2章
第24話「朝起きたらヤバいことになってた件」
今日は平日だから学校である。
最近楽しい日が続いてたから、なおさらギャップがひどくてつらい。
いや、ポジティブに考えよう。
これまでは帰宅後のゲームだけが楽しみだったけど、いまは配信がある。
楽しみが増えたんだからいいことじゃないか。
そう思って朝食をすませたところで、貸与されてるほうの端末から通知音が鳴る。
モルモ[またすごいことになってるわよ]
マネージャー[またまた雪眠(ゆきね)ラチカさんですね]
ふたりからのメッセージを見て、確認しに行く。
ラチカさんが俺とコラボしてみたいとツブヤイターで発言した反響が、かなりあるらしい。
ラチカさんとコラボするのかという質問が、バードアカウントのほうにも来ている。
どうなるのかなんて俺に聞かれてもわかるはずがないんだけどな。
視聴者たちには俺が知ってるかどうか、判断できるはずもないか。
またこの人なのかよ……という気持ちがないと言えばウソになる。
ただ、この人のおかげで俺は高速収益化できたんだから、ライバーとしての恩人になるんだろうな。
とりあえず気になったことを猫島さんに聞いてみる。
[いいんですか、この発言?]
マネージャー[さすがに公式の許可なしの発言じゃないと思います。念のため、どういう意図があってなのか、こちらから問い合わせしますね]
彼女の返事を見て、そりゃ独断はありえないかと納得した。
個人ライバーならともかく、雪眠さんは大手所属の大人気ライバーだもんな。
[じゃあ俺はそれまで何も言わないほうがいいですか?]
マネージャー[ええ、その判断は正解です]
猫島さんの返事に小さくうなずく。
やっぱりこの段階で俺で何か言うのはよくないのか。
どう発言するのが正解なのかわかんないし……とりあえず学校に行こう。
学校はいつも通りぼっちだった。
みんないろんな話題で盛り上がってて、配信者の話にもなっている。
「ラチカちゃん、バードって配信者がお気に入りなのかな」
スルーしていたら気になる単語が聞こえてきた。
「鳥のゲーマー? あいつメチャクチャ上手いもんな。ゲーム好きなら、気になるんじゃないかな」
「あいつ女ライバーとのコラボ多すぎじゃね?」
「たまたまだろ」
何と俺やラチカさんが話題に出ているらしい。
文脈的にラチカさんのファンがクラスにいて、そのおかげで俺の存在も認知しているって感じだった。
まあラチカさんのチャンネル登録者は130万だもんな。
クラスにひとりくらいファンがいてもおかしくないレベルだ。
ファンの数がミリオンっていったいどういう次元なんだろう。
俺にはとても想像できないよ。
もちろん、俺がそのバードの中身だと知られるはずもない。
事務所から借りてる端末、学校には持ってきてない。
万が一見られたら言い訳が難しいアイテムだからだ。
学校での時間は今日もいつもどおりに過ぎていった。
放課後、帰宅部の俺は急ぎ足で自宅に戻る。
俺のいる場所は学校じゃないと思うのだ。
と言っても俺の配信時間は19時半なので時間はある。
それまでは時間に余裕があるな。
ゲーム配信がいまのところウケがいいから、ウケそうなプレイについて考えてみたほうがいいかもしれない。
もっとも何でウケてるのかイマイチわかってないのが俺のつらいところだ。
そういうわけでさっそく猫島さんに相談してみよう。
……そう言えば雪眠ラチカさんの件はどうなったんだろう?
個別メッセージが来てないってことはまだ決まってないのかな?
普通に考えて大手の人気ライバーと、中小ペガサスの新人のコラボは実現しないだろう。
いろんな点で格差が大きいと思うのだ。
自分で自分の考えにちょっと安心して、猫島さんに相談とあわせて質問を送ってみよう。
[雪眠さんの件はどうなりましたか? あとどうせやるならウケる配信がいいと思うんですが、何がウケるのかよくわかってなくて……相談させてもらえませんか]
返事はすぐに来た。
マネージャー[コラボをやることは先ほど決まりました。配信内容ですが手ごわいと言われているクリーチャーをソロで倒していくというのはいかがですか?]
「ええええ!?!?!?」
画面を見て思わず叫んでしまう。
[え、コラボ決まったんですか!?]
返信する手は震えたし、心臓もバクバクいっている。
え、ウソだろ……!?!?
[決まりました。向こうの事務所も乗り気でした。バードくんはいま勢いがありますし、ゲームコラボならハードルが低いだろうと。ボアさんとのコラボが好評だったのが決め手になったようです]
猫島さんの淡々と冷静な返事は、すこしだけだが俺を落ち着かせる効果もあった。
なるほど、と思う。
ゲームならたしかにラチカさんも好きらしいもんな。
それにしてもボア先輩とのコラボの成功が決め手になるなんて、世の中何がどう転がるかわかんないもんだ。
……いや、べつに失敗なんてしたくなかったけど。
[わかりました。とりあえずクリバスで強いって言われてるクリーチャーを倒す方向で考えてみます]
似たよな配信だとあきられないかな?
それを防ぐためのコラボかな?
なんて思いながら返事をする。
マネージャー[さすがに今日明日はないと思うのですけど、ラチカさんがちょうどクリバスの攻略で困ってるらしいので、助っ人で呼ばれたという形でコラボすることになりそうです]
猫島さんのレスポンスは早かった。
文面して俺は納得する。
クリバスで勝てないやつがいるから、対策として俺が呼ばれるのか。
流れとしてはボア先輩のときと同じパターンだと言えるだろう。
だったらラチカさんファンに叩かれる心配もすくなそう。
そしてそういうことなら、ラチカさん配信を見てみたほうがいいかな。
あと、みんながどのクエストで詰まりやすいのか、調べてみるのもアリか。
練習すれば勝てるでしょ? というのは自分の配信枠で言うならともかく、他人に言ってはいけない。
それはマナー違反のマウントだというのはさすがの俺でも理解できる。
まずは難関扱いされているクエストを調べてみよう。
凶怖竜、鬼獅子、それから魔狼竜、それから災龍と呼ばれる大ボス枠の一部か。
災龍はHPが通常クリーチャーより高く、効率よくダメージを与えていく練習をしないとしんどい敵だ。
ソロで俺が勝てないやつはいないので、ラチカさんの助っ人ならできそうだ。
と思ったものの、念のためにラチカさんの配信ログをチェックしてみよう。
どれくらい上手なのか、あるいはメインで使う武器は何なのかで、俺の立ち回りは変わってくるもんな。
……ラチカさんがいまやってるのはグレート級だった。
ソロはあんまりやってないようで、ログを見るかぎり基本的に誰かとプレイしている。
グレート級をソロだと厳しいくらいの腕だと想定しよう。
ボア先輩のときより俺が求められることは多くなる。
まあ死なない立ち回りさえしてもらえるなら、あとは何とかなると思う。
上級、グレート級、ウルトラ級の三つは最初の配置運もからんでくるので、過信は禁物だが。
さて、このあとはグレート級でちょっと練習して、ウルトラ級を配信してみる。
【コメント】
:相変わらずのバケモノ
:安心の鳥さん
:コラボもいいけど、単品もいいよね
:鳥さんの声、聴いてるだけで落ち着く
:先輩とのコラボ解禁ご祝儀 ¥20000
『え、赤スパ? ありがとう。でも無理しないでくれ』
コラボのときは来なかった気がするな。
いや、コメント欄全部見ていたわけじゃないから、見落としてただけか?
【コメント】
:次のコラボの予定はある?
:ボアちゃんと解禁になったんなら、ほかの1期生ともありなのでは?
:そう言えばラチカちゃんがやりたいって言ってたな
:ツブヤイターで言っただけだからわかんないでしょ
:また大物来たな……
:ペガサスナンバーワンの次はピスケスナンバーワンか
:ラチカちゃんはVライバーの中でもトップクラスでしょ
:鳥さん、一気に駆け上がっていくねえ
なんて思っているうちに話題が変わった。
何か決定事項みたいに言われているな。
否定したのほうがいいのか?
でもコラボ決まったのに否定するのはどうなんだ?
いや、発表がまだの段階で認めるほうがヤバいか。
『え、ラチカさんが何か言ってたの?』
とりあえずとぼけてみることにする。
【コメント】
:草
:さすがに草
:知らないのは変だろうと言いたいけど、鳥だとガチで知らないかも
:わかりづらくて困る
:コラボ決まっててもまだ言えない段階ってことでしょ
:そっとしておくのがマナー
よかった、どうやら白々しくはなかったみたいだ。
俺の枠によく来てる人たちがわかりづらいなら、バレないだろう。
『とりあえずマネージャーと相談して、クリバスのウルトラ級をソロでやっていくことにしたよ。みんなのリクエストとかある?』
やることは決めていたが、一応視聴者の意見も聞いてみる。
もしかしたら俺が思いつかないアイデアが出るかもしれないからだ。
それにこうして質問するのは、視聴者たちに一体感を与えられていいらしい。
【コメント】
:ウルトラ級の山岳龍ソロ
:凶怖竜と豪王竜同時、もちろんウルトラ級
:クリバス詳しくないから……ウルトラ級がいいんじゃない?
:覇壊龍ソロ、当然ウルトラ級
:隻眼の魔狼竜、ウルトラ級は?
:みんなウルトラ級なんだな
:↑そりゃ鳥だもの
:鳥だとグレート級だってぬるいから、ウルトラ級一択だろ
当たり前なんだろうけど、みんなウルトラ級のリクエストだな。
『うん、ウルトラ級ソロなのはいいよ。俺もそのつもりだから。どれが見たいのかなーって単純に思ってね』
と理由を説明する。
むしろそれはみんな要求するだろうと思っていた。
『山岳龍と覇壊龍は時間かかるなー。一度に60分あれば大丈夫だと思うけど、念のため日をわけたほうがいいかも。今日は山岳龍だけにしようか』
と答える。
ほかのクエストはべつの日にやるとしよう。
リクエストしてくれた人たちは来てくれると信じて。
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