第26話「ラチカさんとコラボ②」

『ラチカさん、ガンナーなんですね』


 装備を見て俺は話しかける。


『ええ。バードさんは二刀流なんですね』


 ラチカさんはすこし驚いたようだった。


『ええ。魔狼竜は動きが速いので、速く動ける装備が戦いやすくて』


 と答えたけど、これは人によるだろう。

 動きが速いからしっかり守りを固めたい人だっているはずだ。


『そうなんですね。ラチカはとにかく距離をとりたくて』


 ちょっと弱弱しい声で彼女は説明する。


『ああ、逃げるの優先で大丈夫です。倒すのは俺がやります』


『頼りになるぅ!』


 俺の返答にラチカさんが喜ぶ。

 まだ気が早いよと笑いをかみ殺す。


 クエストがはじまって俺たちは何と同じポイントからスタートし、しかもすぐに魔狼竜もいた。


『きゃっ、いきなり!?』


 ラチカさんが驚いて可愛らしい悲鳴をあげる。


『後ろに下がってくださいー!』


 一応声をかけて俺はダッシュで魔狼竜の前に出て、フラッシュで動きを止めた。

 そしてそこからくちばし攻撃をすり抜け、足を狙って二刀流乱舞をくり出す。


『す、すごい』


 ラチカさんは言いながら指示どおり距離を取り、銃撃をはじめる。

 うん、動きは悪くないと思う。


【コメント】

:即行でフラッシュを使うのか

:魔狼竜は動きを定期的に止めるのが大事

:止めないとラッシュで防戦一方になりかねないからな

:トラップかフラッシュで止めて袋叩きにするのが基本戦術

:ラチカちゃん、それでも負けてるんだが

:大事なのは動きを止めること、次に火力、あとは死なない立ち回り

:ラチカちゃんたちは火力がなあ……

:ダメージを稼げないときついからね。特に魔狼竜は


 とりあえず転倒させて尻尾を狙う。

 魔狼竜相手だと尻尾を斬っておくのはかなり大事だ。


『え、もう転倒するの?』


 ラチカさんが驚いている。


『クリティカル距離って二刀流にもあるので、バーサーク乱舞で当てるとすぐですよ』


 練習すればできるようになると思う。


『あ、はい』


 ラチカさんの返事がちょっと淡白だったけど、攻撃は続いてるのでよしとしよう。


【コメント】

:草

:クリティカル距離を保つのはクリバスの極意だけど、それ一番難しいやつ

:クリバスはクリティカルバスターの略って揶揄されるくらい大事

:誰でもできるよって気安く言っちゃう鬼畜な鳥

:無自覚系鬼畜バード

:草不可避


 立ち上がった魔狼竜は怒って咆哮したので、フラッシュで再び動きを止める。

 やはり足を狙い、転倒させて尻尾を狙うのくり返しだ。


 立ち上がりそうなタイミングでトラップを仕掛けて、さらに拘束して一気に削っていく。


『わぁ、流れるような作業って、このことを言うんですね』


 とラチカさんが歓声をあげる。

 練習すればできる……と言いかけたけど、さすがに芸がなさすぎるか。


 かと言ってほかに何かいい言葉は出てこない。


『このまま尻尾を斬りますけど、ほかに何かリクエストはありますか?』


 最初に聞けばよかったなとちょっと後悔。


『え、そうですね。背中の棘もできればほしいんですけど。素材的に』


 とラチカさんは言った。

 まあそうだろうな。

  

 一度も勝てなくて困ってたんだから、レア度の高い素材を持っているはずもない。


『棘は報酬で出るか、背中を破壊するかですね』


 と言ってるうちに尻尾が斬れる。


『おっと。尻尾切断に成功したんで、次は背中を狙いますね』


 俺はつけ加えた。


『は、速い。速すぎます』


 ラチカさんが驚いている。


【コメント】

:たしかに速いな

:ラチカちゃんがいままでもたついてたのがウソみたい

:何でこんなに差が出るの?

:そりゃ鳥の装備はウルトラ級だから、ラチカちゃんより断然強いよ

:ずっとクリティカルで殴ってるからね

:クリティカル殴りを続けられるなら、討伐時間が5分は変わるよ



 くちばしも壊したいところだが、それは難しいだろうか。

 入手難易度的には背中の棘のほうが上だから、背中を優先しよう。


『ラチカさんも足を狙ってもらっていいですか? 転倒させて背中を狙いましょう』


『あ、はい。頑張ります』


 ラチカさんは返事をしたあと、銃弾が足に飛んでくる。

 ちょっとぶれてはいるもののの、狙いは正確だと思う。


 ボア先輩のほうが上手いとは思うけど、べつにこの人も下手じゃないな?

 俺は銃弾を食らわない位置に移動し、そこから足を狙う。


 転倒させて背中にバーサーク乱舞を叩き込む。

 立ち上がるとよろよろしながら逃げ出した。


『捕獲できるようになりましたが、どうしますか? まだ背中壊せてないですが』


 と俺は聞く。

 壊さずに捕獲するとなると、報酬で出るかは運次第だ。


『えーっと……このまま倒せそうだとは思うのですけど、それまでに背中って壊せますか?』


 ラチカさんは逆に聞き返してくる。


『ギリギリだと思いますね』


 と俺は答えた。

 このまま俺が足と背中だけ狙って攻撃して、それでも難しい。


 ラチカさんの攻撃も加えるとなるとたぶん無理だろうな。


『あの、このクエストのあと、背中狙いでもう一度魔狼竜をお願いすることは大丈夫でしょうか?』


 とラチカさんに遠慮がちに問われる。


『大丈夫ですよ。じゃあさくっと捕獲してしまいますか』


 俺は即答した。

 彼女のクエストを手伝う時間だと決めてるので。


『はい!!』


 ラチカさんからうれしそうな返事がくる。

 ねぐらに戻って休養してるところを捕獲するのを俺がやった。


『お疲れさまですー』


『やった、勝てた。初めて勝てました!!』


 俺が声をかけると同時に、ちょっと涙ぐんでるラチカさんの声が聞こえる。


【コメント】

:ラチカちゃんめっちゃうれしそう

:ずっと勝てなくて止まってたからな

:泣きそうになってるの俺らも見てたから感慨深い

:同じクエストを連続するのいやがるバスターもいるし

:鳥さんは超強いし、連続OKだから最高の助っ人だね

:だからコラボ許可下りたんだろ



 ラチカさんが苦労しているのを見守っていたわけじゃないけど、コメントを通じて俺にも感慨が伝わってくる。


 黙って見ていると、


『ありがとうございます、バードさん。本当に頼んでよかったです』


 とていねいにお礼を言われた。


『いえいえ。困ってるクエストがあったら何でもお申し付けください。……許可が出たらですけど、いくらでもお手伝いしますよ』


 と返答する。

 クリバスで役に立てるならうれしい。


【コメント】

:これはいい

:てぇてぇとは違うが悪くない

:まあお互いのファンに認知もされるだろうし、いいんじゃないだろうか

:バードウォッチャー、すくなくともピスケスファンとは毛色が違うしな

:コラボの前にログ見てきたらお行儀いい人だらけで驚いた

:あれはお手本になるよな……

:雪クランだって負けたくない。ラチカちゃんに迷惑かけないぞ

:うむ。バード氏も推していこう。ラチカちゃんの次くらいにな

:褒めてもらって恐縮だけど、鳥さんのことだからたぶんコラボのメリット忘れてるよ

:いい話になったところ申し訳ないけど鳥だからな

:残念だけど鳥さんなのよね…

:バードウォッチャーたちがいきなり辛辣で草

:これは草



 コメントを見ておやっと思ったが、すぐに納得する。


『ああ、そう言えばそうだった。緊張しててすっかり忘れてた』


 お相手のラチカさんは業界トップクラスの人気ライバーなんだから、俺が受けるメリットはかなり大きいんだっけ。


 むしろラチカさんのメリットって何? クリバス進めることだけ? レベルで。


『えー!? やだー! バードさんおもしろーい』


 何かツボに入ったらしく、ラチカさんがケラケラ笑う。


【コメント】

:ラチカちゃんのやだーいただきました

:笑い声たすかる

:やっぱり忘れてたか

:緊張してるように見えなかったな

:緊張してたけど、ゲームはじまったら忘れたんでしょ

:鳥さんゲームになるとスイッチ切り替わるもんね

:ラチカちゃん、可愛いし応援したくなるし、人気がある理由わかった



 たしかにいっしょにいて楽しいし、応援したくなるってのはわかる。

 しかも可愛いとか最強だろ。


『あー、クエスト終わったので戻りますね。そしてもう一回やりましょう!!』


 ラチカさんのテンションが何か高くなっている。


『はい。今度は背中壊しですねー。俺もガンナーで行こうと思います』


 と俺は話しかけた。


『あ!? ガンナーですか!?』


 ラチカさんがさっそく食いつく。


『背中狙うならガンナーのほうが楽なんですよね』


『やっぱりそうなんですね!! だからラチカ、ガンナーが好きなんです』


 とラチカさんがハイテンションで同意してくる。

 ああ、なるほど。


『高い場所でも狙いやすいですもんね』


『そうなんですよー』


 ラチカさんがうんうんとうなずいてるのが目に浮かぶようだ。


『ガンナーふたりでやるなら、ターゲット集中こっちでつけますね』


 と告げる。

 たぶんやらなくても魔狼竜はこっちに来ると思うけど、事故を防ぐためだ。


『ガンナー複数だと必要になるんですか!?』


 ラチカさんが驚いている。

 もしかしてターゲット管理の概念に詳しくないのかな?


『クリーチャーの攻撃をひとりに集中させると安定するので。まあ集中されても死なない人がいるのが前提ですけど』


 と答えておく。

 もしかしたら上級者向けの概念なんだろうか。


『なるほど……そんなに上手な知り合いいなかったので、必要を感じてなかったかもです』


 なんてラチカさんは話す。


【コメント】

:そうそう、タゲ集中は狙われるヤツが死なないのが前提になる

:三回死ぬと普通に失敗だもんな

:鳥くらい上手い人じゃないと無意味になるね

:ウルトラ級ソロで勝てるウデがあるならひとまず安心かな

:そもそもガンナーでタゲ集中ってかなりキツイだろ

:普通はできないよ……鳥ならできそうだが


 コメントでも説明が行われている。


『ああ、たしかにガンナーのタゲ集中は接近戦用武器と比べたら難しいけど、そこはまあいっぱい練習すれば』


 できるようになるよとしか言えない。


『あはは』


 ラチカさんに苦笑された。


【コメント】

:出たよ、いつものバード節

:練習すればできるなら、苦労はしねえんだよ!!

:自分を基準だと思ってんじゃねえよ!!

:この人いつもこんな感じなのか?

:ああ、だから天然系鬼畜鳥…

:笑って済ませるラチカちゃん優しい

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