第25話「ラチカさんとコラボ」
ラチカさんとのコラボは水曜日の20時からで、やはり当日の朝サプライズ気味に告知することになった。
連絡が来たのは月曜日、配信が終わったあとだった。
ラチカさんとマネージャーとはリスコードで、猫島さんもまじえて四人で打ち合わせするらしい。
四人でいきなり通話は難しいだろうとチャット形式になったのは、猫島さんのおかげかもしれない。
戸中[初めまして、ピスケスで雪眠ラチカを担当してる戸中と申します]
ラチカ[本日はよろしくお願いします!]
初対面な人たちと初めての打ち合わせだから、チャットでも緊張する。
[初めまして、よろしくお願いします]
最初は定型文を打つだけだけど、心臓が忙しい。
戸中[コラボ企画なのですが、初回ということもあって30分、雪眠の希望もあってクリバスグレート級をとのことですが]
まずは確認からかな?
猫島さんが問題ないと答えている。
打ち合わせと言っても、本人同士じゃなくてマネージャー同士がやってるのを近くで見ている感じ。
ボア先輩は同じ事務所だったけど、今回は他社の人だもんな。
本人同士でやるよりはいいってことか。
知らない相手と何を話せばいいのか全然わからないし、猫島さんがかわりにやってくれるならありがたい。
楽できていいなーなんて思って見ていうちに、告知タイミング、告知方法、配信内容などなど、打ち合わせがひと通りが終わった。
ラチカ[できれば今回かぎりじゃなくて、次もお願いしたいのですけど!?]
沈黙していたラチカさんがここで発言する。
戸中[コラボが成功すれば実現できると思うので、まずは今回の件を成功させるためにベストを尽くしましょう]
ピスケスの戸中さんがもっともなことを言う。
ラチカ[そうですよねー! 上手くいくといいなぁ!]
[頑張ります]
明るめのテンションで返事するラチカさんとは違い、俺は短くてありきたりだった。
対比がすごいなと思うけど、余計なことは何も言わないほうがよさそうだ。
気の利いた言葉なんて全然浮かばないんだから。
打ち合わせは短かった。
ペガサスだから短いんじゃなくて、ライバー業界がもしかして短いのか?
それともゲーム配信だと打ち合わせできることがかぎられてるとか?
どっちもありそうだな。
ちなみにラチカさんとのコラボは、同期たちにも秘密にしておくように言われた。
そういうものなのかな?
そして水曜日の朝、ラチカさんとのコラボを告知した一分後。
モルモ[え!? ラチカさんとコラボなの!?」
ラビ[わたしたち同期なのに何も聞いてませんけど!?]
ふたりから個別で反応が飛んでくる。
反応速いなと驚き、気にかけてもらえてるようでうれしかった。
[いや、発表まで誰にも言うなって口止めされてたんだよ]
モルモ[ああ、そういうこと。他社とのコラボだもんね]
ラビ[インパクトありましたしね]
事情を話すとふたりはすぐに納得してくれる。
ほんとこのふたりはいいよな……照れくさいからメッセージ打てないけど。
モルモ[バード、通知いきなりバズってるよ?]
ラビ[あら本当ですね。バードくん、何回バズっちゃうんでしょうね?w]
ふたりに言われて初めて気づいたけど、俺のツブヤイターアカウントに対する反応がすごい。
だいたいが驚きだった。
そりゃ俺だって驚いたもんな。
[もうバズらなくてもいいよ……]
ライバーは人気がないとお金にならないとわかっているが、心臓に悪いのは勘弁してほしい。
モルモ[無理な話じゃない?]
ラビ[バードくん人気者ですもんね~。今日の配信、楽しみです]
モルモ[ラチカさんを助けてあげてね]
ふたりはそんな風にエールを送ってくる。
遠回しにあきらめろって言われた気がするんだが?
いや、ライバーでやっていく以上はある程度は受け入れなきゃいけないか。
頭ではわかっているつもりなんだよな。
心がついてきてない感じだ。
……とりあえず学校に行こうか。
学校なんて正直いい記憶がないんだが、精神のクールダウン的には使える。
学校に通っててよかったと初めて思ったかもしれない。
「まじかー。ラチカちゃんがほかの男とコラボするのかー」
「ラチカちゃんが男ライバーとコラボするの初めてなんだよな」
「よくピスケスが認めたよなー」
「ラチカちゃん、ゲーム好きだけどそこまで上手くないからな。そこがいいんだけど」
……と思ってた時期は意外とすぐに終わってしまう。
そうだった、ライバーを推してる奴が同じクラスにいるんだった。
ラチカさん、男ライバーとコラボしたことなかったのか。
あれだけ人気あるならすでに経験してると思ってた。
知らん顔をして俺はラノベを読む。
ゲーム機の持ち込みは禁止だからだけど。
そしてコラボの時間がやってくる。
ラチカさんのチャンネルに俺がお邪魔する形だ。
彼女のほうがライバーとして先輩だし、抱えてるファンだって俺の三倍くらいなのだから当然だろう。
【ラチカ&バード】ゲームコラボ配信【ピスケス&ペガサス】
『はーい。ラチカチャンネルはじめるよー。今日はね、お知らせしたとおり、とっても心強い助っ人さんが来てくれるの』
ラチカさんのあいさつがはじまった。
【コメント】
:かわぼ助かる
:今日も清楚
:こん雪
:こん雪
:ラチカちゃんもとうとう男とコラボか
:詰まってたからな……
:俺らも助けたい
たしかにラチカさんの声は可愛くていやされるよなと思う。
ラビさんとはちょっと方向性が違っていて、萌え系とかアニメ声とか言われそうだ。
『じゃあさっそく呼んでみるね。バードさーん』
『こんばんはー』
ラチカさんの呼びかけに応じてあいさつをする。
緊張でドキドキしているが、声には出なくてほっとした。
『今日はよろしくお願いします。ラチカ、男性とのコラボは初めてなので、実はかなり緊張しているのですよー』
とても緊張してるとは思えない口調で、ラチカさんが話しかけてくる。
『俺もメチャクチャ緊張してます……もしかしたらミスするかもしれません』
ウソいつわりのない返事をした。
ミスってもグレート級なら何とかできると思うけど。
【コメント】
:はいダウト
:お前ミスしても強いだろ
:くそ強いくせに何を言ってんだか
:いつもの鳥ムーブだから
:本当は平常運転なんだろう?
:そもそもミスするとは思えないんだが?
:でも緊張してるのは本当っぽい
:どんな男なんだろうと思ったら、素朴な感じか
:こいつゲーム上手いってマジ?
コメント欄は早くもいろんな発言が飛び出ている。
『大丈夫ですよー。いきなり成功できなくても仕方ないですし、そもそもラチカがお願いする側なんですから、気にしないでください』
ラチカさんは優しく答えてくれた。
【コメント】
:これは天使
:これは女神
:いやされる
:ラチカちゃんはやっぱり女神
『うん、ラチカさんは天使だな』
同意できたので思わず言ってしまった。
『やだもう、恥ずかしいです』
ラチカさんには当然聞かれたし、恥ずかしそうに返事される。
【コメント】
:は?
:お?
:まさかと思うが、ラチカちゃんを口説いてる?
:もしそうならギルティ案件だぞ?
:私がいるのにほかの女を口説くなんて!
:雪クランどころかバードウォッチャー的にも聞き捨てできない発言
:鳥のことだからそこまで考えてないだろ……
:鳥さんだもんね
『だってみんなが天使って言うから、つい』
俺は言い訳する。
みんながコメントするのはありで、俺はダメってのは釈然としない。
『ああ、なるほどです。バードさんはそういう方でしたね』
とラチカさんはちょっと動揺しながらも理解を示す。
【コメント】
:知ってた
:やはり鳥は鳥
:こいつ天然かよ
:草
:天然ジゴロじゃない? 大丈夫?
コメント欄はバードウォッチャーかどうかで反応がわかれているようだ。
『えーと、今日はクリバスのお手伝いをしていただくことになってます! バードさん、神強かったですもんね! とっても期待してますよー!』
流れを変えるためか、ラチカさんがテンション高めで言う。
『頑張ります。何を狩るのかそう言えば聞いてなかった気がするんですけど?』
と俺は合いの手を入れつつ、質問する。
グレート級なら問題ないと思うので、あえて事前に聞かなかったのだ。
『実はですね、魔狼竜に勝てないんです。隻眼の魔狼って指定クエストですね』
とラチカさんが話す。
なるほど、あれかあ。
【コメント】
:指定クエストって何?
:上のランク目指すために、クリアしなきゃいけないクエストのこと
:指定クエストを全部自発クリアして、初めてウルトラ級に進むことができる
:ああ、だからラチカちゃんが何回も挑戦して、勝てないって悶えてるのか
:そんなむずいやつ指定クエストとやらにしなくても……
:ウルトラ級は地獄だからね、魔狼竜には勝てないときついと思うよ
指定クエストの説明は必要かなと思ったら、コメントですでに言ってる人がいた。
『でも今日は大丈夫! バードさんがいるから。ね?』
可愛くねって女子に言われる経験がない俺はドキドキしながら、
『グレート級の魔狼竜ならやりこんでるので問題ないと思います』
と答える。
ラチカさんが死ななかったらという前提だけど、言わないでおこう。
『ほんとですか!? やった!』
きゃっきゃっと喜びの声をあげるラチカさんは可愛らしい。
聞いてるだけでいやされると言うか、心が洗われるようだ。
【コメント】
:鳥はウルトラ級の鬼獅子にも勝てるからな。ラチカちゃんが死ななきゃ問題ない
:見た見た。鳥がバケモノみたいな強さだった
:鳥がいるならラチカちゃんは立ってるだけでも大丈夫だろうね
:↑魔狼竜にそれをやると即死でしょ。言いたいことはわかるけど
俺は黙って装備を変更する。
念のためガチなやつでいこう。
『ラチカの装備どうしたらいいと思いますか?』
と相談されたので、
『死にづらさ優先でお願いします』
と答えておく。
死にさえしなければ俺が何とかするという意味だ。
【コメント】
:頼りになる鳥
:ラチカちゃんが死ななきゃ何とでもなる
:ラチカちゃんは自分が死なないことだけ考えればいい
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