覚えることばかりだし、緊張もするし、大変でしたよね。がんばってたバードさんえらい!!』
ラチカさんは笑って許してくれたあげく、気遣って褒めてくれた。
天使を超えた女神かな?
『ありがとうございます』
まずは礼を言おう。
『けど、本当にえらいのはラチカさんですよね。毎日のようにファンを楽しませてますし、俺のような新人のフォローもしてくださってますし』
次に彼女のすごさを褒め返す。
何もできない俺だけど、せめてこれくらいはやりたい。
『ええー!? ラチカはやりたいことやってるだけですよ!?』
ラチカさんはさらに謙虚なんだよな。
たとえキャラクターを演じてるだけだとしても、感じさせないのはすごい。
【コメント】
:お? てぇてぇか
:今回はてぇてぇ
:男女でもてぇてぇは存在したんだよ
:お互いの人柄があってこそだな
:鳥氏、悪いやつじゃなかったな
:ラチカちゃんも性格いいよね
:鳥が人気出たのわかったな
:ラチカちゃんが大人気なのもわかったよ
:お? ファン同士までもがてぇてぇか?
:ファン同士でもは草
:いやでもいい光景だよ
:心が浄化されるわ
:ちょっと心配してたけど、見に来てよかった
『やりたいことやってみんなをいやせるってすごいですね。みんなが好きになるのわかります』
『やだー、もう♡』
俺が率直に感想を言うとラチカさんが照れている。
【コメント】
:おっとそろそろ危険だな
:うん、誤解を招くぞ?
:鳥はそういうヤツじゃないって何となくわかったけどね
ううん? コメント欄がちょっとおかしい。
『あれ、俺なんか変なことやっちゃった?』
『あはは、バードさんって天然なんですねー』
ラチカさんが一瞬の間を置いて笑い出す。
【コメント】
:だよなぁあ
:天然だと思った
:何があやういのか気づいてないのか
:まあそこも魅力っちゃ魅力なんだが
:とりあえずセーフ
何だかよくわからないけど、一応危険は回避できたようだ。
『ではでは今日はこのあたりで、バイバーイ』
『ばいばい』
ラチカさんは可愛らしく、俺は平坦な声で別れのあいさつをする。
無事にコラボは終了し、ふーっと息を吐き出す。
初めての外部コラボだったけど、何とか乗り切れたな。
もちろんラチカさんの力が大きい。
話を回していくスキルはダントツですごかったと思う。
見習わなきゃ……という意識は俺にだってあるが、できるだろうか?
どうせならゲームスキルを磨いたほうがいいんじゃないのか?
なんて思ってると端末から通知音が聞こえる。
モルモ[お疲れ様。いい配信だったよ。さすがの強さ]
ラビ[お疲れ様です。素敵な盛り上がりでしたね]
ふたりのあたたかいねぎらいの言葉が心に届く。
マネージャー[お疲れさまです。成功でしたね]
すこし遅れて猫島さんから来た。
むしろ同期ふたりが早いんだよな。
このあと配信するからかもしれないが。
みんなあたたかい言葉だけなのでひとまず安心する。
ダメだったらやんわりと注意されるだろうし。
[ありがとうございます。ラチカさんに救われた形ですけど]
コラボする相手って大事だよな。
ラチカさんとコラボして実感する。
なんて思っているとさらに通知音が鳴り、何とラチカさんから個別でメッセージが届いた。
ラチカ[お疲れさまでした! とても楽しかったですし、お世話になりました! ぜひぜひまたコラボさせてくださいね!]
明るい人だなぁとほっこりする。
[お疲れ様でした。こちらこそありがとうございます。またの機会があればコラボしたいです]
短いなと思ったけど、ほかに何を言えばいいのか全然わからなかった。
コミュ障ってこういうときに出るんじゃないかなと思う。
またコラボできたらいいのは本心だけど、決めるの俺じゃないんだよな。
ラチカ[はい! 絶対やりましょう!]
何だかすごく気合の入った返事が来る。
それだけコラボしてよかったと思ってもらえたんだろうか。
だとしたらうれしいな。
俺も誰かを楽しませることができたんだ。
何回経験してもいいものだと思う。
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雪眠ラチカ/雪と遊ぶちゃんねる
人間のゲームが大好きな雪の妖精。
おしゃべりも食べることも眠ることも好き。
チャンネル登録者数140.8万人
バード・スカイムーブ/鳥の巣ちゃんねる
人間の作ったゲームが好きで、人里にやってきた鳥。
がんばって人間になろうとしている。
チャンネル登録者数51.2万人
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