第27話「ラチカさんとコラボ③」
『魔狼竜の攻撃は俺が引き寄せるので、ラチカさんは背中を狙ってください』
と言う。
『はーい。お言葉に甘えちゃいますね』
ラチカさんはコロコロ笑い、クエストへ出発する。
さて開始地点はと言うと俺は遠くに飛ばされ、ラチカさんはすぐに戦闘になっていた。
『ええー!? ウッソー!? ちょっ、あっ、きゃっ』
ラチカさんの驚きの叫びが悲鳴に変わる。
これはマズそうだな。
『何とか駆けつけるので、持ちこたえるなり逃げるなりしてください』
と声をかける。
【コメント】
:クリバスあるある
:仲間とはじめたのにひとりだけクリーチャーとタイマンさせられる
:それも一番弱い人がピンポイントで
:ラチカちゃん悲鳴たすかる
:男の声邪魔だよな
:変態め
『は、はい。バードさんと合流するまで、とにかく逃げます!』
ラチカさんはそう答えた。
コメント欄を見るかぎりちゃんと逃げているらしい。
『きゃっ』
『あっ』
ときどき可愛らしい声が聞こえてくるのは、頑張って逃げてる証拠なのだろう。
ようやくラチカさんと魔狼竜がいるマップに到着する。
『つきました。そっちに行きます』
ボタンを押して俺の現在地を知らせながら、走っていく。
『ごめんなさーい! お世話になります!!』
ラチカさんは気づいてこっちに逃げてきて、追いかけるように魔狼竜がダッシュしてくる。
俺はフラッシュを放って魔狼竜の動きをまず止め、それから斜めに移動して背中を狙って銃弾を撃つ。
まずは拡散弾からだ。
『あっ、魔狼竜とまった!? ラチカも頑張りますー!』
ラチカさんはほっと息を吐いて、それから攻撃に参加する。
【コメント】
:フラッシュで止めてから流れるようなクリティカル銃撃に草
:上手いとかいうレベルを超えてるんじゃないか?
:さらっとラチカちゃんをかばう騎士ムーブ
:やっぱり最初は拡散弾か
:拡散>貫通>火属性の順でダメージを稼げるからな
魔狼竜は立ち直ると俺をめがけて火炎ブレスを吐いてくる。
それを横転しながらかわして反撃の銃撃。
『ええ、あれをよけるの!? すごい!』
ラチカさんにほめられた直後、魔狼竜はこっちをめがけて突っ込んでくる。
左に回転して避けて背中へと銃弾の雨を降らす。
グレート級までならダッシュの途中で急停止しないから戦いやすい。
ダッシュの終わりに倒れ込むので、立ち上がるまでは的状態になる。
ラチカさんとふたりで銃弾を浴びせてると立ち上がった直後、よろめく。
『これって効いてる感じですか?』
と彼女に質問される。
『背中の破壊終わりましたよ』
と答えた。
たぶん気づいてないから。
『ええ!? もう終わったんですか!?』
ラチカさんが驚愕する。
『クリティカル当ててますし、ふたりだからこんなものじゃないかなと』
ひとりだとあと1分くらいはかかっただろうしな。
【コメント】
:はえぇよw
:鳥が強すぎる件について
:普通背中の破壊、こんなすぐできない
:知ってた
:やっぱり鳥無双
:さすが鳥さん
:ラチカちゃん擁護しながらの立ち回りなのに、安心感しかない
:普通、仲間をかばいながら戦うってもっときついもんなんだぞ?
『ふええ……バードさんさすがすぎです。すごいという言葉しか出てこないですよぉ』
とラチカさんに言われる。
可愛い女の子に褒められて悪い気はしないが、魔狼竜はここからが本番だ。
『ありがとうございます。でもこいつ怒ったので、いまから大変ですよ』
『あっ、そうですね』
ラチカさんは気を取り直したので、再びふたりで魔狼竜に立ち向かう。
魔狼竜の敵意はこっちに向いているので、ラチカさんは戦いやすいだろう。
俺は避ける撃つの作業をくり返していく。
ガンナーだとブレスと突進にだけ気をつければいいので、かなり戦いやすいクリーチャーだ。
【コメント】
:魔狼竜って一方的に封殺するのムズいクリーチャーなんだけど
:動きも攻撃も速いからな
:ガンナー殺しって言ってる人いない?
:↑いるいる
:まあ近接武器よりマシだけどな。尻尾攻撃とかないだけ
:鳥は一戦目で尻尾攻撃も全部避けてたけどな
:鳥が神ヤバって言われた理由、理解できた気がするよ
魔狼竜はよろめいて逃げ出したので、
『ラチカさん。今回も捕獲しますか? そっちのほうがもらえる報酬の期待値は増えますよ』
と聞いてみる。
装備がいろいろとほしいなら、できるだけ捕獲がいいだろう。
そっちのほうが必要素材を集めやすいのだ。
『はい! 捕獲でお願いします!』
とラチカさんの返事。
彼女も捕獲はできると思うが、俺がやったほうがたぶん早い。
それにやりたいという要望も出てないので、俺がやってしまおう。
すぐに捕獲は終了した。
『お疲れさまでした』
と声をかける。
『お疲れさまでした。ごめんなさい。魔狼竜ってこんな簡単だっけ? なんて思っちゃって、もしかしてラチカ、めちゃくちゃ甘やかされてるのでは??』
なんてラチカさんは言う。
そんなつもりはないんだがと思いながら、コメントを見てみる。
【コメント】
:もしかしなくてもそうだよ
:ラチカちゃんサボらずがんばってるけど、ほとんど鳥がやってる
:ターゲット集中スキル、プレイヤー次第では死にスキルになるもんな
:↑プレイヤー同士の火力差がはっきりと出るゲームだからな
:要介護を超越してるで
:鳥の圧倒的フォロー力
:おんぶ抱っこ状態だな
:鳥さんなら余裕だからへーきへーき
『いえ、ラチカさんとコラボできたおかげで、俺の存在を知ってくれた人はたくさんいると思いますし、トータルで言えば俺のほうがお礼を言わなきゃですよ』
と俺は答える。
ラチカさんは登録者数が130万超えと俺の3倍以上の人気者だ。
動画再生数が24時間で数十万回突破するのは普通だし、いまの同時接続視聴人数は2万を超えているもんな。
はっきり言って得したのはこっちだろう。
グレート級ならそこまで負担じゃないし。
『えー!? バードさんの神上手さ、知らないのはゲーム好きとして大損ですよ! 広めるのはむしろゲーマーとしての使命かなーって、ラチカは思います!!』
ラチカさんに力説されて、頬が熱くなる。
評価されているのはわかっていたけど、直接言われることには免疫がなかった。
……Vでよかったな。
単なるライバーだったら、いまごろ女性に褒められて照れてるってことでネタにされるか、あるいは批判でもきてたかも。
【コメント】
:お? 鳥、ガチ照れか?
:鳥は淡々としててわかりづらいがたぶん照れ
:ラチカちゃん、声も話し方も可愛いからな
:直接言われたら破壊力あるんだろうな
:こうして聞いてるだけでも充分すぎる破壊力
『みんなもありがとう。受け入れてくれて』
と俺はごまかすように言った。
受け入れてくれる人がいるから存在していられる。
……正直、世の中はあんまり好きじゃなかった。
自分のことを拒絶しているように感じられたからだ。
だけど、ここには受け入れてくれる人たちがいる。
【コメント】
:ええんやで
:こっちこそラチカちゃんをありがとう
:ラチカちゃんがお世話になりました
:引き続きお世話になります
:バードさんがいっしょならきっとウルトラ級にもいける
:↑草
:保護者目線が多くて草
:雪クランもたいがい統率とれてるよね?
:自分はバードウォッチャーだけど、これは見習いたい
:雪クランのみなさんはよいお手本だね
:ファンの褒め合いがはじまってて草
:どっちも民度高いな!
:まさかのファン同士がてぇてぇ
:これは草
『本当だー!? ファン同士が仲良くなっちゃってますね! ラチカもうれしい!』
ラチカさんがご機嫌で言う。
言われてみればたしかに視聴者同士が仲良くなってる。
『この展開は正直予想してなかった』
とつぶやく。
ラチカさんに近づくなって言われる可能性なら、考えたことあったんだが。
『バードウォッチャーのみなさんが素敵だからだし、つまりバードさんが素敵な人だからですね♡』
ラチカさんが甘ったるい声で言ってくる。
ドキッとしたけど、これはからかわれてるんだろう。
いくら俺がコミュ障だと言っても今回は察することができた。
それでも心臓はバクバク跳ね回るし、舌を動かそうとしても上手くいかない。
『あ、ありがとうございます』
という一言だけ何とかひねり出すことができた。
【コメント】
:ちょっと震えたな
:これも照れかな?
:どっちかと言うと緊張だな。声の震え方的に
:声ソムリエすげえ
:鳥さん対人経験あんまりなさそうだし、いじらないであげて…
:↑ラチカちゃん、実は自分の破壊力に気づいてなかったりするんだ
:↑計算型妖精さんだと思ってたんだけど、天然型だったの?
:無自覚系小悪魔やで
:鳥さんの同期のモルモちゃんは計算型だろうけど、この子は天然さん
コメントが一気に盛り上がっている。
え、ラチカさんって天然型だったのか?
てっきりモルモタイプだと思っていたんだが、そうかラビさんタイプか。
『まだ配信時間に余裕があるんですけど、ほかにもクエストをお願いしても大丈夫ですか?』
とラチカさんが流れをぶった切るように聞いてくる。
『大丈夫です。何なら試練クエストでもいいですよ』
と答えた。
【コメント】
:試練クエストって何だ?
:上のランクに行くためのクエスト
:特定のクリーチャーを倒すのはいっしょだな
:今回の試練クエストは何だろう?
:たぶん爆砕虎さん
:あっ……
:鳥がいるときに終わらせなきゃ
:それが最適解だな
:鳥さんなしだと無理だろうな……
:とりあえずやばい敵だということは察した
『コメントで言われてますけど、試練クエストであってますか?』
俺は念のため確認する。
『はい。荒ぶる爆撃王って名前のクエストですね』
ラチカさんがちょっと憂うつそうに答えた。
ああ、あれか。
爆撃虎が狭いマップで暴れ回るちょっとうっとうしいやつだ。
『じゃあそれ片づけましょうよ。手伝いますよ』
と俺は言う。
『いいんですか!? ありがとうございます!!』
ラチカさんめちゃくちゃ喜んでるな。
【コメント】
:地獄に仏とはこのことか
:ラチカちゃんの喜びハンパないな
:爆砕虎ってそんなに強いの?
:鬼獅子並みにヤバいって言えばクリバス知らない勢にも伝わる?
:↑伝わった。ヤバいわ
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